逆​上がりが​できない​——練習の​順番と、​家庭での​関わり方

出典4件・すべて一次情報にリンク

鉄棒に取り組む子どもの線画イラスト

「何度やっても回れない」「自分だけできない」と子どもが言った日は、見ている側のほうが焦ります。

結論から言うと、逆上がりは学校の資料でも「発展技」に位置づけられていて、できない時期があること自体は、めずらしいことではありません。

数字でも同じです。小学3年生47名を対象に、6時間の鉄棒運動の単元を行った実践報告では、6時間目の逆上がりの達成率は55.3%で、1時間目と比較して14.9%増加したと報告されています(針谷, 2022)。おおむね2人に1人、という水準です。ただし、これは1つの学級での報告で、全国の平均ではありません。読み分けは次の節に書きました。

そのうえで、家で始めるのは、数秒のぶら下がりからで足ります。回る練習からではありません。

安全の確認点は「家庭でできる準備と、補助のしかた」の節にまとめています。鉄棒に触る前に、そこだけ先に読んでください。鉄棒は転落による事故が起きている遊具で、場所と服装の条件を整えるほうが先です。

この記事では、練習をどの順番で進めるか、どこまでを家庭でやるかを、安全の条件とあわせて整理します。研究で確かめられている範囲と、指導現場での扱いは、はっきり分けて書きます。

逆​上がりは、​学校の​資料でも​「発展技」です

スポーツ庁「小学校体育(運動領域)指導の手引」の高学年「鉄棒運動」の資料では、支持系の基本的な技の例に、前回り下りやかかえ込み前回りなどとともに補助を使う補助逆上がりが挙げられ、補助なしの逆上がり発展技の例のほうに挙げられています。

授業ではどのくらいの児童ができるのでしょうか。小学3年生47名を対象に、6時間の鉄棒運動の単元を行った実践報告(針谷, 2022)では、6時間目の逆上がりの達成率は55.3%で、1時間目と比較して14.9%増加したと報告されています。同じ単元の前回り下りの達成率は95.1%(1時間目比10.6%増)、足抜きまわりは83.0%(同19.1%増)でした。逆上がりだけ、おおむね2人に1人という水準です。

小学3年生47名を対象とした6時間の鉄棒運動の単元で、6時間目の達成率は前回り下り95.1%、足抜きまわり83.0%、逆上がり55.3%。
6時間の単元の最終時に達成が確認された児童の割合(出典: 針谷, 2022)。1つの学校の1学級(小学3年生47名)を対象とした実践報告で、学会大会の発表抄録として報告されたものです。全国の平均でも学年ごとの到達基準でもなく、この割合をもとに特定の学年でできるべきだと判断することはできません。

またこの抄録では、先行研究(針谷ほか, 2019)の報告として、第1・2学年のいずれでも鉄棒運動の学習で80%以上の児童が低学年の技能を習得した一方、低学年の学習内容を網羅しても、半数近い児童は逆上がりができるようにならないという課題が残された、と紹介されています。

読み分けが2点あります。55.3%はある1学級での実践報告で、他の学校・学年に当てはめられる値ではないこと。そして、達成率が半分程度だったことを、子どもの側の問題として読まないことです。これらの報告で課題に挙げられているのは、指導の方法や教材の順番のほうでした。

家庭で​できる​準備と、​補助の​しかた

学校の資料でも、いきなり逆上がりを繰り返すのではなく「技につながる運動遊び」や補助・補助具を使った段階を選ぶ形が示されています。この考え方のうち、ぶら下がりなどリスクの低い準備の部分は家庭でも参考にできます。ただし学校と同じマット・指導条件は家庭にはないため、技によっては家庭で行わない判断が必要です。そして鉄棒は転落による事故が起きている遊具のため、条件を整えるほうが先です。

