1足目を履き込んできて、そろそろ次の一足を、と考えたとき。検索してまず出てくるのは、「シューズの寿命は500〜800km」という数字と、「2足以上で回すと故障が減る」という説明の2つだと思います。
シューズを何kmで替えるべきかについて、エビデンスに基づく推奨はできない、と査読誌の総説は書いています(Malisoux & Theisen, 2020)。ローテーションのほうも、根拠は思われているより細いものでした。
当サイトでは1足目の選び方を先に書きました。その続きとして、2足目とローテーションの現在地を整理します。はっきりさせておきたいのは、この記事は、2足目を買うことを勧める記事ではありません。商品名・ブランド名は出さず、順位もつけません。
「何kmで寿命」という数字を、査読誌の総説は否定している
「500〜800km」「800〜1000km」という数字は、売り場でも通販ページでもよく見かけます。ところが、今回調べた範囲で査読誌にこの数字に触れた記述を探すと、出てきたのは推奨ではなく否定でした。
シューズと故障の研究を整理した総説(Malisoux & Theisen, 2020)で、著者らは本文にこう書いています。「800〜1000kmという上限距離は、単なる俗説であり、シューズ業界の推奨に従っただけのものである」。同じ論文でシューズの使用期間を扱った節の結びは、「現段階で、故障予防のためのシューズの使用期間についてエビデンスに基づく推奨はできない」でした。
ただしこれは、著者らが選んだ文献をまとめた総説(ナラティブレビュー)で、手続きを定めて網羅的に集めた系統的レビューではありません。著者らは、次の節で扱う観察研究(Malisoux et al., 2015)の著者でもあります。ここで引いたのは総説の著者らによる評価であり、特定のメーカーや販売店の表示について当サイトが判断を述べたものではありません。
では、走行距離と靴の性能を測った研究がないのかというと、あります。ただし1985年です(Cook et al., 1985)。かかと接地を機械で繰り返し再現する試験と、ボランティアが実際に練習で履いた靴の両方で、衝撃を吸収する能力を調べたものでした。
| 走った距離 | 機械試験での保持率 | 実際に履いた靴 |
|---|---|---|
| 50マイル(約80km) | 約75% | — |
| 100〜150マイル(約160〜240km) | 約67% | — |
| 250〜500マイル(約400〜800km) | 60%未満 | — |
| 500マイル(約805km) | — | 約70% |
初期の吸収能に対する保持率。すべて「約」付きで報告された値です。1985年の研究で、当時のミッドソール素材(靴底の中間層の素材)が対象です。この研究は交換すべき距離を示しておらず、故障との関連も測っていません。機械試験と実走は別々の測定で、1本の線としてつなぐことはできません。出典: Cook et al., 1985
目を引くのは2点です。機械で叩き続けた靴より、人が実際に履いた靴のほうが、劣化は小さく出ました。そして、価格やメーカーの違いによる差は認められませんでした。高い靴ほど長持ちする、という関係は、この研究では出ていません。ただし、替えるべき距離の数字に根拠がないことと、靴が劣化しないことは、別の話です。この研究が示しているのは、走った分だけ吸収能が落ちたことのほうです。なお、現代の高反発フォームで同じことを測った研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。
では、へたった靴で走ると何が起きるのか。24名が同じ1足で200マイル(約322km)を走り、その前後を比べた研究があります(Kong et al., 2009)。摩耗した靴では接地時間が延び、体幹の前傾が減り、足関節の動きが変わりました。一方で、外に現れる衝撃の大きさ(最大の鉛直方向の力と、その立ち上がりの速さ)は一定に保たれています。著者らの結論は、クッション性能が落ちると走る人は外的な負荷を一定に保つように動きを変える、というものでした。
「靴がへたる=脚に来る衝撃が増える」ではありません。ここは誤解されやすいところだと思います。200マイルという距離も、測定の設定条件であって、寿命の目安として提示された値ではありません。3種類のクッション技術の間で、適応の仕方に差は出ませんでした。
距離ではなく使用月数で見た前向き調査もあります(Taunton et al., 2003。844名)。シューズの使用月数は故障のモデルに寄与しましたが、男女で効果の向きが逆でした。2020年の総説は、この結果からは強い結論を引き出せない、と整理しています。原著の著者ら自身も、走った時間・走歴・過去の故障歴を十分に考慮していないと書いていました。
ローテーションの根拠は、観察研究1本と、その後の追試ゼロ
