ランニングの​疲労回復——栄養と​休養に​ついて​報告されている​こと

出典6件・すべて一次情報にリンク

タオルを首にかけて水分補給する人の線画イラスト

走った疲れは、できるだけ翌日に持ち越したくない。走る量が増えるほど、その願いは切実になります。結論から書くと、ランニングの疲れが抜けないときに先に見直す価値があるのは睡眠と練習量の管理で、栄養はそれを支える土台という位置づけです(この優先順位そのものを比較検証した研究はありません)。この記事では、走るか休むかを決める前に、どこから確かめるかの順番を示します。

「走った後は何を食べればいいですか」という疑問は挙がりやすいところです。ただ、研究の蓄積が厚いのは、むしろ睡眠や練習量の管理のほうでした。ここでいう疲労回復は、練習で受けた刺激が体力として積み上がる過程と、次の練習を予定どおり行える状態に戻るまでの過程を指します。翌日以降に走れるかどうかまで含めた、広い意味です。

疲れが​抜けない​とき、​どこから​確かめるか

指導上は、①睡眠を削っていないか ②練習量の増やし方が急でないか ③日々の食事と水分が練習量に見合っているか、の順で見ます。特定の食品や補助食品を検討するのは、この3つを確認したあと。ただし、この順位そのものを比較して検証した研究があるわけではありません。研究の蓄積の厚さと、日常のなかで動かせる幅の大きさから採っている整理です。

睡眠を削ると、運動の成績や判断・反応の速さに不利に働きうることが総説にまとめられています(Fullagar et al., 2015)。ただしこの総説は、結果が一致していないことも同時に述べており、最大に近い力の発揮や大きな動作は保たれる場合があるとしています。詳しくは走る人の睡眠へ。練習量の増やし方は走る距離の増やし方、数週間の流れで負荷の波を眺める方法はACWRという考え方で扱っています。

栄養に​ついて​研究が​報告している​こと

比較的はっきり報告されているのは、体内に蓄えられた糖(筋グリコーゲン)の回復と、失った水分・電解質の補充です。栄養はこの土台を支える位置にありますが、足りている人がさらに増やせば回復が速くなる、という意味ではありません。扱うのは栄養素レベルの一般的な情報と研究の報告値までで、特定の食品・飲料・補助食品の効果は扱いません。

糖質は、量だけでなく利用可能性(carbohydrate availability)という枠組みで捉えられています(Burke, Hawley, Wong & Jeukendrup, 2011)。1日の総摂取量と、運動との時間関係の両方から判断する考え方です。摂るタイミングを直接調べた古典的な実験もあります。男性サイクリスト12名に70分の自転車運動を行わせ、糖質溶液を運動直後に摂る条件と2時間後に摂る条件を比べたものです(Ivy et al., 1988)。

運動後0〜2時間の筋グリコーゲン貯蔵速度は直後に摂取した条件で7.7、2時間後に摂取した条件で2.5。運動後2〜4時間はそれぞれ4.3と4.1でほぼ並ぶ。単位は1時間あたりμmol/g湿重量。
運動後の筋グリコーゲン貯蔵速度(出典: Ivy et al., 1988)。明るい青の「運動2時間後に摂取」条件の0〜2時間は、まだ糖質を摂っていない時間帯にあたります。男性サイクリスト12名・自転車運動・筋生検による4時間の急性実験であり、翌日の走りや故障の起こりやすさを調べたものではありません。

運動後0〜2時間の貯蔵速度は、直後に摂った条件のほうが速いという結果でした(数値は図のとおり)。著者らは、糖質の摂取を遅らせると筋グリコーゲンの貯蔵速度が下がるとみられる、と結論しています。摂取後の2〜4時間では両条件がほぼ並びます(数値は図のとおり)。ただし、「4時間のあいだの貯蔵速度に差がついた」ことと、「次の練習の質が変わる」ことは別の主張です。12名の急性実験であり、翌日の走りや体感、故障の起こりやすさは調べられていません。

