ゴールデンエイジを​過ぎたら​手遅れ?​——運動神経は​遊びで​育つ、の​中身を​確かめる

出典4件・すべて一次情報にリンク

ボールを追いかけて走る子どもの線画イラスト

「ゴールデンエイジは9〜12歳」「運動神経は6歳で80%決まる」。こうした記事を読んだあとで、うちは始めるのが遅かったのではないか、と気持ちが急ぎます。

先に答えを置きます。ゴールデンエイジを過ぎたら手遅れ、という受け止め方はしなくて構いません。

そして、その根拠になっている数字のほうを先に確かめます。よく引かれる「神経系は6歳で80%」という数字は、原典を読んでも見当たりません。測っているのは脳や眼球の重さと頭のまわりの長さで、動きの上手さではありません。

表:よく聞く言い方と、そのもとになっているもの

よく聞く言い方もとになっている資料そこで測られている(扱われている)もの
「神経系は6歳で80%完成」1930年に発表された発育曲線(Scammon, 1930)。ただし「80%」という数字は、原典の本文には出てきません脳や眼球などの重さと、頭のまわりの長さ。縦軸は「生まれてから20歳までに増えた量の何%か」
「ゴールデンエイジは9〜12歳」この言い方そのものの出どころは、はっきりしません。近い内容を学術的に扱った枠組みとしては、発達段階ごとの重点の置き方を示したもの(Lloyd & Oliver, 2012)がありますどの時期にどの要素へ比重を置くか。要素そのものはどの時期も扱われる

※ どちらも、運動の上手さがいつ決まるかを測った資料ではありません。次の2つの節で、それぞれ中身を確認します。 ※出典:1行目は Scammon (1930) の本文と図のキャプション、2行目は Lloyd & Oliver (2012) をもとに当スクールで作成しました。

いわゆる適齢期を過ぎてから運動を始める場合も、ここから伸びる前提で進めて構いません。中学で初めて陸上に来た子が、3年のあいだに走りを変えていく場面には何度も立ち会ってきました。

この記事では、「間に合わなかったのでは」という焦りのもとになっている数字を確かめたうえで、今週末の公園で何をするかまで具体にします。

「6歳で​80%」は、​何を​測った​数字か

この数字のもとをたどると、1930年に発表された発育曲線(Scammon の発育曲線)に行き着きます。原典は、Harris らの著書『The Measurement of Man』(ミネソタ大学出版)に収められた Scammon の章です(Scammon, 1930)。

この本は、インターネット・アーカイブで全文が公開されています(原典はこちら)。以下は、その原典を読んで確認した内容です。

まず、何を測ったものか。神経型の曲線は、6つの測定値からできています。脳全体・小脳・脳幹・眼球・松果体の重さと、頭のまわりの長さ。走る・跳ぶ・投げるといった運動の測定値は、一つも入っていません。原典自身が、この型の名前について「これらはいずれも神経系の構造か、それに関連する構造だから」という理由でそう呼んだ、と書いています。

次に、グラフの縦軸が何か。図のキャプションには、各測定値を「生まれてから20歳までに増えた量に対する割合」に直してそろえた、と書かれています。つまり縦軸は、生まれた時点を0、20歳を100として、その間のどこまで来たかを示す目盛りです。「大人の値の何%」ではありません。生まれた時点の値がゼロ扱いになるので、2つは別の数字になります。

そして、「80%」という数字です。原典の該当章に、この数字は見当たりませんでした。原典が神経型について本文で述べている量は、「幼児期の終わりまでに、成人サイズの3分の2以上に達する」というものです(こちらは成人サイズを基準にした記述で、さきほどのグラフの縦軸とは基準が違います)。年齢も「幼児期の終わり」とあるだけで、具体的な歳は示されていません。

なお、この曲線は今も発育の説明に使われています。たとえば、あごの骨の育ち方を三次元の画像で調べた近年の論文では、神経型の構造(たとえば頭蓋)が5歳で成人の大きさの80%に達する、という書き方をしています(Kelly et al., 2017)。子どもの運動発達を調べた研究ではありません。そう紹介されていること自体は事実ですが、原典の本文にその数字を見つけることはできませんでした。

