「筋トレやってる?」と仲間に聞かれた夜。走行距離を増やそうとするたびに脚を痛めてきた人ほど、距離以外の伸びしろがどこにあるのかを知りたくなります。
結論から書くと、筋力トレーニングは「走りの燃費(ランニングエコノミー)」を良くする方向で報告されています。一方、それがそのままタイム短縮につながるとまでは示されていません。この記事では、走る量を増やさずに何を足せるかを、自分の課題から決めるための材料を示します。
研究が示しているのは「走りの燃費」の改善
ランニングエコノミーとは、同じペースで走るときに必要な酸素の量のことです。少ない酸素で同じペースを保てるほど「燃費が良い」と表現します。持久走の力を左右する要因のひとつ。走る人の感覚に置き換えるなら、たとえばキロ5分で走り続ける場面で、その設定が以前より少し楽に感じられ、終盤に脚が残りやすい方向の変化です。
高いレベルで訓練された中長距離ランナーを対象にしたメタ分析(Balsalobre-Fernández et al., 2016)では、筋力トレーニングによる燃費の改善が、大きな効果として報告されました。含まれた研究の中身は、週2〜3回・8〜12週間の継続が中心です。重い負荷で筋肉を大きくするより、持っている力を出しやすくする方向の設計が多くを占めていました。
ただし、対象は高いレベルで訓練されたランナーです。走り始めの方に同じ大きさの効果がそのまま当てはまるとは限りません。効果の大きさは下の図をご覧ください。
「速くなる」と直結しない理由も知っておく
系統的レビュー(Blagrove et al., 2018)では、筋力トレーニングで改善が示されるのは主に燃費だと整理されています。最大酸素摂取量や血中乳酸の指標については、改善は示されず、かといって悪化もしていないという整理でした。
同時に、このレビューは留保も示しています。研究によっては燃費の改善が見られなかったものもあること、そして燃費の改善がレースタイムの短縮につながるかを直接示した証拠は乏しいことです。指標が良くなることと、タイムが変わることは同じではありません。
| 研究 | デザイン | 対象 | 主な報告 |
|---|---|---|---|
| Balsalobre-Fernández et al., 2016 | メタ分析(5研究) | 高度訓練された中長距離ランナー93名 | ランニングエコノミーへの大きな効果(SMD -1.42、95%CI -2.23〜-0.60)。週2〜3回・8〜12週 |
| Blagrove et al., 2018 | 系統的レビュー(24研究) | トレーニング経験のある中長距離ランナー469名 | 改善が示されるのは主にエコノミー。VO₂max・乳酸は不変。レースタイムへの波及は未確立 |
表:2つのレビュー研究の要約(出典: Balsalobre-Fernández et al., 2016 / Blagrove et al., 2018)
仕事帰りや週末に、どう組み込むか
ここからは研究の結論ではなく、指導上の目安としてお読みください。走る練習を主にして、筋力トレーニングは「加える」位置づけにするのが現実的です。走る量との比率に、研究で確立された正解があるわけではありません。
たとえば週3回・1回40分ほど走っている方なら、走る量はそのままに、そのうち2日の走り終わりへ20〜30分を足すだけの計算です。夜8時、仕事帰りのジョグから戻って汗が引かないうちに、玄関先にマットを1枚敷いて始めてしまう。座ってしまう前に始めるほうが、続けやすくなります。強い日と楽な日は分けたいので、週末のロング走の前日は避けたほうが回しやすい傾向。置くとすれば、ロング走の当日か、その翌々日あたりです。
種目は、しゃがむ動き(スクワット系)、股関節を折る動き(ヒップヒンジ系)、片脚で支える動きの3方向から選ぶと組み立てやすくなります。走りは片脚での接地の連続なので、両脚だけで終えない形を勧めます。時間が20分しか取れない日は、この3方向を1種目ずつでも構いません。道具も、自重かダンベル1組があれば足ります。
頻度は週2回程度・数週間以上の継続が、研究で扱われてきた範囲に近い形です。ただし体調・仕事・故障歴によって、こなせる量は変わります。走る量と合わせて負荷が増えすぎていないかを確かめたい方は、練習の「詰め込みすぎ」を数字で見る——ACWRという考え方をどうぞ。種目ごとの動き方はエクササイズガイドにまとめてあります。
自分に必要かを見分ける順番
走り始めの方は、まず走る習慣と、故障なく距離を積む土台づくりが優先になりやすい段階です。燃費を数%削ることより、片脚で安定して着地できることのほうが、走り続けやすさにつながる傾向があります。
タイムを狙う方で走り込みだけでは頭打ちを感じているなら、週2回程度を数週間以上続ける形が、研究の報告と整合します。成長期のジュニアには、成人の研究結果をそのまま当てはめられません。成熟度・動作技術・指導環境に応じて段階的に選ぶ整理が示されています(Lloyd & Oliver, 2012)。
