走るからには、足に合った一足で気持ちよく走りたい。売り場の前でそう考える場面があります。ただ、「これを履けば故障しない」という一足は、研究では特定されていません。この記事では、店頭で何を見て、どの順番で決めるかを整理します。
「厚底シューズは初心者にも必要か、デメリットはないのか」。ここでは、研究で確かめられている範囲と、指導の現場で置いている「決める順番」を分けて整理します。特定の製品を順位づけする記事ではありません。
「足の形に合わせて選ぶ」は、故障の減少では確かめられていない
「プロネーション(回内)」は、接地から蹴り出しにかけて足が内側へ倒れ込む動きです。その量やアーチの高さに応じてシューズの種類を割り当てる考え方が、長く売り場で使われてきました。
米海兵隊の新兵を対象としたランダム化比較試験(Knapik et al., 2010)が、この発想を直接検証しています。足裏の形状に応じて3種類のシューズを割り当てた群と、形状にかかわらず一律に同じ種類を渡した群を、12週間の基礎訓練で比べたものです。故障のハザード比は男性1.01(95%信頼区間 0.82〜1.24)、女性0.88(同 0.70〜1.10)でした。ハザード比は1.0が「差がない」ことを表します。著者らは、足裏の形状に基づく割り当ては、他の危険因子を考慮しても故障にほとんど影響しなかった、と結論しています。
ただし対象は軍の基礎訓練中の新兵で、市民ランナーではありません。走る以外の負荷も多く含む訓練です。読み取れるのは、機械的に割り当てる手続きが故障の減少という形では確かめられなかった、というところまで。「足の状態を一切見なくてよい」という意味ではありません。
シューズ研究のレビュー(Nigg et al., 2015)も同じ方向です。着地の衝撃の大きさと足の回内という、長く故障の主要な予測因子と考えられてきた2つの変数について、決定的な証拠が揃っていないと整理しました。著者らはかわりに、走る人が快適性の感覚で製品を直感的に選ぶことで自分本来の動きの軌道にとどまる、という枠組み(comfort filter)を提案しています。これは著者ら自身が「提案」と書いているもので、検証の済んだ法則ではありません。「快適なものを選べば故障しない」と読み替えることはできません。
クッションの硬さは、試験によって結果が分かれている
市民ランナー247名を対象とした二重盲検のランダム化比較試験(Theisen et al., 2014)があります。ミッドソール(靴底の中間層)が硬いシューズと柔らかいシューズを配り、5か月間追跡したものです。走行に用いた研究用シューズの種類は、故障と関連しませんでした(ハザード比0.92、95%信頼区間 0.57〜1.48)。春に配った靴を秋まで履いた程度の期間、と考えるとイメージしやすいかもしれません。
一方、市民ランナー848名を6か月追跡したランダム化比較試験(Malisoux et al., 2020)では、硬いシューズを受け取った群で故障が多い方向が報告されました。操作されたのはクッションの硬さだけで、厚さや素材の量ではありません。体重の軽い群では差がはっきりし、重い群では信頼区間が1.0をまたいでいます。「体重が重い人ほどクッションが必要」という直感とは逆方向ですが、体重別にどちらを選ぶべきかまで示した試験ではありません。数値は下の図のとおりです。
対象も期間も、比べたシューズの作りも、用いた統計指標も異なる別々の研究です。この2つを横に並べて比べることはできません。共通して言えるのは、クッションの硬さと故障の関係が一方向に決着していないこと。そして、どちらも市販の「厚底」「薄底」というカテゴリーを比べた研究ではないことです。走り始めの方ほど柔らかいクッションを、と一律に言える根拠も、今回調べた範囲では見当たりませんでした。
厚底シューズは初心者に必要か——測られたのは何か
厚く反発の大きいミッドソールと硬いプレートを組み合わせたシューズは、何が測られた研究なのかを先に押さえたいところです。代表的な研究の一つ(Hoogkamer et al., 2018)は、競技レベルの高い18名を対象に、当時の試作シューズと市販のマラソンレース用シューズ2種を、トレッドミル上の3つの速度で比較しました。報告されたのは、試作シューズが走行のエネルギーコストを約4%下げたこと、その低下が18名全員で見られたことです。
測られたのは、決められた速度で走るときに消費するエネルギーであって、レースの記録でも、故障の起こりやすさでもありません。市民ランナーが路面で長時間走るとき、また日常の練習で毎日履いたときに何が起きるかは、この研究が答えている問いの外にあります。