まず、​場所と​身なりの​確認から

消費者庁が公表した資料(消費者庁, 2016)では、遊具による子供(0〜12歳)の事故情報1,518件(平成21年9月〜平成27年12月末日までの登録分)のうち、入院を要する、または治療期間が3週間以上となる事故(「中等症」以上)が397件と3割近くを占めると報告されています。受傷のきっかけが分かっている1,501件では「転落」が974件と最も多く、危害部位は事故全体で「頭部」が872件と6割近くを占めます。遊具の種類が特定できた1,369件の内訳は、滑り台440件、ブランコ233件、鉄棒141件などでした。なお、この集計は公園や学校等に設置された遊具が対象で、家庭内での使用が明確なケースと、授業など指導中であることが明確なケースは除外されています。

同資料の注意点のうち、鉄棒で遊ばせるときに関係が深いのは次の項目です。

  • 服装や持ち物:ひもやフードの付いた子供服、肩に掛けるかばん・リュックのベルト等は遊具に引っ掛かる可能性があると指摘されています。同資料では、引っ掛かり・絡まりによる死亡事故が2件あったこと、首を締め付ける事故は命に関わることが明記されています。
  • 天候:屋外の遊具には、夏場に表面の温度が80度近くになるものや、雨に濡れて滑りやすくなるものがあると示されています。
  • 不具合・破損:部品の緩みや腐食などを見付けたら利用を控え、管理者に連絡するよう求められています。
  • 年齢と付き添い:施設や遊具の対象年齢を守ること、6歳以下の幼児には保護者が付き添うことが挙げられています。

学校側の資料でも、鉄棒の下にマットを敷くこと、活動する場所の危険物を取り除くこと、服装や髪形に気を配ること、肩・首・腕・腰・手首・脚などをほぐす準備運動を行うことが、指導上の留意点として示されています(スポーツ庁)。家庭で公園の鉄棒を使う場合、マットは用意できませんが、下が土や砂、ゴムチップかどうかは選べます。コンクリートやアスファルトの上にある鉄棒は避けるほうが無難です。

鉄棒の高さは、指導上の目安として、本人の胸からみぞおちくらいの高さが扱いやすい高さです。これは研究で定められた基準ではなく、現場での扱いです。高すぎるとぶら下がるだけで力を使い切り、低すぎると足を振り上げる余地がなくなります。公園に複数の高さがあれば、まず低いほうから試してみてください。

準備になる​遊び

スポーツ庁の手引では、技につながる運動遊びとしてツバメ、ふとん干し、こうもり、足抜き回りが挙げられ、これらを組み合わせて主運動につなげる流れが示されています。また学習の約束の例として、「できる技から無理なく取り組み、できた技はその発展技にも挑戦しましょう」と書かれています。

ここからは指導上の扱いです。家庭で取り組みやすいのは、次のような順番です。

  • ぶら下がり:数秒からで十分です。手のひらが痛い、滑ると感じたら終わります。マメができ始めたらその日は終了にしてください。
  • ツバメ:鉄棒に跳び上がり、腕を伸ばして体を支えます。逆上がりの最後の局面(腰を上げて上体を起こす)につながる姿勢です。
  • 足抜き回り:鉄棒を握ったまま足を手の間から通します。回る感覚と、体を丸めたままにする感覚に慣れる遊びです。失敗すると頭や首から落ちる可能性があるため、家庭で行う場合は低い鉄棒で、大人がすぐ支えられる位置につき、下が硬い場所では行わないでください。
  • 布団やマットの上で丸くなる遊び:あお向けで膝を抱えて丸くなる、そのまま前後に揺れる(ゆりかご)など。鉄棒を使わずに体を丸めたまま保つ感覚だけを取り出せます。回転そのものへの怖さがある場合は、ここから入ります。

なお、上の「こうもり」(膝を掛けて逆さにぶら下がる動き)は、学校では教員がついた場でマットを敷いて扱われるものです。家庭で保護者だけで行うのは、頭から落ちるリスクを考えると勧められません。同じように、鉄棒の上で立つ、飛び降りるといった遊び方は避けてください。消費者庁の資料でも、本来の使い方でない遊び方による大きなけがの事例が挙げられています。

