中学生の​クレアチン——成長期に​ついて​分かっている​ことと、​分かっていない​こと

出典9件・すべて一次情報にリンク

食卓で向かい合って話す保護者と中学生の線画イラスト

中学2年生の息子さんがSNSでクレアチンの動画を見て、その夜「飲んでみたい」と言い出した——たとえば、そうした場面を想定しています。先に書いておくと、この記事は中学生が飲んでも大丈夫だとも、やめておくべきだとも結論しません。書けるのは、成人でどこまで調べられているのか、成長期についてはどこから先が調べられていないのか、という線引きだけです。

この記事で並べるのは、商品の比較ではなく、研究が対象にした範囲から判断するための材料です。栄養と休養の全体像はランニングの疲労回復、サプリメント全般の位置づけはランナーにプロテインは必要かで扱っています。この記事では商品名・ブランド名を出さず、購入先の案内もしていません。

先に、​分かっている​ことと​分かっていない​ことを​並べる

論点報告されていること今回調べた範囲で分からないこと
どんな運動で150秒未満の高強度運動。とくに30秒未満の全力運動(近藤, 2020)中学生の中距離・長距離の記録がどう変わるか
どれくらい1回の高強度運動で+1〜5%、反復高強度運動で+5〜15%(いずれも150秒未満の高強度運動での値。近藤, 2020)同じ数値が成長期にもあてはまるか
何を対象にした研究か体組成とパフォーマンスのメタ分析(Branch, 2003)、上肢筋力のメタ分析(Lanhers et al., 2017)中学生年代を対象にした同種の統合研究の有無
体の中で起きること筋内のクレアチン貯蔵量が最大30%まで増えると報告されている(Harris et al., 1992)成長期に長く続けたときの体への影響
体重ローディング期(導入期)のあとに1〜2kg増えることがよく報告されている(近藤, 2020)成長による増加と切り分ける方法
製品の中身ラベルに表示されていない物質が含まれている可能性が指摘されている(JADA/日本陸連)手元の製品が表示どおりかどうか

表:クレアチンについて報告されている範囲と、今回調べた範囲では確認できなかった点。出典: 近藤, 2020 / Branch, 2003 / Lanhers et al., 2017 / Harris et al., 1992 / 日本アンチ・ドーピング機構 / 日本陸上競技連盟。中列は成人を対象にした報告です。うち運動パフォーマンスの数値は150秒未満の高強度運動を中心としたものであり、中学生に対する可否や量を示したものではありません。

数値の中身を見ます。成人で報告されている数値は、150秒未満の高強度運動、なかでも30秒未満の全力運動でとくに認められたものです(近藤, 2020)。国立スポーツ科学センターの研究者による解説は、多くのレビューが1回の高強度運動で+1〜5%、反復高強度運動で+5〜15%の向上を示していると整理し、同じ文の直後にこの時間の限定を置いています。

その+5〜15%を支える文献として挙げられているのは2件だけです。1件は体組成とパフォーマンスを扱った2003年のメタ分析(Branch, 2003)、もう1件は上肢筋力のシステマティックレビューとメタ分析(Lanhers et al., 2017)。走る競技の記録を集めたものではありません。

ここは誤読が起きやすい箇所です。反復高強度運動で+5〜15%というのは、高強度の局面を繰り返したときの改善率であって、1本のレースのタイムが5〜15%速くなるという意味にはなりません。仮にこの数値がレースのタイムにそのまま当てはまるとしたら、1500mを4分30秒(270秒)で走る中学生で5%でも13秒以上、15%なら40秒以上の短縮になる計算です。これは「もし当てはまるなら、ありえない規模になってしまう」ことを確かめるための計算であって、実際に起きるという報告ではありません。この規模の記録短縮を示した研究は、今回参照した解説のなかには出てきません。

体の中で起きることも押さえておきます。クレアチンはもともと体内にあり、肉や魚にも含まれる物質です。摂取によって筋内の貯蔵量が最大30%まで増えると報告されており(Harris et al., 1992)、その増え方はもとの濃度に反比例するとされています。もともと貯蔵量が多い人ほど、増える余地は小さいという言い方になります。

国際オリンピック委員会の合意声明(Maughan et al., 2018)は、カフェイン・クレアチン・特定の緩衝剤・硝酸塩を、利益のエビデンスが良好な少数のものとして挙げています。ただしこれは推奨でも保証でもありません。同じ声明は、使用を決める前の栄養評価、専門家の関与、意図しない禁止物質の摂取と健康被害への留意を求めています。

成長期の​データは、​どこまであるのか

この節は短くなります。書ける材料が少ないからです。

まず、ここまで軸にしてきた日本語の解説(近藤, 2020)には、未成年についての記述がありません。したがって、この論文を根拠に中学生の可否を語ることはできません。あわせて同じ解説は、現在使われている摂取プロトコルが主に男性を対象とした初期の研究で確立されたものだと書いています。成人男性で組まれた手順を、成長の途中にある体にそのまま当てはめる根拠は、そこにはありません。

