走った後に距離とペースを眺める時間は、練習の楽しみの一つです。ただ、その数字がどこまで確からしいかは、機能表からは読み取れません。この記事では、必要な機能を値段表ではなく自分の使い方から決めるための材料を並べます。
よく挙がるのが「光学式心拍計と胸ベルトはどっちが正確なのか」という問いです。ランニングでの精度は、測るものと条件によって変わると報告されています。ここでは機種の順位づけをせず、報告されている精度の実態を先に置きます。商品名・ブランド名は出していません。
距離とペースは、どのくらいずれるものなのか
GNSS(全球測位衛星システム)は、衛星からの信号で現在地を求める仕組みの総称です。ウォッチは一定間隔で位置を記録し、その点を結んだ長さを距離として表示します。ペースは距離を時間で割った値なので、距離の推定誤差は、距離から計算される平均ペースにも影響します(リアルタイム表示のペースは測位間隔や平滑化にも左右されます)。
市販のGNSS対応スポーツウォッチ8機種を、市街地・森林・陸上競技場で歩行・走行・自転車により検証した研究があります(Gilgen-Ammann et al., 2020)。基準距離は404.0〜4296.9m。トラック1周から、軽いジョグ1本ぶんまでの範囲です。すべての場所を合わせた平均絶対パーセント誤差(MAPE。ずれを基準値に対する割合で表した値で、0に近いほどずれが小さい)は3.2%〜6.1%と報告されています。記録された距離は市街地と森林で有意に過小評価され、陸上競技場では8機種中6機種で過大評価ながら精度は良好でした。走行時のデータは、歩行や自転車と比べて多くの機器で誤差率が有意に高かったとも報告されています。著者らは、記録距離は最大9%程度過小評価されうるとしたうえで、調査したすべてのウォッチは、とくに開けた場所での距離記録には推奨できる、と結論しています。これは2020年に検証された8機種についての結論で、現在市販されている製品の優劣を示すものではありません。
この検証の基準距離は約400m〜4.3kmで、フルマラソンのような長い距離での誤差を測ったものではありません。
実際のレースではどうか。ロードレースの参加者を対象とした現場調査(Pobiruchin et al., 2017)では、ハーフマラソンで記録された距離の平均絶対誤差(ずれを符号を無視して平均した値)が、GPS対応スポーツウォッチで0.12km、アプリと組み合わせた携帯電話で0.35kmと報告されています(P=.002)。ただしこれは参加者の自己申告に基づく調査で、機器を割り付けたランダム化比較試験ではありません。女性と高年齢層で使用率が低かったとも報告されており、使う人の側にも偏りがあります。
光学式心拍計と胸ベルトは、どっちが正確か
光学式心拍(PPG=光電容積脈波)は、皮膚に光を当て、血液量の変化による反射光の変動から拍動を読み取る方式です。手首という部位と、光という手段の両方が条件の影響を受けます。
健康な成人50名を対象とした研究があります(Gillinov et al., 2017)。トレッドミル・自転車エルゴメーター・エリプティカル(腕のレバーを使う条件と使わない条件)で、心電図を基準に、胸ベルト式・前腕式・手首式2台の心拍が同時記録されました。一致度はLinの一致相関係数(rc)で示され、1.0が完全一致を表します。全条件を通じて最も高かったのは胸ベルト式でrc = 0.996。光学式の各機器(手首式・前腕式)は機種によりrc = 0.67〜0.92でした。エリプティカルの腕のレバーを使う条件ではいずれの機器もrc < 0.80です。著者らは、正確な心拍測定が不可欠な場面では電極を用いる胸部モニターを使うべきだ、と結論しています。これは原著の著者らの結論であり、通常の練習で一律に胸ベルトが必要という意味ではありません。
手首式が使えないという意味ではありません。測られたのは、練習の役に立つかどうかではなく、基準との一致度。読み取れるのは、腕の動きが大きい条件で誤差が大きくなる方向がある、というところまでです。
誤差の要因を検討した研究(Bent et al., 2020)では、肌の色による精度の差は統計的に有意でなかった一方、機器の間と活動の種類の間には有意な差があったと報告されています。さらに、活動中の絶対誤差は安静時より平均して30%高かったとも報告されています(心拍数が30%ずれるという意味ではありません)。
市販のウェアラブルを扱った158件の研究・9ブランドを対象としたシステマティックレビュー(Fuller et al., 2020)は、実験室環境では歩数は概ね正確に測れていた一方、心拍の測定はより変動が大きくブランドと機種によったと整理しています。そして消費エネルギーについては正確なブランドはなかったとも整理しています。
