膝の​外側が​痛い——腸脛靱帯炎​(ランナー膝)の​原因と​予防の​考え方

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膝の外側に手を当てるランナーの線画イラスト

膝の外側だけがズキッと痛む。走れなくなったとき、次に知りたいのは「いつからまた走れるのか」だと思います。ただ、ランニングを再開してよいかどうか、その可否と時期の判断は医療機関の領域です。この記事では、その判断の前後でご自身が整えられる部分が、どこまで研究に支えられているかを整理します。

膝の外側の痛みでよく名前が挙がるのが「腸脛靱帯炎(ちょうけいじんたいえん/腸脛靭帯炎とも表記します)」、いわゆるランナー膝と呼ばれる故障です。診断や治療、リハビリの処方は扱いません。

腸脛靱帯炎​(ランナー膝)とは​——膝の​外側で​最も​多い​故障

結論から言うと、腸脛靱帯炎はランナーの膝の外側に起こる故障として最も多いものとされ、発生率は5〜14%と推定されています(van der Worp et al., 2012)。受診したランナーの故障を2年間さかのぼって分類した研究(Taunton et al., 2002)でも、膝蓋大腿部の痛みに次いで2番目に多い故障として報告されています。ただし受診者の集計であり、走っている人全体の割合ではありません。

腸脛靱帯は、骨盤の外側から太ももの外側を縦に走り、すねの外側につく厚い線維の帯です。膝を曲げ伸ばしするたびに、太ももの骨の外側の出っぱり(大腿骨外側上顆)のあたりで組織が圧迫される位置関係です。1回あたりの負担が小さくても、走る動作はこれを非常に多くの回数繰り返すため、ストレスが蓄積しやすい構造だと考えられています。

なお、膝の外側の痛みには腸脛靱帯炎以外の原因もあります。ご自身の痛みが何によるものかの判断は医療機関の領域です。

原因は​どこまで​分かっているか​——​「限定的で、​一致していない」

腸脛靱帯炎の文献を包括的に検討した系統的レビュー(van der Worp et al., 2012)は、病因を扱った研究のエビデンスは限定的または相反していると述べています。股関節外転筋の弱さが主要な役割を果たすかどうかも、明確ではないという評価です。一方で、腸脛靱帯炎のあるランナーとないランナーとでは、股関節・膝・足部の動きや力の出方が異なるように見えるとも報告されています。

よく引用されるのが、股関節外転筋(脚を外に開く方向に働く筋群)の筋力を比較した研究です。腸脛靱帯炎のある長距離ランナー24名と、症状のないランナー30名を比べた研究(Fredericson et al., 2000)では、症状のある側の外転筋トルクが、同じ人の反対側の脚よりも、また症状のないランナーよりも低い値だったと報告されています。

腸脛靱帯炎のある脚の股関節外転筋トルクが、同じ人の反対の脚や症状のないランナーより低かったことを示す棒グラフ
腸脛靱帯炎のある脚では、股関節外転筋のトルクが低い値でした。症状のあるランナー24名と、ないランナー30名を同時点で比べた横断的な比較であり、筋力の低さが原因であることを示すものではありません。報告値は、女性で症状のある脚7.82・同じ人の反対の脚9.82・症状のないランナー10.19、男性で6.86・8.62・9.73(いずれも%BWh)です(出典: Fredericson et al., 2000)。

この研究は「弱いから腸脛靱帯炎になる」という因果の順序を示したわけではありません。ある時点で比べた横断的なデータなので、痛みが出た結果として力が出しにくくなっていた可能性も残ります。同研究では6週間のトレーニング後に24名中22名が痛みなく走れる状態に戻ったとも報告されていますが、これは対照群を置かない前後の観察であり、その方法の効果を示すものではありません。「痛みなく走れる」の判定基準も要約からは読み取れないため、復帰までの期間の目安として使える数字ではありません。

では、走り方の側からはどう見えるか。生体力学的リスク要因を扱った系統的レビュー(Aderem & Louw, 2015)は13件の研究を統合し、シューズを履いた女性ランナーで、後に腸脛靱帯炎を発症した群は接地期の股関節内転(脚が体の中心線側に入る動き)と膝の内旋のピークが大きかったと報告しています。ただし著者らは、前向きデータが1件しかないこと、効果量が小さいこと、測定誤差が生理学的な意味を上回る可能性を限界に挙げ、これだけで臨床上の指示は導けないとしています。