最後に。原典は、これらの曲線を「半ば模式的なもの」と自ら述べています。実測した点をそのまま結んだグラフではない、ということです。

つまり、この曲線が扱っているのは器官の重さや頭の大きさであって、走る・跳ぶ・投げるといった動きの上手さではありません。「運動神経の発達度が◯歳で◯%」という言い方は、器官の大きさの話を動きの上手さの話に置き換えた読み方になります。

「6歳」と紹介されることも「5歳」と紹介されることもありますが、ここで大事なのは何歳かのほうではなく、何を測った数字なのかのほうです。

この曲線は、身体活動や運動技能とのつながりを検証したものではありません。ここから「だから◯歳までに始めなければならない」という結論は導けません。

この数字を紹介している記事が誤っている、という話ではありません。もとの資料が何を測ったものかを一度確かめておくと、焦りの置きどころが変わります。

「ゴールデンエイジを​過ぎたら​手遅れ」と​考えなくていい​理由

ゴールデンエイジとは、一般に9〜12歳頃のこと。神経系が発達し、動きを覚えやすい時期として広まった言葉です。動きを教える現場でも、便利な区切りとして使われてきました。目安としては役に立ちます。

引っかかるのは、そこに「過ぎたら伸びない」という含みが足されるときです。中学生になってから始めた子は、もう遅いのでしょうか。

子どもの長期的な発達を扱った枠組み(Lloyd & Oliver, 2012)では、発達の段階ごとに比重の置き方が変わるだけで、どの要素も発達期間の全体を通じて扱われています。段階ごとの重点を、2つに簡略化して並べます。

表:発達段階と、重点を置く主な体力・運動要素(YPDモデルの考え方)

発達段階この時期に重点を置く主な要素
思春期前(およそ小学生の時期)基本的な動作(走る・跳ぶ・投げる・捕る・バランス等=動きの基礎)の習得、スピード、敏捷性、筋力(主に神経系の適応による)
思春期以降専門的なスポーツ技術、パワー、筋肉量の増加(ホルモン変化にともない比重が高まる)

※出典:Lloyd & Oliver(2012)「Youth Physical Development Model」の男子モデルを、当スクールが2段階に簡略化して整理したものです。女子には別のモデルが示されており、重点の時期は性別や成熟の早い遅いで変わります。また原モデルでは、どの要素も発達期間の全体を通じて扱われており、この表は「比重の置き方が変わる」ことを示すもので、思春期以降に基本動作や筋力が不要になるという意味ではありません。

「動きの基礎を遊びで広げやすい時期」として受け止めるほうが、実態に近いと言えそうです。

大事なのは、​動きの​種類を​増やしておく​こと

では、この時期に何を大切にするか。研究と現場の蓄積から浮かぶのは、ひとつの動きを早くから極めることより、いろいろな動きを幅広く経験することの価値です。

走る、跳ぶ、投げる、捕る、バランスをとる。こうした基本的な動きが身についているかどうかは、その後に体を動かし続けるかどうかと結びついていく、という見方が示されています。動きが上手になる、体を動かすのが楽しくなる、もっと動く。この循環に乗れるかどうかが、その後の運動習慣と結びつくと報告されています(Stodden et al., 2008)。動きに苦手意識が強いと運動そのものから遠ざかりやすくなる、という逆向きも同じモデルで扱われています。

ここまでは集団の傾向を説明したモデルの話で、一人ひとりの将来を決めるものではありません。育つ速さや得意・不得意には大きな個人差があり、同じ学年でも体の成熟度は数年分ばらつきます。

見る先は、周りの子との差ではなく、少し前のその子自身です。

家庭で​できる​遊び——動きの​引き出しを​増やす

特別な道具も、広い場所も要りません。ひとつの動きを繰り返すより、いろいろな動きを少しずつ混ぜること。

遊びの最中に痛みを訴えたり、動きをいやがったりするときは、無理をさせないでください。痛みが続く場合は医療機関にご相談ください。頭や首を打った場合は、様子を見るより先に医療機関にご相談ください(受診の目安は室内で体を動かすときの安全の確認点に整理しています)。楽しく続けられる範囲であることが前提になります。