複数のシューズを並行して使っていることと故障の少なさの関連は、市民ランナー264名を22週間追跡した観察研究で報告されています(Malisoux et al., 2015。ハザード比0.614、95%信頼区間 0.389〜0.969)。ハザード比は1.0が「差がない」ことを表す指標です。介入を割り付けた試験ではないため、因果関係も、適切な足数も示されていません。
ここからが、あまり書かれていない部分です。複数足を並行して使うことと故障の少なさの関連は、観察研究1本で報告されたきりで、そのあとの追試が見つかりません。この論文を引用した文献を一覧で確認した範囲では、ローテーションを主題にした前向き研究やランダム化比較試験は、2026年8月時点で見当たりませんでした。同じ研究グループはその後もランダム化比較試験を3本行っていますが、割り付けられたのはいずれも単一のシューズの特性(クッションの硬さ、モーションコントロール、ドロップ)です。「否定された」のではなく、「検証されていない」という状態です。
支持する側の記述も、落とさずに並べます。同じ著者らは2020年の総説で、機械的な負荷が同じ形でかかり続けるのを避け、新しい一足へ段階的に移るために、複数のシューズを交互に履くのはおそらく良い考えだろう、と書いています。「おそらく」の範囲の推奨で、検証の結果ではありません。書いているのは、先ほどの観察研究の著者ら自身です。
そのうえ、方向が逆の報告が2026年に出ました。ランナー207名を対象にした横断調査です。ある一時点の状況をまとめて尋ねる設計で、時間の前後関係は追えません。マスター世代の群では、所有するランニングシューズの足数が多いことが、故障による参加制限のオッズ上昇と関連していました(Berns et al., 2026。オッズ比1.02)。若年群では、この関連は残っていません。95%信頼区間は、本文中で確認できませんでした。
オッズ比1.02は1足あたりの値で、大きさとしては極めて小さいものです。なお、オッズ比とハザード比は別の指標で、先ほどの0.614と同じ物差しの上で比べることはできません。そして著者ら自身が、逆向きの因果を第一の解釈候補として挙げています。予防ではなく、故障後の適応や、慢性的な故障を自分で何とかしようとする試みを反映している可能性がある。症状が続く人が、過去の故障をきっかけに靴を買い足したり回したりしている、という向きです。
「シューズを増やすと故障が増える」とは読めません。横断調査で、しかも自己申告です。ただし同じ疑いは、2015年の観察研究にもそのまま跳ね返ります。故障している人ほど靴を買い足す、という向きは、どちらの研究でも排除されていません。
視野を広げると、優先順位が見えてきます。走る人の危険因子・保護因子をまとめた系統的レビュー(Hulme et al., 2017。73論文)で確定的な結論が出たのは、過去の故障歴でした。著者らは、多くの因子で効果の向きが分かれ、統計的に有意でない結果も多かったため、確定的な結論を引き出せなかったと書いています。シューズの使い方より、故障予防の考え方や走る距離の増やし方のほうに、一貫した報告があります。
「違う靴で違う刺激が入る」は、いまのところ仮説
ローテーションの説明として最もよく使われるのが、「異なる刺激が入って負荷が分散される」という理屈です。出どころは、2015年の観察研究の考察にあります。複数足の使用と他の競技の実施は、筋骨格系にかかる負荷に変化をもたらす方策になりうる、という一文です。原文の表現は「〜の可能性がある」で、メカニズムそのものは測定されていません。
実測はもっと入り組んでいます。42分のトレッドミル走の途中で靴を履き替えた研究があります(Weir et al., 2020。男性14名)。後半に「同一構造で色だけ違う靴」に替えた群のほうが、「異なる構造(スタビリティ)の靴」に替えた群より、下肢の協調変動性が高くなりました。違う靴に替えると動きのバリエーションが増える、という素朴な図式とは方向が逆です。著者らは相反する2つの解釈を併記しており、決着していません。
作りが大きく違う靴どうしを比べると、負荷は消えるのではなく移動していました。ベアフット系のシューズは膝蓋大腿(お皿まわり)の力学的な負荷を有意に下げた一方、アキレス腱の張力を有意に上げています(Sinclair, 2014。市民男性30名)。分散させれば安全、という話ではありません。
一方で、同じ時代の似た見た目の靴どうしでも、測ると違うという報告はあります。市民ランナー30名で3種類(高反発フォーム+カーボンプレート/高反発フォームのみ/従来型のフォーム)を比べた研究では、荷重の立ち上がりの速さが3モデルの間で有意に異なりました(Wang et al., 2026)。トレッドミル上でその場で比べたもので、故障を数えた研究ではありません。
現時点で言えるのは、靴を替えれば体にかかるものは変わる、というところまでです。それが故障の減少につながるかどうかは、別の問いとして残っています。