現時点で言えるのは、「股関節まわりの動きの制御が関わっている可能性がある」というところまでです。

自分で​整えられる​3方​向——負荷・筋力・走り方

確立された予防法があるわけではないため、ここでは「関与している可能性のある要素を1つずつ整えておく」という考え方をとります。

1つめは、負荷の積み方です。 初心者ランナー約870名を追跡した研究(Nielsen et al., 2014)では、2週間で走行距離を30%を超えて増やしたランナーに、腸脛靱帯炎や脛の痛みなど「距離に関連する」タイプの故障が起こりやすい傾向が報告されています。ただしタイプ別に分けた分析での傾向であり、「30%」が安全と危険を分ける境界線として検証されたわけではありません(走る距離の増やし方ACWRという考え方)。

2つめは、股関節まわりの筋力です。 前述のとおり、外転筋の弱さが原因かどうかは決着していません。一方で、運動介入と外傷予防の関係を扱ったメタ分析(Lauersen et al., 2014)では、筋力トレーニングを含む介入群のスポーツ外傷リスク比が0.315(95%信頼区間0.207〜0.480)と報告されています。さまざまな競技・年代を含む外傷全般の値であって、腸脛靱帯炎に特化した予防効果を示すものではありません(走る人の下半身筋トレ走りを再開するときに整える順番)。

3つめは、走り方(ピッチ)です。 ランナー45名を対象にした計測(Heiderscheit et al., 2011)では、普段より歩数(ピッチ)を5%上げると膝が1歩あたりに吸収するエネルギーが約20%、10%上げると約34%減ったと報告されています。1分間に180歩の人なら、5%は9歩ぶんの差です。ただし健常なランナーの力学的な計測であり、腸脛靱帯炎が減るかどうかを検証した研究ではないため、自己流でフォームを大きく変える根拠にはなりません(ピッチとストライド)。

研究が示していることと、現場で置いている目安は、分けて捉えるのが安全です。

論点研究で報告されていること現場で置いている目安
距離の増やし方2週間で30%超の増加は距離に関連するタイプの故障と関連する傾向(タイプ別分析、Nielsen et al., 2014)増やした週の翌週は距離を保つか少し戻す。境界の数字を守ることが目的ではない
股関節外転筋症状のある脚でトルクが低かった(横断比較、Fredericson et al., 2000)。原因かどうかは不明(van der Worp et al., 2012)走る土台として片脚での安定性を整えておく。予防を保証する手段としては扱わない
走り方(ピッチ)ピッチを5%上げると膝の1歩あたりの吸収エネルギーが約20%減(健常者の力学計測、Heiderscheit et al., 2011)ピッチを大きく変えることは求めない。まずは極端に歩幅の大きい走りに寄っていないかを確認する程度に留める

表:腸脛靱帯炎をめぐる研究の報告と、指導上の目安の対応。右列は研究の結論ではなく、現場での運用上の目安です。効果や体の反応には個人差があります。

「いつから​走れるか」の​前に​——現場の​見方と、​痛みが​出た​ときの​線引き

膝の外側の痛みは、複数の変化が同じ時期に重なったあとに出てくることがあります。レースが近づいて距離を積み始めた、日曜に下りの多いコースへ変えた、その週にシューズを新しくした。こうした変化が2つ3つ重なっているときは、単一の原因を探すより「同時に何が変わったか」を並べるほうが手がかりになります。ただし、同じ変化が重なったからといって痛みの正体がそれで決まるわけではありません。

ここでは、走っているときのフォームより先に、止まった姿勢を見ることを優先します。片脚立ちや片脚での沈み込みで骨盤・膝がどこへ流れるかは、走行中の映像より落ち着いて確かめられるからです。あわせて、1歩の衝撃の大きさと、同じ動作が何回繰り返されたかも見ます。ただしこれは現場での見方であって、研究で検証された予防プロトコルではありません。

最後に、線引きをはっきりお伝えします。この記事で扱ったのは、健康な状態で走り続けるための負荷管理と予防の一般的な考え方であり、故障の診断・治療・リハビリの処方ではありません。すでに膝の外側に痛みが出ている場合、それを「腸脛靱帯炎だろう」と自己判断してストレッチや筋トレで走り続けようとするのは避けてください。痛みが続く、走り出して数分から数十分で決まって出る、階段の下りでも痛む、腫れや熱感があるといった場合は、整形外科など医療機関に相談してください。これは典型例の一部であって、当てはまらなくても痛みが続く・繰り返す場合は受診をご検討ください。負荷管理は健康な体の走り方を組み立てるための道具であって、痛みへの対処法ではありません。