たんぱく質でよく引かれる「1日あたり体重1kgにつき1.62g」という数値は、49件の試験を統合したメタ分析(Morton et al., 2018)が、筋力トレーニングによる除脂肪量の増加の頭打ちとして推定した値です。原著自身がこの二相回帰モデルは統計的に有意ではなかった(p=0.079)と記しており、対象も筋力トレーニングを行う人で、測っているのは筋量と筋力です。ランナーの疲労回復や翌日の体感を調べたものではありません。

水分は、単一の研究より専門団体のガイダンスが参照されます。アメリカスポーツ医学会のポジションスタンド(Sawka et al., 2007)は、運動中に飲む目的を「体重の2%を超える脱水と、電解質バランスの過度な変化を避けること」と述べ、発汗量と汗の電解質濃度には個人差が大きいため、画一的な量ではなく個別化した水分補給計画が推奨されるとしています。これは専門団体がまとめた推奨であって、単一の実験結果ではありません。

栄養素報告・推奨されていることこの記事から言えないこと
糖質利用可能性は総摂取量と運動との時間関係で決まる(Burke et al., 2011)。摂取を2時間遅らせると運動後の筋グリコーゲン貯蔵速度が下がった(Ivy et al., 1988)翌日の走りや故障の起こりやすさが変わるか
たんぱく質筋力トレーニング下で、補給は筋力・除脂肪量をわずかに増やす。除脂肪量の増加は総摂取量1.62g/kg/日(95%信頼区間 1.03〜2.20)付近で頭打ちと推定(Morton et al., 2018)ランナーの疲労回復・翌日の体感への効果
水分体重の2%を超える脱水と電解質バランスの過度な変化を避ける。発汗量の個人差が大きく個別化が推奨(Sawka et al., 2007)一律に何mL飲めばよいか

表:栄養について報告されていることの整理。各行の根拠は研究の種類(総説/12名の急性実験/49件のメタ分析/専門団体の推奨)も対象集団も異なるため、行どうしを同じ確からしさとして並べることはできません。いずれも特定の食品・飲料・補助食品の効果を示すものではありません。

栄養以外の​手法は、​どこまで​示されているか

99件の研究を統合したメタ分析(Dupuy et al., 2018)は、マッサージなど複数の手法で運動後の筋肉痛の減少が報告されたとしています(標準化された効果量(Hedges’ g)−2.26〜−0.40。この分析では負の値が「筋肉痛が減った」方向です)。一方、ストレッチには痛みが減る方向の効果は示されていません。統合されたのは主に運動後数日以内の主観的な筋肉痛や疲労感、血液の指標であって、数週間先のパフォーマンスや故障の起こりやすさではありません。クールダウンや運動後ストレッチは走った後のクールダウンとストレッチで扱っています。

走るか​休むかを、​現場では​どう​見ているか

ここからは研究の結論ではなく、指導上どう扱っているかです。研究から言えるのは上に並べた範囲までで、そこから言えないのは「この順番でこう食べれば疲労が抜ける」といった具体的な指示です。

ここでは、食事のタイミングより生活リズムを先に整えます。Ivy et al.(1988)が示したのは4時間のあいだの差であって、次の練習まで1日以上あく人が分単位で急ぐ根拠にはならないからです。1日に2回練習する時期や連日レースが続く局面のように、回復に使える時間そのものが短いとき。そこではじめてタイミングを意識する、という扱いにしています。

たとえば走る量が増えた週も、食事が以前のままになっていることがあります。週末のロング走を15kmから20kmに伸ばした月でも、平日の昼食はコンビニのおにぎり1個のまま。これは検証された手順ではなく、指導上の見方です。

水分は体重で確かめます。Sawka et al.(2007)が挙げているとおり、練習前後の体重差は発汗量の推定に使えます。体重60kgの方なら、1.2kg減ったところが「2%」にあたる計算です。ただし1回の測定でその日の状態が決まるわけではなく、必要量の個人差も大きいままです。暑い時期に「水だけを大量に飲めばよい」という形も勧めていません。

