「もう一回やってごらん」と言った直後に、子どもが黙った。あるいは泣いた。悪いことを言ったつもりはないのに、空気だけが重くなる。
やめるのは比較です。他の子とも、去年の本人とも。そして代わりに、結果ではなく過程の1点を具体的に言葉にします。
先に、言い換えの実例を並べます。左の列は、つい口をついて出やすい言葉です。良い悪いというより、子どもに届きにくい言い方、という並べ方をしています。
表:言いがちな一言と、代わりに言う一言(指導上の目安)
| 言いがちな一言 | 届きにくい理由 | 代わりに言う一言 |
|---|---|---|
| 「◯◯くんはもう跳べるのに」 | 他の子との比較。差は育ちのペースでも生まれる | 「今、縄をまたぐタイミングが合っていたね」 |
| 「去年のほうができていたよ」 | 過去の本人との比較。今日の一歩が見えなくなる | 「さっきより回すリズムが安定していたね」 |
| 「もう一回やってごらん」 | 回数は増えるが、どこを直すかは決まらない | 「今日は跳ぶだけにしよう」 |
| 「どうしてできないの」 | 原因を本人に探させる。たいてい答えられない | 「あと一歩はどこだと思う?」 |
※ 右の列に共通しているのは、結果ではなく過程の1点を指していることです。1回に1つで足ります。例は縄跳びで書いていますが、分け方は種目ごとに変わります(後述)。
結果は日によってばらつきますが、過程は少しずつ積み上がります。
やめるのは比較——他の子とも、去年の本人とも
やめたいのは比較です。「◯◯くんはもう跳べるのに」という他の子との比較も、「去年のほうができていた」という過去との比較も、「自分はできない」という感覚を強める方向に働きやすいものです。
代わりに、その子の中の「できた部分」を具体的に言葉にします。「跳べた/跳べなかった」という結果だけでなく、「今、縄をまたぐタイミングが合っていたね」「さっきより回すリズムが安定していたね」。過程の中の小さな前進を拾って伝える関わりが、次への意欲につながりやすくなります。
もう一つ。うまくいかない日を、本人の努力不足や保護者の関わり方のせいと決めつけないことです。運動の習得には発達のタイミングという要素があり、今できないことが半年後にすんなりできる、というのは珍しくありません。家庭では、「できるようにさせること」より、次に挑む気持ちを残しておくことを優先します。意欲さえ残っていれば、学校でも公園でも練習の機会は向こうからやってきます。ご家庭だけでは進め方に迷うときは、子ども向け指導のご案内もご検討ください。
くわしい整理:「できた」と意欲の循環
ここから先は研究の話です。子どもの運動発達では、運動の巧みさ(基礎的な運動技能)と、それに対する本人の自信である運動有能感が、セットで語られます。
Stodden らが提案したモデルでは、運動技能・運動有能感・体力・身体活動量が、成長にともなって互いに影響し合いながら結びついていくと整理されています(Stodden et al., 2008)。かみくだくと、「できた」経験は「自分は運動が得意だ」という感覚を育て、その感覚がさらに体を動かす意欲につながる、という循環です。逆向きにも回ります。うまくいかない経験が続くと運動有能感が下がり、体を動かす場面そのものを避けやすくなる方向にも働き得る、という整理です。
表:運動有能感をめぐる2つの循環(Stoddenらのモデル)
| 前向きな循環 | 後ろ向きな循環(負のスパイラル) |
|---|---|
| 運動が「できる」経験を積む | 「できない」経験が積み重なる |
| 「自分は運動が得意」という感覚(運動有能感)が育つ | 運動有能感が下がる |
| 体を動かす意欲が高まり、活動量が増える | 運動の場面そのものを避けやすくなる |
| 運動技能・体力がさらに伸びやすくなる | 技能・体力が伸びにくくなる |
※出典:Stodden et al.(2008)が提案した発達モデル(各要素の結びつきは年齢が上がるほど強まるとされる)に基づき作成
ここまでは集団の傾向を説明したモデルで、一人ひとりの将来を決めるものではありません。ある種目が苦手なことが、その子の運動全体を決めるわけでもない。ある動きが苦手でも別の動きは得意、という子もいますし、きっかけ一つで大きく変わることもあります。だからこそ、「できない」が本人の中で固まった自己イメージになる前に、小さな「できた」を積める関わりが役に立ちます。
言葉が出てこないときは、課題を小さく分ける
表の右の列がとっさに出てこないのは、たいてい「どこができていたか」が見えていないからです。見えないのは観察力の問題ではなく、その運動が一度にいくつもの動きを要求しているからです。そこで、分けます。
分けるとは、その日に見るところを1つに決めることです。分けた1つだけを見ていれば、褒める場所は自然に見つかります。
- 縄跳び — 「跳ぶだけ(縄を持たずに連続ジャンプ)」「回すだけ(縄を二つ折りにして床を打つ)」「タイミング(一回ずつ区切ってまたぐ)」の3つに分かれます。分け方の手順と、縄の長さの合わせ方は縄跳びが跳べないときに。