この3件は対象も設計も指標も異なり、横に並べて比べることはできません。共通して読めるのは、精度が条件と機器で変わること。そして画面に出る消費カロリーは、心拍や歩数と同じ確度で扱えるものとしては報告されていないことです。心拍数そのものの読み方(推定式やゾーンの限界)はランニングの心拍数の目安で扱っています。
用途から決める順番と、数値との付き合い方
ここからは研究の結論ではなく、指導上どう扱っているかです。機能の一覧から選ぶのではなく、記録を見返す習慣のほうを先に作るという順番を置いています。検証された手順ではありません。
- 見返したいものを1つ決める。週の合計距離なのか、1本ごとのペースなのか、心拍の推移なのか。
- 見返す場所を先に決める。アプリでも手書きのノートでも構いません。記録が貯まる先がないと、機能が増えても使われないままになりがちです。
- 必要な機能は、そのあとで足す。距離と時間だけなら測位機能で足ります。心拍の推移も見たいなら光学式心拍つき、ただし前節の限界を踏まえ、同じ条件での推移を見る用途に限ります。トラックでラップを刻むなら手袋をしたままボタンが押せるか、長い時間の使用なら電池の持ち。公称値は測位の設定によって変わるため、どの条件での数値かを確認する必要があります。
- 価格だけでは精度を判断できない。価格と測位の精度の関係を検証した研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。8機種の検証(Gilgen-Ammann et al., 2020)で報告されているのも機種ごとの誤差であって、価格帯との対応ではありません。
機能の精度を比べるより先に、記録が続く形を作ります。たとえば日曜の夜に、その週の合計距離だけをノートへ書き写す。手数はそれくらいでも、翌週の組み立てを考える材料になります。走り始めの進め方は走り始めの最初の1ヶ月、週単位の負荷の見方はACWRという考え方で扱っています。
数値の扱いも、指導上は次のとおりです。同じコースで表示が違っても、すぐに機器の不調とは考えません。測位の誤差の幅の範囲で起こりうるためです(Gilgen-Ammann et al., 2020)。大会の表示距離とのずれも、コースの長さの証拠にはなりません。公認コースの距離は決められた方法で計測されたもので、走ったラインは人それぞれ違います。そこに測位の誤差が乗るため、ウォッチが少し長く出ること自体は珍しくありません。
消費カロリーの表示は、食事量を決める根拠にはしません。レビューで正確なブランドはなかったと整理されている以上(Fuller et al., 2020)、この数値をもとに摂取量を差し引きする使い方は避けます。
心拍やその他の健康に関わる表示は、診断に使うものではありません。運動中や直後に強い動悸・胸の痛み・意識が遠のく感覚があるときは、直ちに運動を中止し、症状が強い・治まらない・意識がはっきりしないときは、周囲に助けを求め、救急要請を含めた対応をためらわないでください。これらは注意したい症状の例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません。心拍数に影響する薬を服用中の方、心臓や血管の病気の既往がある方、健診で指摘を受けている方は、数値を目標にした練習を始める前に主治医にご相談ください。
買い替えは、困りごとが出てからで間に合います。電池が持たなくなった、必要な機能がない、破損した。いずれかが実際に起きたときが一つの目安です。新しいモデルが出るたびに買い替えることを支持する報告は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。練習全体の組み立てはサブ4を目指す練習の組み立て方、道具選び全般の考え方はランニングシューズの選び方でも同じ順番(用途を先に決める)を置いています。
まとめと、次の一歩
ここで挙げた研究は、対象も設計も指標も別々で、横に並べて比べることはできません。そのうえで言えるのは、次のところまでです。
- 距離・ペースは測位から、心拍は光の反射から求められる別々の推定値です。距離の推定誤差は、距離から計算される平均ペースにも影響します。
- 8機種の屋外検証では、MAPE 3.2%〜6.1%、市街地・森林で有意に過小評価、走行時に誤差率が高い傾向が報告されています。著者らは最大9%程度の過小評価がありうるとしています(Gilgen-Ammann et al., 2020。基準距離404.0〜4296.9m。フルマラソンの距離を測った研究ではありません)。実際のハーフマラソンでは、GPS対応ウォッチのMAEが0.12km、携帯電話+アプリが0.35kmと報告されています(Pobiruchin et al., 2017。自己申告に基づく現場調査)。