成長期の選手を対象に長期の安全性を追跡した研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。ここで注意したいのは、データがないことは、安全の証明でも危険の証明でもないという点です。分かっていないことを、どちらかの結論に読み替えないでいただければと思います。

思春期の選手を対象としたポジションステートメント(Desbrow et al., 2014)は、栄養素の必要量は補助食品ではなく中心となる食品で満たされるべきだという立場を示しています。理由として挙げられているのは、発達段階の選手に補助食品を勧めると、練習や食事といった他の工夫に比べて、補助食品が競技力を左右する度合いを過大に見せてしまう点です。この記事の順番も、そこに合わせています。

日本陸上競技連盟の医事委員会が公開しているQ&Aは、プロテインについて「そもそも選手が摂取する必要のあるたんぱく質を食事で確保することは、そう難しくはありません」と述べています。そのうえで、自分は本当に必要かを検討することが重要だとしています。クレアチンについての記述ではありませんが、ジュニア年代とサプリメントに対する競技団体の立場が読み取れる箇所です。

たとえば、練習が終わってから寝るまでの時間に食事の空白がある場合。塾や移動で夕食が21時を過ぎる、朝は食べる時間が取れない。そうした週にサプリメントを1つ足しても、埋まるのは空白のごく一部です。先に埋めたいのは食事と睡眠の側です(走る人の睡眠)。この年代の体づくりの考え方そのものは、発達期の運動の考え方でも触れています。

体重が​1〜2kg増えると​いう​論点

ローディング期とは、短い期間に集中的に摂取して体内の貯蔵量を高める導入のやり方を指します(この記事では具体的な量や日数には踏み込みません)。そのローディング期のあとに体重が1〜2kg増えることはよく報告されている——これが近藤(2020)の記述です。そのうえで同じ解説は、それが持久系競技のほか、体重に敏感なスポーツのパフォーマンスに対して不利に働くため、使用する際には考慮する必要があると述べています。持久系競技のアスリートにとって利点はあまり認識されていない可能性がある、という一文も置かれています。

つまり中距離や長距離を走る中学生にとって、体重の増加はおまけの話ではなく、判断材料の中心に来ます。柔道やレスリングのような階級制の競技、体操や新体操のように体重管理と評価が近い競技では、この論点はさらに直接的です。効果の側だけを見て決められる話ではありません。

一方で、中学生年代は体重そのものが動く時期でもあります。身長が伸び、除脂肪量も増えていきます。難しいのは、1〜2kgの増減が成長によるものか、練習量の変化によるものか、足したものによるものかを、あとから切り分けられない点です。何かを足すなら、変化を読める状態を先に作っておきたいところです。

なお、体重を意図的に増やす・減らすという話に、この記事は踏み込みません。体重が意図せず減っている、疲労が長く抜けない、月経の状態が変わった——こうした変化があるときは、栄養素を足して調整する場面ではありません。医療機関にご相談ください。

中身が​表示どおりとは​限らない、と​いう​別の​リスク

効果の話とは独立に、製品の中身という論点があります。ここは効果に納得したかどうかとは関係なく残る論点です。

日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の説明では、サプリメントは医薬品とは異なり、法律上は「食品」に分類されます。あわせて、食品には商品の成分表にすべての原材料を記載する義務がないとして、ラベルに表示されていない物質が含まれている可能性を指摘しています。表示されていない物質が原因でルール違反となった場合でも、責任はアスリート自身が負うと明記されています。

日本陸連の医事委員会のQ&Aも、日本ではサプリメントの含有成分をすべて表示する義務がないため、商品ラベルに記載されていない禁止物質を含んでいる可能性があると説明しています。同じQ&Aでは、3,132のサプリメント製品のうち約3割にあたる875製品に、アナボリックステロイドなどラベルに未表示の禁止物質が混入していたという調査報告が紹介されています。調査の時期や対象地域はQ&A本文に明示されていないため、いまの日本で流通する製品の3割にあてはまる数字として読むことはできませんが、「表示がすべてではない」ことを示す例として挙げられています。

検査の対象になる場面は、大会の格や年代、競技によって異なります。所属している学校の部活動、地域の競技団体、各競技連盟の情報をご確認ください。進路が上に伸びるほど、この論点は本人の側に返ってきます。

ドーピングを別にしても、成分と量が表示どおりかどうかは、成長期の体に何を入れるのかという一般的な安全の話でもあります。ここは家庭だけで確認しきれる領域ではありません。だからこそ、次の節の相談先が意味を持ちます。