靴の作りを大きく変えること自体に負荷の変化が伴う、と読める試験もあります(Ryan et al., 2014)。市民ランナー103名を、通常・部分的にミニマリスト・完全なミニマリストの3種に無作為に割り付け、10kmレースに向けた12週間のプログラムを行ったものです。解析対象99名で報告された故障は23件。通常のシューズ群が最も少なく4件、部分的にミニマリストな群が最も多く12件でした。完全なミニマリスト群では、すねとふくらはぎの痛みの訴えが多かったと報告されています。著者らの結論は、このカテゴリーに不慣れなランナーに勧める際には慎重であるべきだ、というものです。
厚底シューズのデメリットを直接検証した研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。ここからは検証された基準ではなく、指導上の見立てです。作りが大きく違う靴に移るときは脚に伝わる負荷の質が変わるため、製品そのものより切り替え方のほうを先に見ます。レース用と日常の練習用を分けて考えるのも、検証された基準ではなく指導上の扱いになります。
現場で置いている、決める順番
ここからは研究の結論ではなく、指導上の目安としてお読みください。「この一足なら故障しない」と示されたシューズがない以上、製品を先に決めるより、決める順番のほうを整えます。
- 用途を先に決める。日常の練習用か、長い距離をゆっくり走る用か、レース用か。1足ですべてをまかなおうとすると、どの場面でも中途半端になりやすくなります。
- 履いて確かめる。走るときの靴下を持って店頭へ。つま先に指1本ぶんの余裕、かかとの浮き、甲や小指の付け根の当たりを見て、可能ならその場で数歩走らせてもらいます。ただし、試着の方法と故障の関係を検証した研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。
- 徐々に慣らす。作りが大きく違う靴に替えるときは、いきなり全部を置き換えず、短い距離から混ぜていく。
- 複数を使い分ける。用途が2つ以上あるなら、2足以上を場面で回す。消耗が一足に偏らない、雨の翌日に乾いた靴がある、という運用の話です。
別の話として、複数のシューズを並行して使っていることと故障の少なさの関連は、市民ランナー264名を22週間追跡した観察研究で報告されています(Malisoux et al., 2015。ハザード比0.614、95%信頼区間 0.389〜0.969)。介入を割り付けた試験ではないため、因果関係も、適切な足数も示されていません。
シューズは故障予防を構成する要素の一つにすぎません。ここまで見た試験では、シューズの条件を変えても故障の数が動かなかったり、動いても集団を平均した差だったりしました。一方で、負荷の増やし方や体の土台づくりについては、より一貫した報告があります。走る量の増やし方は走る距離の増やし方、体の土台は連載講座走る人の筋トレ入門、走り始めの進め方は走り始めの最初の1ヶ月で扱っています。
最後に線引きです。すでに痛みが出ている状態を、シューズを替えて解決しようとするのは順番が違います。押すと一点が痛む、腫れがある、走るたびに痛みが強くなる、歩くだけでも痛む。こうしたときは、整形外科など医療機関にご相談ください。強い痛みで体重をかけられない、転倒などの外力のあとの痛み、変形や急な腫れがある場合は、走るのをやめて当日中を目安に受診してください。これらは注意したい状態の例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません。部位別の目安は膝の外側が痛い(腸脛靱帯炎)や足底腱膜炎でも扱っています。
まとめと、次の一歩
ここで挙げた研究は、対象も期間も比べたシューズの作りも別々で、横に並べて比べることはできません。そのうえで言えるのは、次のところまでです。
- ただ、「これを履けば故障しない」という一足は、研究では特定されていません。足裏の形状で種類を割り当てる手続きは、軍の基礎訓練を対象とした試験(Knapik et al., 2010)で故障の減少と結びつきませんでした。市民ランナーが対象ではなく、「足の状態を見なくてよい」という意味でもありません。
- クッションの硬さと故障の関係は、試験によって結果が異なります(Theisen et al., 2014/Malisoux et al., 2020)。どちらも市販の「厚底」「薄底」を比べた研究ではありません。
- 厚底で測られたのは、競技レベルの高い18名がトレッドミル上を走ったときのエネルギーコスト(約4%低下)です(Hoogkamer et al., 2018)。記録でも故障でもありません。作りを大きく変えた移行を扱った試験(Ryan et al., 2014)もあり、変えること自体に負荷の変化が伴います。
- ここでは、用途を決める→履いて確かめる→徐々に慣らす→複数を使い分ける、という順番を置きます。これは検証された効果ではなく指導上の扱いです。
- シューズは故障予防を構成する要素の一つにすぎません。負荷の増やし方や体の土台づくりのほうに、より一貫した報告があります。すでに痛みが出ている場合は、シューズを替える前に医療機関にご相談ください。