よく​ある​質問

Q. 走ると膝の外側が痛みますが、走りながら治せますか? A. 走りながら様子を見てよいかどうかの判断は医療機関の領域です。この記事は診断・治療を扱っていません。痛みが出ている段階では、練習の工夫で解決しようとする前に受診をご検討ください。

Q. 腸脛靱帯をストレッチすれば予防できますか? A. 予防できると断定できる根拠は確認できていません。系統的レビュー(van der Worp et al., 2012)は、この領域の研究の質が高くなく結果も相反していると評価しています。外傷全般を対象としたメタ分析(Lauersen et al., 2014)でも、ストレッチ介入のリスク比は0.963(95%信頼区間0.846〜1.095)で、統計的に明確な差は示されませんでした(信頼区間はわずかな低下と上昇の両方を含みます)。ただしこれは腸脛靱帯炎に限った検証ではありません。

Q. 痛みが治まった後、どのくらいで元の距離に戻せますか? A. 復帰の可否と時期の判断は医療機関にご相談ください。そのうえで走る量を戻していく段階では、短期間で大きく跳ね上げない考え方(Nielsen et al., 2014 の傾向、およびACWR的な見方)が参考になります。個人差が大きい部分です。

まとめと、​次の​一歩

腸脛靱帯炎を予防できる方法を比較検証した研究がそろっているわけではないので、以下を「これをやれば防げる」と読むことはできません。そのうえで、要点を整理します。

  • 腸脛靱帯炎は、ランナーの膝の外側の故障として最も多いとされ、発生率は5〜14%と推定されています(van der Worp et al., 2012)。
  • 原因についての研究は限定的で結果も一致しておらず、股関節外転筋の弱さが主要な役割を果たすかは明確ではないと評価されています(van der Worp et al., 2012)。症状のある脚で外転筋トルクが低かったという報告(Fredericson et al., 2000)も横断的な比較であり、因果の順序を示すものではありません。
  • 予防の観点から整える候補になるのは、負荷の積み方・股関節まわりの筋力・走り方の3方向です。いずれも腸脛靱帯炎への予防効果が直接検証されたものではなく、関与しうる要素を整える目安として扱っています。
  • 痛みがあるときは自己判断で走り続けず、医療機関にご相談ください。効果や体の反応には個人差があります。

痛みが出た週とその前の週に「何を変えたか」を並べて書き出してみてください。距離・コースの起伏・シューズ・レースまでの残り週数の4つだけでも、重なりが見えてきます。

関連リンク


参考文献

  1. van der Worp, M. P., van der Horst, N., de Wijer, A., Backx, F. J. G., & Nijhuis-van der Sanden, M. W. G. (2012). “Iliotibial band syndrome in runners: a systematic review.” Sports Medicine, 42(11), 969–992. doi:10.2165/11635400-000000000-00000
  2. Fredericson, M., Cookingham, C. L., Chaudhari, A. M., Dowdell, B. C., Oestreicher, N., & Sahrmann, S. A. (2000). “Hip abductor weakness in distance runners with iliotibial band syndrome.” Clinical Journal of Sport Medicine, 10(3), 169–175. doi:10.1097/00042752-200007000-00004
  3. Aderem, J., & Louw, Q. A. (2015). “Biomechanical risk factors associated with iliotibial band syndrome in runners: a systematic review.” BMC Musculoskeletal Disorders, 16, 356. doi:10.1186/s12891-015-0808-7
  4. Taunton, J. E., Ryan, M. B., Clement, D. B., McKenzie, D. C., Lloyd-Smith, D. R., & Zumbo, B. D. (2002). “A retrospective case-control analysis of 2002 running injuries.” British Journal of Sports Medicine, 36(2), 95–101. doi:10.1136/bjsm.36.2.95
  5. Nielsen, R. O., Parner, E. T., Nohr, E. A., Sørensen, H., Lind, M., & Rasmussen, S. (2014). “Excessive Progression in Weekly Running Distance and Risk of Running-Related Injuries: An Association Which Varies According to Type of Injury.” Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 44(10), 739–747. doi:10.2519/jospt.2014.5164
  6. Lauersen, J. B., Bertelsen, D. M., & Andersen, L. B. (2014). “The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials.” British Journal of Sports Medicine, 48(11), 871–877. doi:10.1136/bjsports-2013-092538
  7. Heiderscheit, B. C., Chumanov, E. S., Michalski, M. P., Wille, C. M., & Ryan, M. B. (2011). “Effects of step rate manipulation on joint mechanics during running.” Medicine & Science in Sports & Exercise, 43(2), 296–302. PMID: 20581720
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人に対する医学的助言・診断・治療を目的とするものではありません。体調や既往症に不安がある方は、必ず医師等の専門家にご相談ください。運動実施による結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。

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