レース用と練習用は、何が測られていて、何が測られていないか
厚く反発の大きいフォームと硬いプレートを組み合わせたシューズについて、一定の速度で走るときのエネルギーの消費が下がったという報告が、2026年のメタアナリシスで統合されています(Xiao et al., 2026)。17件のランダム化クロスオーバー試験、計281名を統合したものです。
ただし、効き方の幅は大きいものでした。高度に訓練されたランナー30名を調べた研究では、個人ごとのエネルギーコストの改善幅が、女性で1.1〜6.4%、男性で0.2〜8.7%です(Seglina et al., 2026)。性別による差は認められず(p = 0.5)、身長・体重・足の長さ・アキレス腱の長さなどの計測値でも予測できませんでした。下端の0.2%は、ほとんど恩恵がなかった人がいたことを意味します。対象は高度に訓練されたランナーで、市民ランナーではありません。
日本の選手を対象にした報告もあります。大学男子長距離走選手15名で厚底と従来型を比べた研究では、厚底のほうが接地時間が2.3%短く、滞空時間が6.4%長くなりました(植山ほか, 2025)。立脚の終わりごろの関節の角加速度も大きくなっています。同じ距離を走っても体の使い方が変わる、という測定であり、故障を数えた研究ではありません。走り始めの方を対象に、プレートの有無で下肢の動きを比べた日本の研究も2026年に出ています(関谷ほか, 2026)。
エリートの長距離ランナー23名を対象に、骨のストレス障害との関連が議論されている力学的な変数を比べた研究もあります(Bruneau et al., 2026)。著者らは、変化は小さいとしたうえで、練習と競技でこの種のシューズを使うときには考慮すべき要素だと書いています。骨のストレス障害そのものを数えた研究ではなく、対象はエリート23名です。指標ごとに向きは異なり、すべての指標で不利という結果でもありません。
そして、この記事の主題にいちばん近いところが空いています。レース用を練習で常用するとどうなるかを検証した研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。練習用とレース用を分ける運用そのものの効果を比べた試験も、見当たりません。2026年の系統的レビューは、長期的な適応と故障リスクへの影響を今後の課題として挙げています(Alexe et al., 2026)。「検証されていない」は「効果がない」という意味ではありません。
では、何を手がかりにするか
ここからは研究の結論ではなく、指導上の目安としてお読みください。検証された手順ではありません。
まず、研究の側で方向が示されているものを1つだけ。市民ランナー527名を6か月追跡したランダム化比較試験があります。その二次解析では、かかとのクッション感を高く知覚していた群ほど故障が少ない、という関連が報告されました(Malisoux et al., 2025)。追跡中の故障は60件で、クッション感の知覚で3等分したうち最も高い群のハザード比は0.24(95%信頼区間 0.10〜0.57)でした。シューズ全体の評価が最も高い群でも0.47(同 0.26〜0.85)です。
ただしこれは、配られた研究用シューズをどう感じたかを調べたもので、履き込んだ靴の劣化を感じ取れるかを調べたものではありません。「クッション感が落ちたら買い替え」という手順は、この研究からは出てきません。著者らの表現も、関連がある、〜かもしれない、という範囲にとどまっています。
2020年の総説は、基本的なルールとして残っているものを3つ挙げています。選ぶときの快適さの主観、新しい一足への段階的な移行、練習中に体の声を聞くこと。これらは著者らが挙げたもので、検証された手順ではありません。
指導上の扱いも書いておきます。用途が2つ以上あるなら、2足以上を場面で回します。消耗が一足に偏らない、雨の翌日に乾いた靴がある、という運用の話です。レース用を日常の練習で毎日履くことは勧めていません。作りが大きく違う靴に移ると、脚に伝わる負荷の質も変わるからです。ここも研究で確かめた基準ではなく、現場での判断です。
いま1足で回している方に、足を増やすことを先に勧めることはしません。増やして故障が減ることは確かめられておらず、逆向きの報告もあるからです。靴選びを左右する要因を調べた質的研究では、経済的な考慮が3つの主要なテーマの1つに挙がっています(Ramsey et al., 2022。12名への聞き取り)。予算が限られているなら、1足で回すという選択はそのまま残ります。走り始めに何を買うかでも、買わない選択肢を並べる方針で書きました。
そのうえで、手がかりは次の3つです。
- 用途が増えたときに足す。距離が伸びた、レースに出ることにした、雨の日も走るようになった。走行距離の数字ではなく、場面が増えたかどうかで考えます。
