痛みが引いたら、また前と同じように走り出したい。すねの内側が痛むとき、まず知りたいのは「あと何日休めばいいのか」だと思います。結論から言うと、走行再開に、すべての人に当てはまる日数の基準はありません。この記事では、日数を数える代わりに何を確かめながら進めればよいかを整理します。
新入生が入部した直後の4月や、秋のレースに申し込んで走り込みを始める時期は、この疑問が出てきやすい場面です。研究で報告されている範囲と、医療機関に相談したい線引きを整理しておきます。診断や治療の方法をお伝えするものではなく、ご自身の状況を判断するための材料をお渡しする記事です。
すねの内側に、線で出る痛み
シンスプリントは、走る・跳ぶといった運動に伴って、すねの内側(脛骨の内側縁、多くは下から3分の1あたり)に沿って生じる痛みの総称です。一点がピンポイントで痛むのではなく、骨の縁に沿って数センチ以上の範囲に圧痛が広がるのが典型的とされています。この記事では、そのうち医学的にMTSS(medial tibial stress syndrome)と呼ばれる状態を扱います。ただし、ここに挙げた特徴は研究や診療で用いられている記述であって、読者が自分の痛みを当てはめて判定するための基準ではありません。
どのくらいの人に起こるかは、対象とする集団しだいです。初心者・市民ランナーを対象とした研究をまとめたシステマティックレビュー(Menéndez et al., 2020)では、ランナーで新たに発症した人の割合は13.2〜17.3%と報告されています。走る仲間が10人いれば1〜2人は経験している、という規模感です。海軍の新兵124名を10週間追跡した研究(Yates & White, 2004)では35%。ただしこの2つは対象集団も訓練内容も調査方法も異なる研究の値で、差を1つの要因で説明したり、直接比較したりできるものではありません。
気をつけたいのは、すねの痛みがすべてMTSSではないことです。脛骨の疲労骨折や慢性運動時コンパートメント症候群など、扱いの異なる病態も含まれます。
なりやすさは分かってきたが、個人の予測はできない
ランナーを対象とした10件の前向き研究を統合したメタ分析(Newman et al., 2013)では、いくつかの要因がMTSSの発症と統計的に関連していたと報告されています。ただしこれらは集団で見たときの関連であり、一人ひとりの発症を予測できるものではありません。
| 要因 | 報告された指標 | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| 過去にMTSSになったことがある | リスク比 3.74 | 1.17〜11.91 |
| 足底装具の使用歴がある | リスク比 2.31 | 1.56〜3.43 |
| 舟状骨降下が10mmを超える | リスク比 1.99 | 1.00〜3.96 |
| 女性である | リスク比 1.71 | 1.15〜2.54 |
| BMIが高い | 標準化平均差 0.24 | 0.08〜0.41 |
| 走歴が短い | 標準化平均差 −0.74 | −1.26〜−0.23 |
| 股関節外旋可動域が大きい(男性) | 標準化平均差 0.67 | 0.29〜1.04 |
表:MTSSと関連が報告された要因(出典: Newman et al., 2013)。リスク比は1.0より大きいほど、その要因をもつ群で発症が多かったことを示します。舟状骨降下とは、立ったときに足のアーチがどれだけ落ち込むかを測った指標です。いずれも集団での関連であり、因果関係を示すものではありません。既往歴は信頼区間が1.17〜11.91と幅が非常に広く、舟状骨降下は下限が1.00にかかります。いずれも、関連の大きさをこの数値どおりに受け取れるほど推定は確かではありません。足底装具の行も、装具が痛みの原因という意味ではありません。自分に合うかどうかは、足の状態を診た専門家の判断によります。
研究が示しているのは、こうした特徴をもつ集団で発症が多かった、という関連です。関連は因果ではありませんし、「女性だから」「アーチが低いから」と、変えられない属性を理由に走ることをためらう必要もありません。指導上の目安として言えるのは、複数が当てはまる方は、量の増やし方をよりゆるやかに見ておくと負荷の急変を避けやすい、という程度の使い方です。この目安どおりにすれば発症を防げる、という予防効果が検証されたわけではありません。効果や体の反応には個人差があります。