- 光学式心拍の一致度は、運動の種類と機器で変わると報告されています(Gillinov et al., 2017)。胸ベルト式がrc = 0.996、光学式の各機器がrc = 0.67〜0.92でした。腕の動きの大きい条件では、全機器でrc < 0.80と報告されています。活動中の絶対誤差は安静時より平均30%高かったとも報告されています(Bent et al., 2020)。手首式が使えないという意味ではありません。
- システマティックレビューは、実験室環境で歩数は概ね正確、心拍は変動が大きくブランド・機種によると整理しています。消費エネルギーは正確なブランドがなかったとも整理されています(Fuller et al., 2020)。表示される消費カロリーは、歩数や心拍とは扱いを分けるのが妥当です。
- ここでは、見返したいものを1つ決める→見返す場所を決める→機能を足す、の順番を置いています。これは検証された手順ではありません。価格と精度の関係を示した研究は見当たらず、価格だけでは精度を判断できません。表示される数値は診断に使うものではなく、気になる症状があるときは医療機関にご相談ください。
今週の記録から、見返す項目を1つだけ選んでみてください。距離でもペースでも構いません。選んだ1つが続いてから、機能の話に戻ってきてください。
関連リンク
- 走り始めに何を買うか——最初に要る3つと、後でいい5つ
- 関連記事:ランニングの心拍数の目安 / サブ4を目指す練習の組み立て方 / 走り始めの最初の1ヶ月 / ACWRという考え方
- 道具選びの考え方:ランニングシューズの選び方
- 記録の見方を一緒に整理したいとき:パーソナル指導(S&C/ランニング)のご案内
参考文献
- Gilgen-Ammann, R., Schweizer, T., & Wyss, T. (2020). “Accuracy of distance recordings in eight positioning-enabled sport watches: Instrument validation study.” JMIR mHealth and uHealth, 8(6), e17118. doi:10.2196/17118
- Pobiruchin, M., Suleder, J., Zowalla, R., & Wiesner, M. (2017). “Accuracy and adoption of wearable technology used by active citizens: A marathon event field study.” JMIR mHealth and uHealth, 5(2), e24. doi:10.2196/mhealth.6395
- Gillinov, S., Etiwy, M., Wang, R., Blackburn, G., Phelan, D., Gillinov, A. M., Houghtaling, P., Javadikasgari, H., & Desai, M. Y. (2017). “Variable accuracy of wearable heart rate monitors during aerobic exercise.” Medicine and Science in Sports and Exercise, 49(8), 1697–1703. doi:10.1249/MSS.0000000000001284
- Bent, B., Goldstein, B. A., Kibbe, W. A., & Dunn, J. P. (2020). “Investigating sources of inaccuracy in wearable optical heart rate sensors.” npj Digital Medicine, 3, 18. doi:10.1038/s41746-020-0226-6
- Fuller, D., Colwell, E., Low, J., Orychock, K., Tobin, M. A., Simango, B., Buote, R., Van Heerden, D., Luan, H., Cullen, K., Slade, L., & Taylor, N. G. A. (2020). “Reliability and validity of commercially available wearable devices for measuring steps, energy expenditure, and heart rate: Systematic review.” JMIR mHealth and uHealth, 8(9), e18694. doi:10.2196/18694