そのうえで、当スクールの種目ガイドから、家庭で取り組みやすいものを挙げます。ここから挙げるものは、研究が検証した手順ではなく、指導上の扱いです。

外や公園でできる遊び

  • スキップ:リズムよく弾む動きで、走りに必要な「地面を押して弾む」感覚を遊びながら養えます。最初はぎこちなくても構いません。何週間か続けて、リズムが出てくるのを待ちます。手順はスキップのガイド
  • ケンケン、鬼ごっこ:片足で弾む、急に方向を変える、追いかけて逃げる。走・跳・バランス・反応が自然に混ざるので、昔ながらの外遊びは動きの引き出しという意味で理にかなっています。

家の中でできる遊び(跳ばない・音が出にくいもの)

雨や冬で外に出にくい日は、こちらから。条件を「半畳から1畳で成立する」「階下に響きにくい」「新しく買い足さない」の3つに絞ると、候補は思ったより残ります。これらの遊びで活動量が何分増えるかを検証した研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。

先に室内で体を動かすときの安全の確認点の範囲設定を済ませてから試してください。以下は候補であって、順番にこなす課題ではありません。

  • どうぶつ歩き:クマ歩き(手と足を床につけて進む)、カニ歩き(横向きに進む)。全身を協調して使う経験になり、体幹や肩まわりの土台づくりにもつながるとされています。廊下を1往復するだけでも全身を使います。親子で競争にすると、こちらが止めるまでやめないこともあります。やり方はどうぶつ歩きのガイドに。
  • 片足立ち:片足立ちのまま靴下をはく、目を閉じて何秒立てるか数える。目を閉じる形は倒れる方向を自分で調整できないので、壁のそばか、大人がすぐ支えられる位置で。
  • 座ったままの押し合い・引っぱり合い:向かい合って座り、手のひらを合わせて押す。タオルの端を持って引っぱる。立って行わないのが安全上の前提です。背中側に倒れる余地を残した場所で行い、タオルは首や指に巻き付けないこと、急に手を離さないことを、始める前に約束にしておいてください。
  • だるまさんがころんだ:急に止まる動きが入ります。走らせず、早歩きで行ってください。
  • 手伝いを遊びにする:洗濯物を運ぶ、片づけを数える。生活の中の移動をそのまま使えます。勝ち負けを競う形にせず回数や秒数を数える形にし、両手がふさがった状態で階段を使う運搬は入れないでください。

どの遊びも、1回5分で構いません。跳ぶ遊びを入れたいときは、頭の上にあるものの確認と、階下への音の配慮が別に要ります(室内で体を動かすときの安全の確認点)。着地の音を小さくする練習はジャンプ&やわらか着地のガイドに。

進め方は、時間や回数のノルマを決めるより、「もう少しやりたい」くらいで切り上げるほうが続きます。たとえば夕方の公園で、あと5分と言われたところでやめておく。次に誘いやすい形で終えるためです。うまくできないところを指摘するより、「今の動き、変わってきたね」と変化を言葉にすることを勧めます。声のかけ方は体育の「できた」を助ける声かけにまとめました。ほかのアイデアは子ども向け種目ガイドにあります。

現場から​:​「うまくなる​こと」より​「やり続ける​こと」

この時期は、技術の完成度より、運動を好きでい続けられるかどうかを優先します。早くから結果や順位を求められると、運動そのものから離れてしまうことがあるからです。

だから家庭では、「速くする」「勝たせる」を急ぐより、「今日も体を動かして楽しかった」を積むほうを、まずおすすめしています。運動会など目標の日があるなら、そこから逆算して練習の置きどころを整えるのも手です。時期配分はいつから始めるかを逆算するカレンダーで組み立てられます。いまのタイムが同じ学年のどのあたりかは50m走の平均タイムで確かめられます。進め方に迷うときは、子ども向け指導のご案内もご覧ください。