外からかかる要因もあります。前述のレビュー(Menéndez et al., 2020)では、週あたりの走行距離を30%を超えて増やした人でMTSSの有病率(その時点に症状がある人の割合。新たな発症の割合とは別の指標です)が高かったという、単一の研究の報告が紹介されています。前後関係が確定できる調査ではないため、増量が原因かどうかまでは分かりませんし、「30%」は守るべき境界線でもありません。距離の増やし方の全体像は走る距離の増やし方——「10%ルール」と故障予防の考え方で整理しています。
「あと何日」ではなく、確かめながら進める
前述のシステマティックレビュー(Menéndez et al., 2020)では、初心者ランナーと市民ランナーで報告された回復までの期間の平均値として、それぞれ約70日・約72日という値が紹介されています。ただし、何をもって「回復」とするか(痛みの消失か、走行の再開かなど)の定義は元の研究ごとにばらばらです。含まれた研究のうちランダム化比較試験は1件のみで、確定的な推奨を出すには至らないとも述べられています。
研究が報告しているのは、ある集団を平均したときの回復期間です。そこから言えないのは、「70日休めば走れるようになる」という個人への当てはめ。実際の経過は、痛みの程度、原因、これまでの負荷、再開の進め方によって変わります。
ここでは、休養日数を先に決めません。日数を先に置くと、その日が来れば走れるはずだという前提が入り込みます。そうなると、状態を確かめる手順が後回しになります。
そして、この記事でもっとも強調しておきたいのが次の線引きです。すねの痛みには、MTSS以外の病態も含まれます。日本の高校ランナー230名を3年間にわたって追跡した研究(Yagi et al., 2013)では、MTSSが102件記録された一方で、脛骨の疲労骨折も21件記録されています(230名全体の追跡での記録件数であり、すねの痛みを訴えた人の中での内訳比ではありません)。疲労骨折は走り続けることで状態が進みうるため、判断を先延ばしにしたくないケースにあたります。
痛みが一点に強く限局している、安静にしていても痛む、夜間に痛む、歩行など日常動作でも痛む、日を追って強くなっている——といった場合は、自己判断で様子を見るのではなく、整形外科など医療機関にご相談ください。これらは注意したい特徴の例であって、当てはまらなくても、痛みが続く・繰り返す・走行に支障がある場合は受診をご検討ください。MTSSか疲労骨折かの見きわめには、問診・診察に加えて画像による確認が必要になることがあり、記事の情報や自己判断で区別できるものではありません。
痛みが落ち着いて、医療者から運動の再開について確認が取れた段階では、2つの捉え方が役に立ちます。ひとつは、再開は「中断前の量に戻す」ではなく「落ちた状態から積み直す」と捉えること。走らない期間があれば、心肺の体力だけでなく、着地の衝撃を受け止める組織の耐性も落ちている可能性を見込んでおきます(低下の程度は中断期間や活動状況によって異なります)。もうひとつは、増やし方を「前の週との比較」だけでなく「数週間の流れ」で眺めることです(ACWRという考え方)。支える力を並行して整える視点は走りを再開するときに整える順番や走る人の下半身筋トレ、回復の土台はランナーと睡眠が参考になります。ただしこれらは健康な状態からの土台づくりの話で、痛みがある状態で何をどこまで行ってよいかは医療者の判断が優先されます。
シンスプリントは、シーズンの立ち上がり、合宿、新入生が入部した直後、大会にエントリーして急に走り込みを始めた時期に出てくることがあります。気をつけたいのは、走る量そのものより、量が変わるタイミングです。再開後に同じ痛みを繰り返す場合は、痛みが引いた時点で中断前の量に戻していないかを確かめます。これは検証された因果関係ではありませんが、負荷の急変を避けるという原則とは方向が一致します。
よくある質問
Q. 痛みがあっても走ってよいのでしょうか? A. この記事で判断することはできません。走り続けてよいかどうかは痛みの原因や程度によって異なるため、まず、その痛みが何によるものかを医療機関で確認することが先になります。
Q. どのくらい休めば走れるようになりますか? A. すべての人に当てはまる日数の基準はありません。研究で紹介されている回復期間の平均(約70日・約72日、Menéndez et al., 2020)は集団の平均であって、個人の休養期間を決める数字ではありません。
Q. シンスプリントと疲労骨折はどう見分けますか? A. 自己判断での見分けはおすすめできません。確定には診察や画像による確認が必要になることがあります。高校ランナー230名の3年間の追跡では、MTSS 102件に対して脛骨疲労骨折21件が記録されています(Yagi et al., 2013)。「すねの痛み=シンスプリント」と決めてかからないほうが安全です。
