ランニングの​「ピッチと​ストライド」​——自分に​合う​歩数の​見つけ方

歩幅の分かる横向きで走る人の線画イラスト

ピッチとストライド、上げるならどっちなのか。ランニングの歩数を数えてみたら160歩台で、「遅すぎるのでは」と気になったとき、どう考えるか。先に結論を書くと、「1分間180歩」はエリート選手をエリートの速さで観察した数字がもとで、市民ランナーにそのまま当てはまる一律の正解ではないと考えられています(Daniels, 2005)。この記事では、自分の歩数の測り方と、変えるかどうかの判断材料をまとめます。

ピッチ(1分間の歩数=ケイデンス)とストライド(1歩の歩幅)は、片方だけを取り出しても意味を持ちません。まず、その関係から確かめます。

ピッチと​ストライド、​どっちを​上げるかの​前に

走る速さは「ピッチ(1分あたりの歩数)」と「ストライド(1歩の歩幅)」の掛け算で決まります。同じスピードでも、歩数を多くして歩幅を狭くする走り方もあれば、その逆もある。どっちを上げるかの前に押さえておきたいのは、どちらもスピードが上がれば自然に増える、という点です。

ゆっくりのジョグと、レースペースの全力走とでは、同じ人でもピッチは変わります。「自分のピッチは○○歩」と一つの数字で言い切れるものではなく、走る速さとセットで初めて意味を持つ数字です。

180という目安は、生理学者のジャック・ダニエルズ氏が1984年のロサンゼルス五輪で長距離種目の選手の歩数を数えたところ、多くがおよそ180歩/分以上だった、という観察が広まったものとされています(Daniels, 2005)。エリート選手が、エリートのスピードで走っていたときの数字です。市民ランナーが普段のジョグで出す速さはそれより遅いのが普通で、同じ180を当てはめる根拠にはなりにくいとされています。市民ランナーの平均は160歩台という報告もあります。

ピッチを​上げると、​ひざの​1歩あたりの​負担は​下がる

健康なランナー45名に、いつものピッチから±5%、±10%と歩数を変えて走ってもらった研究があります(Heiderscheit et al., 2011)。ピッチを上げる(=1歩の歩幅を少し狭める)と、上下動が小さくなり、ひざ関節が1歩ごとに吸収するエネルギーが減ることが報告されています。具体的には、ピッチを5%上げるとひざの吸収エネルギーが約20%、10%上げると約34%減ったとされています。

普段のピッチを5%上げるとひざが1歩で吸収するエネルギーは約20%、10%上げると約34%減ることを示す棒グラフ
ピッチ(歩数)を上げると、ひざが1歩あたりに吸収するエネルギーは減る傾向が報告されています(出典: Heiderscheit et al., 2011)。

この分野の研究をまとめたレビューでも、歩数を増やして歩幅を狭める方向の変更は、ランニング障害と関連づけられるいくつかの力学的な負担を減らす傾向がある、と整理されています(Schubert, Kempf & Heiderscheit, 2014)。

ではピッチは高いほど良いのか。そう単純ではありません。これらが扱っているのは主に「関節にかかる1歩あたりの負担」で、走りの燃費(ランニングエコノミー)やタイムが良くなる、という話とは別の軸です。1歩の負担が減っても、歩数が増えるぶん筋肉を動かす回数は増えます。どこかに最適なバランスがあるとされ、その位置は体格やスピードによって変わります。

「180が正解」でも「高いほど良い」でもなく、負担の分散という観点で調整の余地がある要素。着地時にひざや脛への負担が気になる方には、いじってみる価値のある変数です。接地の「型」や重心の位置についてはランニングフォームの基本で扱っています。なお、痛みがある状態でフォームを自己流に変えるのは勧められません。すでに痛みが出ている場合は、まず医療機関にご相談ください。

今の​自分の​ピッチを、​30秒で​測る

一律の正解がない以上、まずは「今の自分のピッチを知る」ことからです。難しい機材は要りません。

平地を普段のジョグのペースで走りながら、30秒間の歩数(両脚合計)を数えて2倍する。右足の着地だけを数えるなら、15秒の回数を8倍します(左右はほぼ交互に接地するため、片脚は全体の半分にあたります)。GPSウォッチやランニングアプリを使っている方は、ケイデンス(spm=steps per minute)の項目に自動で記録されていることが多いので、そちらが手軽です。

コツは、「どのスピードで測ったか」をセットで記録しておくこと。一つの目安として、普段のジョグペースと、目標レースペースに近い速さの2つで測っておくと、自分のピッチがスピードでどう動くかが見えてきます。

数字が160歩台でも、それだけで「悪い」と判断する必要はありません。個人差がありますが、脚が長い方はストライドが伸びやすく、そのぶんピッチは低めに出やすい傾向があります。絶対値より、地面に叩きつけるような接地になっていないか、1歩ごとにブレーキがかかる感じがないか。ピッチは、その質を整えるための手がかりの一つです。

上げるなら​5%ずつ。​現場での​進め方

ここからは研究の結論ではなく、指導上の目安です。歩数は、測ってから決めます。数字を見ないまま180に合わせにいくと、走りがせわしなくなり、かえって力んで疲れやすくなることがあります。

