ランニングの​帽子と​暑さ対策グッズ——​何が​どれだけ効くのか

出典17件・すべて一次情報にリンク

キャップをかぶり冷感タオルを首にかけてボトルを見ているランナーの線画イラスト

夏の売り場には、冷感タオル、ネッククーラー、アイスベスト、日よけの付いたキャップが並びます。買う前に知っておくと判断が変わることが2つあります。日射を避けることには、はっきりした裏づけがあること。そして冷却グッズの多くは、深部体温を下げているわけではないことです。

この記事では、確かめられている範囲と、確かめられていない範囲を分けて書きます。特定の商品の推奨や順位づけはしません。

日射を​避ける​ことには、​はっきりした​裏づけが​ある

まず、この分野で最も再現性のある結果からです。

真夏の晴天の日射は、およそ1,000W/m²前後です。気温30℃・湿度50%の室内で、日射の強さだけを4段階に変えて自転車運動を続けられる時間を比べた研究があります。

日射の強さ別に疲労困憊まで続けられた時間を示す棒グラフ。日射なし46分、250W/m2で43分、500W/m2で30分、800W/m2で23分。
気温・湿度は同一で日射だけを変えた比較。男性8名・自転車運動での結果で、ランニングのタイム換算には使えない。出典: Otani et al. 2016 のデータをもとに作成

日射がない条件で46分続けられた運動が、800W/m²では23分、およそ半分になりました(Otani et al., 2016)。注目すべきは、直腸温・総発汗量・心拍数に条件間の差がなかったことです。つまり、深部体温が上がったから止まったのではありません。皮膚温が上がり、深部体温と皮膚温の差が縮まり、主観的な負担が増したことで止まっています。

屋外の実測でも同じ方向です。晴天(1,062W/m²)と曇天(438W/m²)で比べた研究では、続けられた時間が39.2分から32.0分へ、約18%短くなりました(Naito et al., 2023)。また、「ややきつい」という主観を一定にして走ると、日射が強いほど出力が落ちることも報告されています(Otani et al., 2019)。同じきつさで走っているつもりでも、日向では実際の強度が下がっているということです。

これらは男性7〜14名・自転車運動が中心の研究です。「日陰を走れば何パーセント速い」という換算はできません。それでも、走るコースと時間帯を選べるなら、日射の少ない側を選ぶという判断には十分な根拠があります。

帽子は​「冷やす道具」ではなく​「日射を​遮る​道具」

では、帽子はどうか。ここは期待を下げる必要があります。

31℃・湿度41%の室内で、よく訓練されたランナー9名がキャップの有無で60分走った研究では、直腸温・平均皮膚温・全身発汗量に差はありませんでした。心拍数と全身の温熱感にも差はありません。差が出たのは、額の皮膚温が上がったことと、頭部の暑さの感じ方が強くなったことでした(Wimer, 2009)。

つまり、日射のない条件では、キャップは体温調節を良くも悪くもしていません。

一方で、頭に直射日光を受けること自体の影響は別に確かめられています。頭頸部に約1,000W/m²の模擬太陽光を当てた実験では、短時間では成績に変化がなかったものの、2時間程度の長時間曝露では深部体温が1℃上がり、運動課題と認知課題の成績が有意に低下しました。しかも、頭を加熱しない条件より低い体温の段階で低下が現れました(Piil et al., 2020)。この研究は対策として頭部の保護を挙げています。ただし検証されたのは頭部を加熱するかどうかであり、帽子そのものではありません。

紫外線についても数値があります。3Dモデルで顔の部位別の紫外線量を予測した研究です。単位のSEDは、日焼け(紅斑)を起こす紫外線量を表す目安で、数字が大きいほど浴びた量が多いことを意味します。夏季正午の無帽では顔全体平均3.3SED(鼻は6.1SED)、広いつばの帽子では顔全体平均1.7SEDでした。ただし、この研究で比較した帽子の形では、予測防護率は最大でも76%です。どの形でも、すべてを遮れるわけではありません。散乱した紫外線は帽子の形にかかわらず入ってくるためです(Backes et al., 2018)。古い実測研究でも、鼻や頬に一定の防護を得るにはつばの幅が7.5センチを超える必要があるとされています(Diffey & Cheeseman, 1992)。

正直に書くと、日射のある屋外のランニングでキャップが体温を下げる、あるいは記録を良くすることを直接示した研究は見当たりませんでした。この記事で言えるのはここまでです。帽子を勧める根拠は「冷える」ではなく、頭への直射日光と紫外線を減らすという側にあります。