レース終盤の失速には、心肺の力だけでなく、身体を支える力が持たないことが関わる場合があります。一方で、筋力より休養やフォームの見直しが先に効く方もいます。終盤の失速はマラソン後半の失速はなぜ起こるのか、走りに直結する体幹の使い方はランニングのための体幹トレーニングで扱っています。
よくある質問
Q. 筋トレをすれば、タイムは速くなりますか。
そこまでは示されていません。報告されているのは主に「走りの燃費(ランニングエコノミー)」が良くなる方向で、それがそのままタイム短縮につながるとまでは示されていません。燃費が良くなっても、レースの結果は当日のペース配分や暑さ、それまでの練習の積み上げなど、他の要素にも左右されるためです。
Q. 週に何回、どのくらいやればいいですか。
種目ごとのセット数や重量の一覧は本記事では示しません。頻度については、週2回程度・数週間以上の継続が、研究で扱われてきた範囲に近い形です。ただし体調・仕事・故障歴によって、こなせる量は変わります。走る量と合わせて負荷が増える点にも注意が要ります。
Q. 走る量を減らしてでも、筋トレの時間を作るべきですか。
その形は想定していません。筋力トレーニングが選択肢として挙がるのは、走る量をこれ以上増やせない・増やすと故障するという状況で、走る量を増やさずに足せるからです。週3回・1回40分ほど走っている方なら、走る量はそのままに、そのうち2日の走り終わりへ20〜30分を足す、という形が計算に合います。
Q. 走り始めたばかりですが、先に筋トレをしたほうがいいですか。
走り始めの方は、まず走る習慣と、故障なく距離を積む土台づくりが優先になりやすい段階です。燃費を数%削ることより、片脚で安定して着地できることのほうが先に効いてきます。なお、走るたびに強くなる痛み、腫れ、数日休んでも引かない痛みがある場合は、筋力トレーニングを足す前に医療機関にご相談ください。これらは例示であり、当てはまらなくても痛みが続くときは受診をご検討ください。
まとめと、次の一歩
- 走る量をこれ以上増やせない・増やすと故障する。そんな人にとって、筋力トレーニングは走る量を増やさずに足せる選択肢で、「走りの燃費(ランニングエコノミー)」を良くする方向で報告されています。
- 一方で、それがそのままタイム短縮につながるとまでは示されていません。
- 効果の出方には個人差があり、走り始めの人・タイムを狙う人・成長期の選手では、優先することが異なります。
- 何をどのくらいやるかは、自分の走りのどこが課題かを見てから決めるのが着実です。
今週のジョグを1本、たとえば水曜の1本を選び、走ったあとに自重のスクワットを10回だけ足してみてください。続けられそうか、翌日の走りにどう響くかを確かめるところから始められます。
関連リンク
- 関連記事:マラソン後半の失速はなぜ起こるのか / ランニングのための体幹トレーニング / 練習の「詰め込みすぎ」を数字で見る——ACWRという考え方
- 種目別の動きを確認したいとき:エクササイズガイド
- 筋力面から走りを支える設計に取り組みたいとき:S&Cコーチングのご案内 / パーソナル指導(S&C/ランニング)のご案内
参考文献
- Balsalobre-Fernández, C., Santos-Concejero, J., & Grivas, G. V. (2016). “Effects of Strength Training on Running Economy in Highly Trained Runners: A Systematic Review With Meta-Analysis of Controlled Trials.” Journal of Strength and Conditioning Research, 30(8), 2361–2368. doi:10.1519/JSC.0000000000001316
- Blagrove, R. C., Howatson, G., & Hayes, P. R. (2018). “Effects of Strength Training on the Physiological Determinants of Middle- and Long-Distance Running Performance: A Systematic Review.” Sports Medicine, 48(5), 1117–1149. doi:10.1007/s40279-017-0835-7
- Lloyd, R. S., & Oliver, J. L. (2012). “The Youth Physical Development Model: A New Approach to Long-Term Athletic Development.” Strength & Conditioning Journal, 34(3), 61–72. doi:10.1519/SSC.0b013e31825760ea