まとめと、​次の​一歩

  • 育つ速さには大きな個人差があるので、ここまでは一般的な整理としてお読みください。
  • 結論から書くと、ゴールデンエイジを過ぎたら手遅れ、という受け止め方はしなくて構いません。
  • 測っているのは、脳・小脳・脳幹・眼球・松果体の重さと、頭のまわりの長さです。走る・跳ぶ・投げるといった運動の測定値は一つも入っていません。運動技能や身体活動とのつながりを検証した資料でもありません。
  • グラフの縦軸は「生まれてから20歳までに増えた量の何%か」で、「大人の値の何%」ではありません。原典は、これらの曲線を「半ば模式的なもの」と自ら述べています。
  • よく引かれる「神経系は6歳で80%」という数字は、原典(Scammon, 1930)を読んでも見当たりません。原典が本文で述べているのは「幼児期の終わりまでに成人サイズの3分の2以上」です。こちらは成人サイズを基準にした記述で、上のグラフの縦軸とは基準が違います。年齢も「幼児期の終わり」とあるだけです。
  • 発達段階の枠組み(Lloyd & Oliver, 2012)でも、段階ごとに比重の置き方が変わるだけで、どの要素も発達期間の全体を通じて扱われています。
  • 発達期は、ひとつの動きを早くから極めるより、走・跳・投・バランスなど多様な動きを幅広く経験するほうが土台になる、という見方が示されています。ここまでは集団の傾向を説明したモデルの話で、一人ひとりの将来を決めるものではありません。
  • 動きが上手になる、体を動かすのが楽しくなる、もっと動く。この循環に乗れるかどうかが、その後の運動習慣と結びつくと報告されています(Stodden et al., 2008)。
  • 家の中でできる遊びは指導上の扱いで、研究が検証した手順ではありません。これらの遊びで活動量が何分増えるかを検証した研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。遊ぶ範囲は、始める前に室内で体を動かすときの安全の確認点にそって整えてください。
  • 遊びの最中に痛みを訴えるときは中止し、痛みが続く場合は医療機関にご相談ください。頭や首を打った場合は、様子を見るより先に医療機関へ。

今週末の公園で、遊びをひとつ足してみてください。クマ歩きで往復するだけでも構いません。

関連リンク


参考文献

  1. Scammon, R. E. (1930). “The Measurement of the Body in Childhood.” In Harris, J. A., Jackson, C. M., Paterson, D. G., & Scammon, R. E. (Eds.), The Measurement of Man (pp. 173–215). Minneapolis, MN: University of Minnesota Press. — Internet Archive で全文公開(1930年刊の書籍章のためDOIは付与されていません。本文と図のキャプションを確認しました。図の中に書かれた数値までは読み取っていません)
  2. Kelly, M. P., Vorperian, H. K., Wang, Y., Tillman, K. K., Werner, H. M., Chung, M. K., & Gentry, L. R. (2017). “Characterizing mandibular growth using three-dimensional imaging techniques and anatomic landmarks.” Archives of Oral Biology, 77, 27–38. doi:10.1016/j.archoralbio.2017.01.018(神経型の構造が5歳で成人の80%に達するという記述。この数字は原典の該当章には見当たらなかったため、本文では「そう紹介している論文がある」という形で扱っています)
  3. Lloyd, R. S., & Oliver, J. L. (2012). “The Youth Physical Development Model: A New Approach to Long-Term Athletic Development.” Strength & Conditioning Journal, 34(3), 61–72. doi:10.1519/SSC.0b013e31825760ea
  4. Stodden, D. F., Goodway, J. D., Langendorfer, S. J., Roberton, M. A., Rudisill, M. E., Garcia, C., & Garcia, L. E. (2008). “A Developmental Perspective on the Role of Motor Skill Competence in Physical Activity: An Emergent Relationship.” Quest, 60(2), 290–306. doi:10.1080/00336297.2008.10483582
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人に対する医学的助言・診断・治療を目的とするものではありません。体調や既往症に不安がある方は、必ず医師等の専門家にご相談ください。運動実施による結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。

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