まとめと、​今日できる​最初の​一歩

ここに並べたのは成人を対象にした研究の報告と、公的な機関が公開している注意です。読んでいる方のお子さんが飲んでよいかを決めるものではありません。

  • 成人で報告されている数値は、150秒未満の高強度運動、なかでも30秒未満の全力運動でとくに認められたものです(近藤, 2020)。根拠として挙がる2件は体組成とパフォーマンスのメタ分析(Branch, 2003)と上肢筋力のメタ分析(Lanhers et al., 2017)で、走る競技の記録を集めたものではありません。
  • 反復高強度運動での+5〜15%(これも150秒未満の高強度運動での報告です)は、1本のレースのタイムが5〜15%速くなるという意味にはなりません。筋内貯蔵量は最大30%まで増えると報告され、増え方はもとの濃度に反比例するとされています(Harris et al., 1992)。
  • 成長期の選手を対象に長期の安全性を追跡した研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。データがないことは、安全の証明でも危険の証明でもありません。軸にした解説(近藤, 2020)にも未成年の記述はなく、プロトコルは主に成人男性の研究で確立されたものだとされています。
  • ローディング期のあとに体重が1〜2kg増えることがよく報告され、持久系や体重に敏感な競技では不利に働くとされています(近藤, 2020)。中学生年代では、成長による変化と切り分けにくい点も残ります。
  • 製品には、ラベルに表示されていない物質が含まれている可能性が指摘されています(JADA/日本陸連)。責任はアスリート自身が負うとされています。
  • 思春期の選手については、必要量を補助食品ではなく中心となる食品から満たす立場が示されています(Desbrow et al., 2014)。国際オリンピック委員会の合意声明も、使用を決める前の栄養評価と専門家の関与を求めています(Maughan et al., 2018)。

最終的な判断は、保護者の方に残ります。そのうえで、判断を1人で抱えないための相談先があります。栄養の設計は公認スポーツ栄養士、体調や既往に関わることは医師です。学校の部活動であれば、顧問の先生と情報を共有しておくと判断がずれにくくなります。

製品の中身とドーピングに関する一次情報は、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)のサプリメントに関する解説日本陸連 医事委員会のQ&Aで直接確認できます。

今週のうち1日だけ、練習が終わってから寝るまでの時間割を書き出してみてください。何時に帰宅して、何を食べて、何時に寝たのか。サプリメントを検討するのは、その空白が見えてからでも遅くありません。その夜の答えは、「今日は結論を出さないけれど、何が分かっていて何が分かっていないかは一緒に見よう」で構いません。

関連リンク


参考文献

  1. 近藤衣美(2020)「直接的にパフォーマンスを向上させるサプリメントの科学的根拠」『Journal of High Performance Sport』5, 93–105. doi:10.32155/jissjhps.5.0_93
  2. Branch, J. D. (2003). “Effect of creatine supplementation on body composition and performance: a meta-analysis.” International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 13(2), 198–226. doi:10.1123/ijsnem.13.2.198
  3. Lanhers, C., Pereira, B., Naughton, G., Trousselard, M., Lesage, F. X., & Dutheil, F. (2017). “Creatine supplementation and upper limb strength performance: a systematic review and meta-analysis.” Sports Medicine, 47(1), 163–173. doi:10.1007/s40279-016-0571-4
  4. Harris, R. C., Söderlund, K., & Hultman, E. (1992). “Elevation of creatine in resting and exercised muscle of normal subjects by creatine supplementation.” Clinical Science, 83(3), 367–374. doi:10.1042/cs0830367
  5. Desbrow, B., McCormack, J., Burke, L. M., Cox, G. R., Fallon, K., Hislop, M., Logan, R., Marino, N., Sawyer, S. M., Shaw, G., Star, A., Vidgen, H., & Leveritt, M. (2014). “Sports Dietitians Australia position statement: sports nutrition for the adolescent athlete.” International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 24(5), 570–584. doi:10.1123/ijsnem.2014-0031
  6. Maughan, R. J., Burke, L. M., Dvorak, J., Larson-Meyer, D. E., Peeling, P., Phillips, S. M., Rawson, E. S., Walsh, N. P., Garthe, I., Geyer, H., Meeusen, R., van Loon, L. J. C., Shirreffs, S. M., Spriet, L. L., Stuart, M., Vernec, A., Currell, K., Ali, V. M., Budgett, R. G., Ljungqvist, A., Mountjoy, M., Pitsiladis, Y. P., Soligard, T., Erdener, U., & Engebretsen, L. (2018). “IOC consensus statement: dietary supplements and the high-performance athlete.” British Journal of Sports Medicine, 52(7), 439–455. doi:10.1136/bjsports-2018-099027
  7. 日本アンチ・ドーピング機構(JADA)「アンチ・ドーピングとサプリメント」. https://www.playtruejapan.org/code/rule/supplement.html(2026年8月確認)
  8. 日本陸上競技連盟 医事委員会「Q&A」. https://www.jaaf.or.jp/about/resist/medical/qanda/(2026年8月確認)
  9. 公益社団法人 日本栄養士会「公認スポーツ栄養士」. https://www.dietitian.or.jp/career/specialcertifications/sports/(2026年8月確認)
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人に対する医学的助言・診断・治療を目的とするものではありません。体調や既往症に不安がある方は、必ず医師等の専門家にご相談ください。運動実施による結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。

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