冷却グッズは​「感じ方を​変える​装置」

ネッククーラー、アイスベスト、冷感タオル。これらは効くのか、という問いには、条件付きの答えになります。

59研究・563名を対象にしたメタアナリシスでは、冷却の効果量が運動のしかたによって大きく変わることが示されました。

冷却の効果量を運動形式別に示した棒グラフ。一定負荷では運動前の冷却0.74・運動中0.45、自己ペースでは0.29・0.35。
効果量は標準化された指標で、レースタイムへの換算はできない。出典: van de Kerkhof et al. 2024 のデータをもとに作成

効果量とは、効き方の大きさを研究間で比べられるように標準化した数値です(0.2で小さい、0.5で中くらいが目安)。一定の負荷で疲労困憊まで追い込む実験形式では、運動前の冷却で0.74。一方、自分でペースを配分する形式——つまり実際のレースに近い条件では、0.29から0.35にとどまりました(van de Kerkhof et al., 2024)。

何が起きているかは、冷却ベストのメタアナリシスがはっきり示しています。冷却ベストによって温熱感覚・快適性・主観的運動強度は有意に改善し、皮膚温も下がった一方、深部体温と心拍数には有意な変化がありませんでした(Fernández-Lázaro et al., 2023)。頭・顔・首の冷却をまとめたレビューでも、深部体温は一貫して下がっていません。同じレビューは、首の冷却が暑熱下の持久パフォーマンスの改善には有効だとも結論しています(Cao et al., 2022)。

市販品を検証した例もあります。35℃・湿度56%で70分走ったあと、5kmのタイムトライアルを行った研究です。冷却ヘッドバンドと、見た目は同じで冷えないヘッドバンドを比べたところ、タイムは19.8分と20.2分で有意差なし。心拍・額の温度・直腸温・主観的運動強度のいずれにも差はありませんでした(Jolicoeur Desroches et al., 2024)。1件の小規模な試験で差が検出されなかったというだけで、効かないことが証明されたわけではありません。

首や顔の冷却、冷却ベストは、深部体温を下げる装置というより、暑さの感じ方を変える装置——これが現時点で確かめられている範囲です。感じ方が変われば走りやすくはなるので、価値がないという話ではありません。ただ、買えば暑さの影響を打ち消せる、という前提は成り立ちません。

首を​冷やす​ことの、​見落と​されが​ちな​側面

もう一点、安全に関わる指摘があります。頭・顔・首は温熱の知覚が敏感な部位で、冷やすと全身の不快感がすぐに下がります。だからこそ効くのですが、Caoらのレビュー(2022)は、首の冷却が「感じられる暑熱ストレスの程度を覆い隠す」ことで、熱中症のリスクを高める可能性があると指摘しています。

指導の場での私の扱い方を書きます。冷却グッズは、走ってよいかどうかの判断を変える道具ではありません。暑さ指数(WBGT)が高い日に、グッズがあるから走る、という使い方をしないでください。暑さ指数による運動可否の目安は日本スポーツ協会の熱中症予防運動指針が示しており、判断の基準は夏のランニングで扱っています。なお、ここで書いているのは走りながら使う冷却グッズの話です。熱中症が疑われる人を冷やす応急の対応とは別の話で、それを否定するものではありません。

順番と​しては​「まず​慣れる、​道具は​その後」

もう一つ、順序に関わる結果があります。暑さに慣れていない男性14名が10日間の暑熱順化を行い、その前後で首の冷却の効果を比べた研究では、疲労困憊までの運動継続時間が、順化前は+3.4%、順化後は+17.3%でした(Zhang et al., 2025)。男性14名・室内での結果で、ランニングのタイムに読み替えることはできません。順化前は主観の改善も見られていません。

道具の効き方が、体の状態に依存しているということです。夏の初めに冷却グッズを買い足すより、暑さ指数が許す範囲で暑い時間の低強度走を重ね、体を慣らすほうを先にします。ただし、暑い時間に走ること自体にリスクがあります。暑さ指数の高い日には行わず、慣れ始めの時期ほど低い暑さ指数の日から入り、単独では走らず連絡手段を持ってください。線引きは夏のランニングにまとめています。

手の​ひらを​冷やす、​氷を​飲む

実用的な冷却手段として話題になる2つについても触れておきます。

手掌冷却(手のひらを冷やす方法)を調べた研究があります。33℃・湿度60%の環境で、両手のひらを12℃または0℃で冷やしています。結果は、直腸温・皮膚温・心拍・局所発汗量・主観的運動強度のすべてに条件間の差がなく、温熱感覚と快適性だけが改善でした(Iwata et al., 2024)。ただし、反復スプリントを対象にした別の研究では成績の改善が報告されています(Marín-Pagán et al., 2025)。持久走とは運動形式が違うため、結果も分かれます。