そして、週のなかに走らない日を置く組み方を勧めます。休養日を完全休養にするか軽い運動にするかは、研究でも結論が一つに定まっていない領域です。

最後に線引きです。数週間にわたって疲労感が抜けない、練習量を減らしても戻らない、安静時の心拍や睡眠が普段と違う、体重が意図せず減る、めまいや立ちくらみが続く、月経の状態が変わった——こうした状態が続く場合は、練習と食事の工夫で様子を見る対象ではありません。医療機関で評価される必要のある背景(エネルギーや栄養素の不足、血液の状態、内分泌に関わる問題など)が関わることがあります。これらは注意したい例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません。自己判断で補助食品を足す前に、医師など医療機関にご相談ください。食事内容そのものの設計については、管理栄養士など栄養の専門職が適切な相談先です。

まとめ

指導上の優先順位そのものを比較して検証した研究はありません。そのうえで、現時点で書けることを並べます。

  • 糖質の利用可能性は、1日の総摂取量と運動との時間関係で決まると総説が述べています(Burke et al., 2011)。摂取を2時間遅らせた実験で筋グリコーゲンの貯蔵速度が下がったのは12名の急性実験であり、翌日の走りを調べたものではありません(Ivy et al., 1988)。
  • たんぱく質の1.62g/kg/日(Morton et al., 2018)は筋力トレーニング下での推定で、モデルは統計的に有意ではなく(p=0.079)、対象もランナーの疲労回復ではありません。水分は個人差が大きいため、個別化した計画が推奨されています(Sawka et al., 2007。専門団体の推奨であり単一の実験結果ではありません)。
  • タイミングより生活リズム、特別な食品より普段の食事の量と回数を先に見ます。これは検証された手順ではなく指導上の扱いです。疲労感が数週間続く場合や、体重・睡眠・月経などの変化を伴う場合は医療機関へ。この記事は一般的な情報であり、特定の食品・補助食品の効果を示すものではありません。

練習日誌に一行だけ足してみてください。走った日の就寝時刻を1週間分並べてみると、食事の中身より先に動かせる場所が見えてくることがあります。

関連リンク


参考文献

  1. Burke, L. M., Hawley, J. A., Wong, S. H. S., & Jeukendrup, A. E. (2011). “Carbohydrates for training and competition.” Journal of Sports Sciences, 29(sup1), S17–S27. doi:10.1080/02640414.2011.585473
  2. Ivy, J. L., Katz, A. L., Cutler, C. L., Sherman, W. M., & Coyle, E. F. (1988). “Muscle glycogen synthesis after exercise: effect of time of carbohydrate ingestion.” Journal of Applied Physiology, 64(4), 1480–1485. doi:10.1152/jappl.1988.64.4.1480
  3. Morton, R. W., Murphy, K. T., McKellar, S. R., Schoenfeld, B. J., Henselmans, M., Helms, E., Aragon, A. A., Devries, M. C., Banfield, L., Krieger, J. W., & Phillips, S. M. (2018). “A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults.” British Journal of Sports Medicine, 52(6), 376–384. doi:10.1136/bjsports-2017-097608
  4. American College of Sports Medicine, Sawka, M. N., Burke, L. M., Eichner, E. R., Maughan, R. J., Montain, S. J., & Stachenfeld, N. S. (2007). “American College of Sports Medicine position stand. Exercise and fluid replacement.” Medicine and Science in Sports and Exercise, 39(2), 377–390. doi:10.1249/mss.0b013e31802ca597
  5. Dupuy, O., Douzi, W., Theurot, D., Bosquet, L., & Dugué, B. (2018). “An evidence-based approach for choosing post-exercise recovery techniques to reduce markers of muscle damage, soreness, fatigue, and inflammation: a systematic review with meta-analysis.” Frontiers in Physiology, 9, 403. doi:10.3389/fphys.2018.00403
  6. Fullagar, H. H. K., Skorski, S., Duffield, R., Hammes, D., Coutts, A. J., & Meyer, T. (2015). “Sleep and Athletic Performance: The Effects of Sleep Loss on Exercise Performance, and Physiological and Cognitive Responses to Exercise.” Sports Medicine, 45(2), 161–186. doi:10.1007/s40279-014-0260-0
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人に対する医学的助言・診断・治療を目的とするものではありません。体調や既往症に不安がある方は、必ず医師等の専門家にご相談ください。運動実施による結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。

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