- 逆上がり — 「引きつけ(腕で体を鉄棒に近づける)」「振り上げ」「回る感覚」の3つに分かれます。学校での位置づけ、家で始める順番、鉄棒の安全の確認点は逆上がりができないときの練習の順番に。
- 持久走 — 距離ではなく、走り出しのペースを1つに絞ります。詳しくは持久走大会が近いときに。
一つに絞ると、その回はうまくいきやすい。「跳ぶだけ」「回すだけ」のように課題を小さく分け、一つずつ「できた」を積むほうが進みやすい傾向があります。ただし、どのステップにどれだけ時間がかかるかは個人差が大きく、体が育つのを待つ局面もあります。数日で進む子もいれば、数か月かけてゆっくり進む子も。
どの種目でも共通するのは、痛みを訴えた日はそこで終わりにすることです。連続ジャンプはくり返すほど着地の負担が積み重なるので、本数より「軽く弾めているか」を見てください(ジャンプ&やわらか着地)。
なお、鉄棒は落下や手のマメ・すり傷などが起こりやすい種目です。無理な回数を続けさせず、手のひらや手首、肩などに痛みを訴えたときはその日は中止してください。痛みが続く場合や、頭・首を打った場合は、様子を見るより先に医療機関にご相談ください。安全が確保されてこその「できた」です。
よくある質問
Q. 親がやってはいけない声かけは、ありますか。
一つだけ挙げるなら比較です。ただ、「言ってはいけない言葉」のリストを増やすことは勧めません。禁止が増えるほど、声をかけること自体をためらってしまうからです。やめるのは比較の一点にして、あとは過程の1点を言葉にする。それで足ります。
Q. 褒めるところが見つからない日はどうしますか。
その日は見るところを1つに決め直します。「今日は跳ぶだけ」と決めてしまえば、跳んだかどうかだけを見ればよくなります。それでも見つからない日は、練習を早めに切り上げてかまいません。「あと1本やりたい」くらいで終えるほうが、次に続きます。
Q. 何も言わずに見守るのが正解ですか。
黙って見ているのが常に良い、というわけではありません。比較を含まない言葉なら、声はかけたほうが届きます。ただし1回に1つ。走り終えたあと、跳び終えたあとに1つだけ、というくらいの分量が目安です。
Q. 本人がやりたがりません。
無理に続けさせないほうがよい局面です。運動そのものから遠ざかるより、種目を変えるほうを勧めます。体を動かす場面を残しておくことが先で、種目はあとから戻ってきます。冬に外へ出にくいときの家の中での動かし方は室内で体を動かすときの安全の確認点に、遊びの広げ方はゴールデンエイジを過ぎたら手遅れ?にまとめました。
まとめと、次の一歩
- できるようになる速さには発達の個人差が大きく関わるので、ここまでは一般的な整理としてお読みください。
- やめるのは比較です。他の子とも、去年の本人とも。
- 代わりに、結果ではなく過程の1点を具体的に言葉にします。1回に1つで足ります。
- 言葉が出てこないときは、その日に見るところを1つに決める(=課題を小さく分ける)。「跳ぶだけ」「回すだけ」のように課題を小さく分け、一つずつ「できた」を積むほうが進みやすい傾向があります。
- どのステップにどれだけ時間がかかるかは個人差が大きく、体が育つのを待つ局面もあります。
- 「できた」経験は運動有能感を育て、それがさらに体を動かす意欲につながると整理されています。逆に「できない」が続くと運動から遠ざかる方向にも働き得る、というのが同じモデルの説明です(Stodden et al., 2008。集団の傾向を説明したモデルで、一人ひとりの将来を決めるものではありません)。一つの種目の苦手が、その子の運動全体を決めるわけではありません。
- うまくいかない日を誰かのせいにしないことも、同じくらい大切です。
- 痛みが出たときは練習を中止し、続く場合や頭・首を打った場合は医療機関にご相談ください。
今日の練習では「跳ぶだけ」を選んでみてください。縄はいったん置いて、その場で10回跳ぶところからで構いません。
関連リンク
- 関連記事:縄跳びが跳べないとき / 逆上がりができないときの練習の順番 / 持久走大会が近いとき / ゴールデンエイジを過ぎたら手遅れ?
- 関連ガイド:ジャンプ&やわらか着地
- ご家庭だけでは不安なとき:子ども向け指導のご案内
参考文献
- Stodden, D. F., Goodway, J. D., Langendorfer, S. J., Roberton, M. A., Rudisill, M. E., Garcia, C., & Garcia, L. E. (2008). “A developmental perspective on the role of motor skill competence in physical activity: An emergent relationship.” Quest, 60(2), 290–306. doi:10.1080/00336297.2008.10483582