- 履いたときの感じを、言葉にして残しておく。「前より沈む」「かかとが落ち着かない」。検証された指標ではありませんが、距離の数字より本人の判断材料になります。
- 新しい一足は、いきなり全部を置き換えない。短い距離から混ぜていく。ここは2020年の総説が挙げた基本ルールと方向が同じです。
最後に線引きを1つ。いま痛みがある状態を、2足目を足して解決しようとするのは順番が違います。押すと一点が痛む、腫れがある、走るたびに痛みが強くなる、歩くだけでも痛む。こうしたときは、整形外科など医療機関にご相談ください。強い痛みで体重をかけられない、転倒などの外力のあとの痛み、変形や急な腫れがある場合は、走るのをやめて当日中を目安に受診してください。これらは注意したい状態の例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません。すでに2足目を買ったあとでも、痛みが出ているなら順番は同じです。
まとめと、次の一歩
先に限界を書いておきます。ここで挙げた研究は、対象も設計も指標も別々で、横に並べて比べることはできません。ローテーションを主題にした試験はなく、レース用を練習で常用したときのデータもありません。そのうえで、現在地は次のとおりです。
- シューズを何kmで替えるべきかについて、エビデンスに基づく推奨はできない、と査読誌の総説は書いています(Malisoux & Theisen, 2020)。「800〜1000km」という数字は、同じ論文の中で俗説と書かれています。
- 走行距離と衝撃吸収能を測った研究は1985年のものです(Cook et al., 1985)。機械より人が履いた靴のほうが劣化は小さく、価格やメーカーによる差も認められませんでした。ただし、替えるべき距離の数字に根拠がないことと、靴が劣化しないことは、別の話です。
- 摩耗した靴では動きが変わりましたが、外に現れる衝撃の大きさは一定に保たれていました(Kong et al., 2009)。「へたる=脚に来る衝撃が増える」ではありません。
- 複数足を並行して使うことと故障の少なさの関連は、観察研究1本で報告されたきりで、そのあとの追試が見つかりません(Malisoux et al., 2015)。同じ著者らは総説で、複数のシューズを交互に履くのはおそらく良い考えだろう、とも書いています(Malisoux & Theisen, 2020)。一方で逆方向の横断調査もあり、著者らは故障した人ほど靴を買い足すという逆向きの因果を挙げています(Berns et al., 2026)。
- レース用シューズで測られたのは、一定の速度で走るときのエネルギーの消費です(Xiao et al., 2026)。効き方の幅は大きく、体格でも性別でも予測できませんでした(Seglina et al., 2026)。レース用を練習で常用するとどうなるかを検証した研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。
| 論点 | 現在地 |
|---|---|
| レース用で一定速度のエネルギー消費が下がるか | メタアナリシスあり(17試験・281名) |
| その効き方に個人差があるか | あり。個人で0.2〜8.7%の幅(高度に訓練された30名) |
| 摩耗した靴で動きが変わるか | 測定あり(24名・200マイル) |
| 走行距離でクッション性能が落ちるか | 測定あり。ただし1985年の素材 |
| 何kmで交換すべきか | エビデンスに基づく推奨はできない(査読誌の明記) |
| 複数足で回すと故障が減るか | 観察研究1本で関連の報告。追試なし。逆方向の横断調査あり |
| 複数足で「異なる刺激」が入るか | 仮説。方向が逆の実測もある |
| レース用を練習で常用するとどうなるか | 検証した研究が見当たらない |
| 練習用とレース用を分けることの効果 | 検証した研究が見当たらない |
本表は研究のデータではなく、本文で扱った報告をもとにした編集上の整理です。「検証した研究が見当たらない」は「効果がない」という意味ではありません。根拠となる報告は本文と参考文献に対応します。
いま履いている一足について、走行距離ではなく「何に使う靴か」と「履いたときの感じ」を書き出してみてください。用途が1つのままなら、足す理由はまだ出てきていません。用途が2つ以上あるなら、次の一足はその用途から選べます。
関連リンク
- ランニングシューズの選び方——1足目を決める順番
- 走り始めに何を買うか——最初に要る3つと、後でいい5つ
- 靴より先に整えること:故障予防の考え方 / 走る距離の増やし方
- 用途と練習を一緒に設計したいとき:パーソナル指導(S&C/ランニング)のご案内
参考文献
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