補助の​しかた

ここも指導上の扱いです。研究が検証した手順ではありません。

  • 位置:子どもが回っていく側、つまり背中側に立ちます。真横や正面に立つと、振り上げた足がぶつかることがあります。
  • 支える場所:腰やお尻の下あたりに手を添えて、上に持ち上げる方向で支えます。強く押し上げて無理に回そうとしないでください。回ってしまうことより、「鉄棒とおへそが近いまま上がっていく」感覚が残るほうを優先します。
  • 声かけ:直す点を一度に何個も言わないほうが進みます。その日の目標を1つだけ決めて、できた部分を具体的に伝える形が現実的です。
  • 補助具:逆上がり補助板やベルトを使うことは、学校の枠組みでも段階の1つです。スポーツ庁の手引でも、逆上がりが苦手な児童への配慮の例として「補助具を利用して足を振り上げながら後方回転をする」が示されています。
  • 終わり方:疲れてきたら回数を重ねるより終えるほうが安全です。腕で体を支える動きは、疲れると急に支えられなくなります。手首・肩・腰の痛みを訴えたとき、こわがっているとき、体調がすぐれないときは、その日は中止してください。頭や首を打った場合は、様子を見るより先に医療機関にご相談ください。意識がもうろうとする・繰り返し吐く・けいれん・手足のしびれや動かしにくさがあるときは、首をむやみに動かさず、直ちに救急要請してください。これらは例示であり、当てはまらなくても痛みや不調が続くときは受診をご検討ください。

なお、補助ありから補助なしへどのくらいの期間で移るか、どんな順番が有効かを比較検証した研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。補助の力を少しずつ減らしていく進め方をとりますが、これも指導上の扱いです。

くわしい​整理:何が​難しいのか——研究が​示した​5つの​段階

逆上がりの観察評価に潜在ランク理論(対象者を連続した点数ではなく段階的な「ランク」に分けて捉える統計の考え方)を適用した研究があります(佐野ほか, 2023)。小学生80名と、体育会に所属する大学生32名の逆上がりをビデオ撮影して評価したもので、6段階モデルを採用した結果、技術獲得前に3つのランク、技術獲得後に3つのランクが抽出され、そこから5段階の動作目標が設定されています。

表:逆上がりについて報告された5段階の動作目標

段階抄録に示された動作目標
Goal 1上方向へ踏み切る
Goal 2大きく前へ踏み出す
Goal 3体を鉄棒に近づけたままにする
Goal 4両脚を締める
Goal 5腰を上げ、上体をスムーズに立ち上がらせる

※出典:佐野ほか(2023)の抄録に示された5段階の動作目標に基づき作成。Goal 1 と Goal 5 は和文抄録の表記、Goal 2〜4 は同論文の英文抄録の記述に基づく訳です。授業や実技指導で活用されることを想定して設定された目標であり、家庭でそのまま採点表として使うことを検証したものではありません。

もう一点、すべての習熟度ランクが、小学校の各学年と大学生の両者に出現したとされている点も見落とせません。学年が上がれば自動的に上のランクに進むわけではなく、体育会に所属する大学生の中にも、技術獲得前の段階にいる人がいた、ということになります。

ここから先は、研究が検証した手順ではなく、指導上どう扱っているかの話です。個人差があります。上の5段階のような枠組みは、「今どこで止まっているかを1つだけ選ぶ」ために使います。全部を一度に直そうとすると、本人にも何が変わったのか分からなくなりやすいためです。つまずきやすいのは、(1)腕が伸びきって体が鉄棒から離れる、(2)足の振り上げが低い、(3)腰が鉄棒の高さで止まる、といったところです。(1)に対して試すのは、胸を鉄棒に近づけて数秒キープする「引きつけ」だけの練習です。(2)には、少し高い台を使って回りやすくし、回る感覚を先に覚えてもらう進め方もあります(台を使うときは、H2「家庭でできる準備と、補助のしかた」の安全の条件を先に満たしてください)。どこが今日のあと一歩だったかを1つ見つけて、次はそこだけを見る。この考え方は体育の「できた」を助ける声かけ縄跳びが跳べないときと共通しています。

できるまでの​時間には、​大きな​個人差が​あります

逆上がりの習熟の段階は学年で決まっておらず(佐野ほか, 2023)、どのくらいの期間で進むかを一般化できる根拠は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。「この学年までにできるようにしたほうがいい」と言える根拠も同じです。すべての習熟度ランクが各学年にも大学生にも出現したという報告は、「学年が上がれば進む」でも「今できない子は今後もできない」でもなく、同じ学年の中に幅広い段階が並んでいることを示すものです。