まとめと、次の一歩
ここで挙げるのは集団を対象にした研究の報告であって、ご自身の痛みが何によるものかを判定できる材料ではありません。そのうえで、要点を整理します。
- シンスプリントは、走る・跳ぶといった運動に伴って、すねの内側(脛骨の内側縁、多くは下から3分の1あたり)に沿って生じる痛みの総称です。ランナーでの発生は13.2〜17.3%と報告されています(Menéndez et al., 2020)。
- なりやすさに関連する要因(過去のMTSS既往、足底装具の使用歴、舟状骨降下10mm超、女性など)は、集団での関連であり、因果関係や個人の発症を示すものではありません(Newman et al., 2013)。
- 研究で紹介されている回復期間の平均(約70日・約72日)は集団の平均値であり、個人の休養期間を決める根拠にはなりません(Menéndez et al., 2020)。
- すねの痛みには脛骨疲労骨折など別の病態も含まれます(高校ランナー230名の3年間の追跡でMTSS 102件・疲労骨折21件の記録、Yagi et al., 2013)。一点に限局した痛み、安静時痛、夜間痛、日を追って強くなる痛みがある場合は、自己判断で走り続けず医療機関にご相談ください。これらは注意したい特徴の例であって、当てはまらなくても、痛みが続く・繰り返す場合は受診をご検討ください。
- 医療者に確認が取れた段階での一般的な考え方は、「中断前の量に戻す」ではなく「落ちた状態から積み直す」こと、増やし方を数週間の流れで眺めることです。経過には個人差があります。
この4週間の走行距離を週ごとに書き出してみてください。量が変わったタイミングが目に見えると、戻すときの起点も決めやすくなります。
関連リンク
- 故障予防の考え方——なぜ「休む」が練習になるのか(総論)
- 関連記事:走る距離の増やし方 / ACWRという考え方 / 走りを再開するときに整える順番
- 走る量の組み立てを一緒に設計したいとき:パーソナル指導(S&C/ランニング)のご案内
参考文献
- Newman, P., Witchalls, J., Waddington, G., & Adams, R. (2013). “Risk factors associated with medial tibial stress syndrome in runners: a systematic review and meta-analysis.” Open Access Journal of Sports Medicine, 4, 229–241. doi:10.2147/OAJSM.S39331
- Yates, B., & White, S. (2004). “The incidence and risk factors in the development of medial tibial stress syndrome among naval recruits.” The American Journal of Sports Medicine, 32(3), 772–780. doi:10.1177/0095399703258776
- Menéndez, C., Batalla, L., Prieto, A., Rodríguez, M. Á., Crespo, I., & Olmedillas, H. (2020). “Medial Tibial Stress Syndrome in Novice and Recreational Runners: A Systematic Review.” International Journal of Environmental Research and Public Health, 17(20), 7457. doi:10.3390/ijerph17207457
- Yagi, S., Muneta, T., & Sekiya, I. (2013). “Incidence and risk factors for medial tibial stress syndrome and tibial stress fracture in high school runners.” Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy, 21(3), 556–563. doi:10.1007/s00167-012-2160-x