先ほどの研究で扱われていた変更幅も±5%、±10%でした。現実的な進め方としては、まず今のピッチの5%増。今が160歩/分なら、5%増はおよそ168歩です。1分あたり8歩、7〜8秒に1歩だけ多く刻む感覚。メトロノームアプリや、その歩数に合ったテンポの音楽を使い、短い区間から合わせていきます。

たとえば水曜の夜、いつものジョグの折り返しから3分だけ新しい歩数で走る。全体を通して変えようとすると負担が急に変わるので、「一部だけ」から始めるほうが続けやすくなります。数週間かけて慣れてから、必要なら次の5%を検討する。急いで固定しないほうが、結果的に定着する傾向があります。

もう一つ。ピッチだけを取り出して考えないことです。歩幅を保ったままピッチを上げるには、地面を押す力や、接地の一瞬で姿勢を支える力も関わります。ここが不足していると、歩数を上げても走りが安定しづらい。脚全体で身体を支える力はランナーに筋トレは必要かで、練習全体への組み込み方はサブ4を目指す練習の組み立て方で整理しています。

変更の途中で痛みや違和感が出た場合は、無理に続けず中止してください。症状が続くときは医療機関にご相談ください。

よく​ある​質問

Q. ピッチとストライド、上げるならどっちですか。

どちらを優先すべきかを決める共通の基準は示されていません。走る速さは「ピッチ×ストライド」の掛け算で決まり、どちらもスピードが上がれば自然に増えるため、片方だけを取り出しても意味を持ちにくいためです。そのうえで、ピッチのほうは負担の分散という観点で調整の余地がある変数として扱えます。着地時にひざや脛への負担が気になる方には、いじってみる価値のある変数です。

Q. 「1分間180歩」に合わせるべきですか。

180という数字は、1984年のロサンゼルス五輪で長距離種目の選手の歩数を数えたところ多くがおよそ180歩/分以上だった、という観察が広まったものとされています(Daniels, 2005)。エリート選手が、エリートのスピードで走っていたときの数字です。市民ランナーが普段のジョグで出す速さはそれより遅いのが普通で、同じ180を当てはめる根拠にはなりにくいとされています。数字を見ないまま180に合わせにいくと、走りがせわしなくなり、かえって力んで疲れやすくなることがあります。

Q. 160歩台は、遅すぎますか。

それだけで「悪い」と判断する必要はありません。市民ランナーの平均は160歩台という報告もあります。個人差がありますが、脚が長い方はストライドが伸びやすく、そのぶんピッチは低めに出やすい傾向があります。絶対値より、地面に叩きつけるような接地になっていないか、1歩ごとにブレーキがかかる感じがないか。ピッチは、その質を整えるための手がかりの一つです。

Q. 歩数を変えている途中で、痛みが出たときは。

無理に続けず中止してください。症状が続くときは医療機関にご相談ください。また、すでに痛みがある状態でフォームを自己流に変えるのは勧められません。痛みが出ている場合は、歩数を変える前に医療機関にご相談ください。

まとめと、​次の​一歩

  • ピッチとストライド、どちらを優先すべきかを決める共通の基準は示されていません。「1分間180歩」はエリート選手をエリートの速さで観察した数字がもとで、市民ランナーにそのまま当てはまる一律の正解ではないと考えられています(Daniels, 2005)。
  • 走る速さは「ピッチ×ストライド」で決まり、どちらもスピードが上がると自然に増えます。ピッチは走る速さとセットで捉える数字。
  • ピッチを5%上げると上下動が減り、ひざの1歩あたりの負担が下がることが報告されています(Heiderscheit et al., 2011)。ただし燃費やタイムが良くなる話とは別軸で、最適値は体格・スピードで変わります。
  • まずは今の自分のピッチを測ること。ジョグとレースペースの両方で、スピードとセットで記録します。
  • 変えるなら5%ずつ、短い区間から。支える筋力とあわせて考えます。痛みがある状態でのフォーム変更は避け、症状が続くときは医療機関にご相談ください。

今週のジョグで30秒だけ歩数を数えて、スマホのメモに「ジョグ・◯◯歩」と残してみてください。上げるかどうかは、その数字を見てから決めれば十分です。

関連リンク


参考文献

  1. Heiderscheit, B. C., Chumanov, E. S., Michalski, M. P., Wille, C. M., & Ryan, M. B. (2011). “Effects of step rate manipulation on joint mechanics during running.” Medicine & Science in Sports & Exercise, 43(2), 296–302. PMID: 20581720
  2. Schubert, A. G., Kempf, J., & Heiderscheit, B. C. (2014). “Influence of stride frequency and length on running mechanics: a systematic review.” Sports Health, 6(3), 210–217. PMID: 24790690
  3. Daniels, J. (2005). Daniels’ Running Formula (2nd ed.). Human Kinetics.
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人に対する医学的助言・診断・治療を目的とするものではありません。体調や既往症に不安がある方は、必ず医師等の専門家にご相談ください。運動実施による結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。

記事の内容を自分の走りに当てはめて見てほしい方へ——指導のご案内(現在はキャンセル待ちでの受付です)。

← 練習法・フォームの記事一覧へ