ここからは、研究の結論ではなく、指導上の目安です。逆上がりは「少しずつ近づいて、ある日つながる」ように進むことがあります。変わらないように見えていた時期のあとに、体が一回り大きくなってから回れるようになる場合もあります。体の育ち方には数年分の幅がありますから、同学年で比べる意味は小さくなります(発達期の考え方はゴールデンエイジを過ぎたら手遅れ?で扱っています)。

家庭では、「量を増やすこと」より「条件を整えること」を優先します。鉄棒は、場所と高さと体の状態が変わるだけで、同じ子の動きが変わるからです。安全な場所を選ぶ、短い時間で終える、今日の目標を1つに絞る、比較の言葉を使わない。進め方に迷うとき、走る・跳ぶ・支えるといった体の使い方を対面で見てほしいときは、子ども向け指導のご案内もご検討ください。かけっこと基礎運動を、少人数のグループで扱っています。

まとめと、​次の​一歩

  • 紹介した達成率は1つの学級での実践報告(学会大会の発表抄録)で、全国の平均でも学年ごとの到達基準でもありません。できるまでの時間には大きな個人差があります。
  • 逆上がりは、スポーツ庁の高学年「鉄棒運動」の資料でも支持系の発展技の例で、補助を使う「補助逆上がり」が基本的な技の例に位置づけられています。小学3年生47名・6時間の単元の報告では、6時間目の達成率は逆上がり55.3%、足抜きまわり83.0%、前回り下り95.1%でした(針谷, 2022)。
  • 逆上がりの習熟は段階に分かれ、5段階の動作目標が設定されています(佐野ほか, 2023)。同研究では、すべての習熟度ランクが小学校の各学年と大学生の両者に出現したと報告されており、学年で段階が決まるものではないと考えられます。
  • 家庭では、ぶら下がり・布団の上で丸くなる遊びなど、リスクの低い技につながる動きから入るのが現実的です(足抜き回りは低い鉄棒+大人がすぐ支えられる位置+柔らかい地面が条件)。補助は背中側に立ち、腰やお尻を上へ支える形で、強く押し上げないのが指導上の扱いです。これらは研究が検証した手順ではありません。
  • 安全が先です。遊具による子供の事故1,518件のうち中等症以上が397件を占め、受傷のきっかけでは「転落」が最多と報告されています(消費者庁, 2016)。ひも・フードの付いた服やかばんを外す、下の地面と遊具の状態を確認する、疲れたら終える。痛みや強い怖さがあるときは中止し、頭や首を打った場合は医療機関へ(意識障害・嘔吐・けいれん等があれば直ちに救急要請)。

今週末、公園で鉄棒を1つ選んでみてください。胸からみぞおちの高さで、下が土か砂かゴムチップのもの。初日は数秒のぶら下がりだけで終えてかまいません。

関連リンク


参考文献

  1. 佐野孝, 保田和奏, 長野崇, 上田恵子, 國土将平 (2023). 「鉄棒運動の逆上がりにおける潜在ランク理論を用いた段階的な動作目標の設定:小学生及び大学生の動作資料に基づく検討」『発育発達研究』2023(95), 104–125. doi:10.5332/hatsuhatsu.2023.95_104
  2. 針谷美智子 (2022). 「小学校体育授業における鉄棒運動の逆上がりに関する学習指導方略の検討」『日本体育・スポーツ・健康学会予稿集』第72回大会, 376(発表抄録). doi:10.20693/jspehssconf.72.0_376
  3. スポーツ庁 (2022). 『小学校体育(運動領域)指導の手引 ~楽しく身に付く体育の授業~』高学年「B 器械運動 鉄棒運動」. 資料一覧鉄棒運動(高学年)PDF
  4. 消費者庁 (2016).「遊具による子供の事故に御注意!」(平成28年2月10日 News Release). PDF
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人に対する医学的助言・診断・治療を目的とするものではありません。体調や既往症に不安がある方は、必ず医師等の専門家にご相談ください。運動実施による結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。

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