いま履いている一足を「何に使う靴か」で言い直してみてください。用途が2つ以上あるのに1足で回しているなら、次の1足はその用途から選べます。
関連リンク
- シューズのローテーション——2足目と、寿命の数字の出どころ
- 走り始めに何を買うか——最初に要る3つと、後でいい5つ
- 関連記事:走る距離の増やし方 / 走り始めの最初の1ヶ月 / 膝の外側が痛い(腸脛靱帯炎)
- 体の土台から整えたいとき:連載講座走る人の筋トレ入門(走る人の下半身筋トレ)
- 用途と練習を一緒に設計したいとき:パーソナル指導(S&C/ランニング)のご案内
参考文献
- Knapik, J. J., Trone, D. W., Swedler, D. I., Villasenor, A., Bullock, S. H., Schmied, E., Bockelman, T., Han, P., & Jones, B. H. (2010). “Injury reduction effectiveness of assigning running shoes based on plantar shape in Marine Corps basic training.” The American Journal of Sports Medicine, 38(9), 1759–1767. doi:10.1177/0363546510369548
- Nigg, B. M., Baltich, J., Hoerzer, S., & Enders, H. (2015). “Running shoes and running injuries: mythbusting and a proposal for two new paradigms: ‘preferred movement path’ and ‘comfort filter’.” British Journal of Sports Medicine, 49(20), 1290–1294. doi:10.1136/bjsports-2015-095054
- Theisen, D., Malisoux, L., Genin, J., Delattre, N., Seil, R., & Urhausen, A. (2014). “Influence of midsole hardness of standard cushioned shoes on running-related injury risk.” British Journal of Sports Medicine, 48(5), 371–376. doi:10.1136/bjsports-2013-092613
- Malisoux, L., Delattre, N., Urhausen, A., & Theisen, D. (2020). “Shoe cushioning influences the running injury risk according to body mass: a randomized controlled trial involving 848 recreational runners.” The American Journal of Sports Medicine, 48(2), 473–480. doi:10.1177/0363546519892578
- Malisoux, L., Ramesh, J., Mann, R., Seil, R., Urhausen, A., & Theisen, D. (2015). “Can parallel use of different running shoes decrease running-related injury risk?” Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 25(1), 110–115. doi:10.1111/sms.12154
- Ryan, M., Elashi, M., Newsham-West, R., & Taunton, J. (2014). “Examining injury risk and pain perception in runners using minimalist footwear.” British Journal of Sports Medicine, 48(16), 1257–1262. doi:10.1136/bjsports-2012-092061
- Hoogkamer, W., Kipp, S., Frank, J. H., Farina, E. M., Luo, G., & Kram, R. (2018). “A comparison of the energetic cost of running in marathon racing shoes.” Sports Medicine, 48(4), 1009–1019. doi:10.1007/s40279-017-0811-2
