走るからには、終盤まで姿勢を保って走りたい。そう考えてプランクを日課にしている方は多いと思います。一方で最近よく見かけるのが、「ランナーの体幹トレーニングは意味ない」という言い方。結論から言うと、研究の結果は一致しておらず、どちらの断定も現状のエビデンスからは外れます。この記事では、プランクを続けるかどうかを、期待できる範囲とそうでない範囲に分けて考える材料を示します。
では、何がどこまで報告されているのか。体幹トレーニングと運動パフォーマンスの関係を整理した系統的レビューは「利益は限定的」とする一方、ランナーを対象とした6週間の介入研究は5000m走のタイム改善を報告しています。この食い違いは、体幹が走りの中で何をしているかを押さえると読み解きやすくなります。
体幹は、走りの中で「土台」として働いている
ここでの体幹(コア)は、おおまかに言えば胴体まわり、腹部・背部・骨盤まわりの筋群です。走っている間、この部分は大きく動いて力を生み出しているというより、上半身と下半身をつなぎ、着地のたびに生じる衝撃や回旋の力に対して姿勢を保つ「土台」として働いていると考えられています。腕振りと脚の動きは反対方向にねじれる力を生みますが、体幹がそれを受け止めることで、エネルギーが横方向に逃げにくくなる、という整理です。
つまり期待されているのは、「体幹の筋肉そのもので前に進む」ことではなく、「土台が安定して、脚が生んだ力が無駄なく伝わる」こと。土台の役割である以上、体幹を鍛えたからといって、脚の推進力や心肺機能そのものが直接底上げされるわけではありません。この前提が、次に見る研究結果の食い違いを読むうえでの手がかりになります。
「意味ない」とも「効く」とも言い切れないのが研究の現状
体幹トレーニングと運動パフォーマンス全般の関係を整理した系統的レビューでは、24件の研究を検討した結果として、「体幹の安定性トレーニングが運動パフォーマンスにもたらす利益は限定的である」と報告されています(Reed, Ford, Myer & Hewett, 2012)。
一方、市民ランナーと競技ランナーを対象に6週間の体幹トレーニングを行った研究では、体幹トレーニング群で5000m走のタイムが改善したと報告されています(下肢の安定性や地面反力の指標には有意な変化がなかったとされています。Sato & Mokha, 2009)。ただし対象人数が少なく、期間も6週間と短い研究。結果をそのまま一般化することはできません。研究間で結果が一致していないこと自体が、この領域の現状を表しています。
補助線をもう1本。よく訓練されたランナーを対象としたメタ分析では、週2〜3回・8〜12週間程度の筋力トレーニングを継続した群で、ランニングエコノミー(走りの燃費)の改善が報告されています(Balsalobre-Fernández, Santos-Concejero & Grivas, 2016)。採用されているのは体幹単独ではなく、下半身のレジスタンストレーニングやプライオメトリクス(ジャンプ系)を含む内容が中心。「体幹だけやれば筋トレとして十分」という話ではない、という構図が読み取れます。筋トレ全体の話はランナーに筋トレは必要かで扱っています。
ランナーの体幹・筋力トレーニングに関する研究の整理
| 研究 | デザイン | 対象・規模 | 報告されたこと |
|---|---|---|---|
| Reed ら(2012) | 系統的レビュー | 24件の研究 | 体幹安定性トレーニングが運動パフォーマンスにもたらす利益は限定的 |
| Sato & Mokha(2009) | 介入研究(6週間) | ランナー20名 | 体幹トレーニング群で5000m走のタイムが改善(小規模・短期) |
| Balsalobre-Fernández ら(2016) | メタ分析 | 5件・計93名 | 下半身・ジャンプ系を含む筋力トレーニングでランニングエコノミーが改善 |
※出典: 各研究に基づき作成。多くの研究で体幹トレーニングは総合的なプログラムの一部として行われており、体幹「単独」の効果を切り分けることは難しいとされています。
では、プランクは意味がないのか
ここからは研究の結論ではなく、指導上の目安としてお読みください。まずプランクの目的を確認しておきます。プランクは体幹まわりを固めて姿勢を保つ、静的な(じっとこらえる)種目。体幹を意識する感覚をつかむ入り口として役に立ちますし、否定する種目ではありません。疑問は一点だけです。プランクだけを積み重ねた先に、走りの局面があるかどうか。
走る動作は、片脚で着地し、骨盤が左右に傾こうとするのをこらえながら、次々に体重を乗せ替えていく連続です。左右非対称で、動きながらバランスを取り続ける課題。両脚で静止してこらえるプランクとの間には距離があります。レース終盤で骨盤が落ちたり上体がぶれたりする崩れには、こらえる力そのものより、片脚支持での安定を保てるかどうかが関わると考えられます。