アイススラリー(氷の飲料)は、33℃の環境でハーフマラソンを2本走り、−1℃のスラリーと37℃の水を自由に摂取して比べた研究で、走行成績・心拍・主観的運動強度・体温・温熱知覚のいずれにも差が出ませんでした。摂取量はスラリーのほうが45%少なくなっています(Andrade et al., 2024)。メタアナリシスでも、体内から冷やす方法だけを取り出すとタイムトライアルへの効果は確認されていません(Yu et al., 2024)。

「運動前に決まった量を摂る」やり方では有望な報告もあるとされますが、レース中の自由摂取にそのまま当てはめることはできません。摂取量の目安についても、根拠として引用される資料の質を確認できなかったため、この記事では数値を書きません。

よく​ある​質問

Q. 結局、帽子はかぶるべきですか。 A. 日射のある屋外で走るなら、頭への直射日光と紫外線を減らす目的でかぶる価値があります。ただし体温が下がることは確認されていません。屋内や日射のない時間帯では、体温調節の面での利点は報告されていないので、好みで構いません。

Q. 冷感タオルはどうですか。 A. 冷感タオルそのものを検証した査読研究は見当たりませんでした。冷却ベストや首に巻くタイプの冷却バンドの研究から類推すると、感じ方は変わるが深部体温は変わらない、という範囲に収まると考えられます。

Q. 日焼け止めと帽子、どちらを優先しますか。 A. 研究で比較された帽子の形では、顔全体の紫外線を完全には遮れず、予測防護率は最大でも76%とされています。散乱した紫外線が入るためです。どちらかではなく、併用が前提だと考えてください。

Q. アームカバーやUVカット素材は涼しいのですか。 A. ランニング用のアームカバーそのものを検証した研究は見当たりませんでした。「肌を覆うほうが涼しい」という主張の裏づけも確認できていません。ウェア全般の考え方はランニングウェアの選び方で扱っています。

まとめ

この分野の研究には、はっきりした限界があります。日本人ランナーを対象にした検証はほぼなく、被験者はほぼ男性で少人数、運動様式は自転車が中心です。市販品を対象に検証した研究は、確認できた範囲で1件のみで、その結果は「有意差なし」でした。それでも、優先順位はつけられます。

  • 日射を避けることには、はっきりした裏づけがある。コースと時間帯を選べるなら、そこから
  • 帽子の根拠は「冷やす」ではなく「日射と紫外線を遮る」。体温が下がることは確認されていない
  • この記事で見た範囲の冷却グッズは、深部体温を下げるより先に、暑さの感じ方を変えている
  • 首の冷却は、暑さの自覚を鈍らせる可能性が指摘されている。道具は「無理して走ってよい理由」にはならない
  • 順番としては、まず暑さに慣れること。道具の効き方は体の状態に左右される

まず、いつも走っているコースを地図で見直して、日射を受ける区間がどれだけあるかを確認してみてください。並木や建物の影を通る経路に変えられるなら、それが今の時期にいちばん効く「道具」になります。

関連リンク

参考文献

  1. Otani H, Kaya M, Tamaki A, Watson P, Maughan RJ. Effects of solar radiation on endurance exercise capacity in a hot environment. European Journal of Applied Physiology. 2016;116(4):769-779. doi:10.1007/s00421-016-3335-9
  2. Otani H, Kaya M, Tamaki A, Goto H, Maughan RJ. Exposure to high solar radiation reduces self-regulated exercise intensity in the heat outdoors. Physiology & Behavior. 2019;199:191-199. doi:10.1016/j.physbeh.2018.11.029
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  10. Cao Y, Lei TH, Wang F, Yang B, Mündel T. Head, face and neck cooling as per-cooling modalities to improve exercise performance in the heat: a narrative review and practical applications. Sports Medicine – Open. 2022;8:9. doi:10.1186/s40798-022-00411-4
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  14. Marín-Pagán C, et al. The effects of palmar cooling on repeated sprinting ability: a randomized controlled clinical trial. Sensors. 2025;25(6):1830. doi:10.3390/s25061830
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  17. 公益財団法人日本スポーツ協会. 熱中症予防運動指針/スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック. https://www.japan-sports.or.jp/medicine/heatstroke/tabid922.html
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