静的な種目で感覚をつかんでから動的な要素を足す、という順番を勧めます。土台がない状態でいきなり動的な課題に進むと、崩れたフォームのまま固まりやすいからです。プランクを1分こらえられるなら、そのうち20〜30秒を片脚立ちや片脚支持の課題に振り替えるだけでも、走りの局面には近づきます。各種目のやり方はエクササイズのガイドにまとめました。
置きどころも整理しておきます。研究の構図と現場の実感を合わせると、体幹トレーニングは「単独で走りを大きく変える主役」ではなく「他のトレーニングが効くための土台」。限られた時間で優先順位をつけるなら、まず走り込みと下半身を含む筋力トレーニングがあり、体幹はそれらを支える形で少量を続ける配分が現実的です。金曜の夜、脚が残っていない日にマットの上で10分だけ、という置き方でも積み上がります。適した量には個人差があり、走行距離やレース目標によっても変わります。
走っていて腰や股関節、膝などに痛みが出る場合は、体幹の強化で対処しようとする前に、まず練習を控えてください。痛みが続くようであれば医療機関にご相談を。痛みの背景には体幹以外の要因があることもあり、その切り分けは自己判断の範囲を超えます。
まとめと、次の一歩
引用したのは対象も規模も異なる3件で、うちランナーを対象にした介入研究は20名・6週間の小規模なものです。市民ランナー全般に当てはめられる強さの証拠ではありません。
- 体幹(コア)は走りの中で「土台」として姿勢を保つ役割が中心で、体幹を鍛えること自体が推進力や心肺機能を直接底上げするわけではないと考えられます。
- 体幹トレーニング全般の効果は「限定的」とする系統的レビューがある一方(Reed ら, 2012)、ランナーで5000mタイムの改善を報告した研究もあり(Sato & Mokha, 2009)、結果は一致していません。「意味ない」の断定も、過度な期待も、どちらも現状のエビデンスからは外れます。
- ランナーの筋力トレーニング全般ではランニングエコノミーの改善が報告されていますが、その中身は体幹単独ではなく下半身やジャンプ系を含みます(Balsalobre-Fernández ら, 2016)。
- 静的なプランク一辺倒より、片脚支持や動きの中で姿勢を保つ課題を少しずつ足すほうが、走りの局面には近づきやすくなります。ただし一つの見方です。
- 体幹トレーニングは「主役ではなく土台」。全体の一部として無理なく続ける配分が現実的です。痛みがあるときは練習を控え、続く場合は医療機関へ。効果には個人差があります。
今週のプランクを1本、片脚を浮かせた状態に変えてみてください。骨盤が傾かずに保てるかどうかで、いまの土台が走りの局面にどれだけ近いかを確かめられます。
関連リンク
- 関連記事:ランナーに筋トレは必要か——研究が示していること
- 関連ガイド:エクササイズのガイド
- ご自身の走りのどこに課題があるか相談したいとき:S&Cコーチングのご案内
参考文献
- Reed, C. A., Ford, K. R., Myer, G. D., & Hewett, T. E. (2012). “The effects of isolated and integrated ‘core stability’ training on athletic performance measures: a systematic review.” Sports Medicine, 42(8), 697–706. PMC4166601
- Sato, K., & Mokha, M. (2009). “Does core strength training influence running kinetics, lower-extremity stability, and 5000-m performance in runners?” Journal of Strength and Conditioning Research, 23(1), 133–140. PMID: 19077735
- Balsalobre-Fernández, C., Santos-Concejero, J., & Grivas, G. V. (2016). “Effects of strength training on running economy in highly trained runners: a systematic review with meta-analysis of controlled trials.” Journal of Strength and Conditioning Research, 30(8), 2361–2368. doi:10.1519/JSC.0000000000001316
