ヒップヒンジをやってみると、途中で腰が丸まってしまう。デッドリフト系の種目に手を出しにくいのは、たいていここでつまずくから。結論から言うと、腰が丸まる原因は、背中の意識よりも、その日に股関節を折れる範囲を外から確かめていないことのほうを先に疑います。この記事では、ヒンジができない原因を切り分ける順番と、どこで止めるかの決め方を扱います。
走る人の下半身トレーニングの全体像は、走る人の下半身筋トレで膝主導・股関節ヒンジ・片脚の3つとして整理しました。ここで扱うのは股関節ヒンジ、お尻を後ろに引いて股関節を折りたたむ動きと、そこから伸びるデッドリフト系の種目だけ。膝主導のスクワットは走る人のスクワットのフォーム、ふくらはぎは走る人のカーフレイズが担当範囲です。
スクワットとヒンジは、力のかかる場所が違う
同じ人がスクワットとデッドリフトの両方を行い、関節にかかる力を比べた研究があります(Choe et al., 2021)。筋力トレーニング経験のある28名(男性17名:23.7 ± 4.3歳/女性11名:23.0 ± 1.9歳)が、1RM(1回だけ挙げられる最大重量)の70%・85%の負荷で各種目を行い、3次元の動作解析が行われました。報告されたのは、ピークの正味関節モーメント(その関節を回そうとする力の、体重あたりの値)と、正の関節仕事(その関節が動きの中で生み出した仕事量)です。
| 指標 | バックスクワット | デッドリフト |
|---|---|---|
| 股関節の伸展モーメント(Nm/kg) | 2.98(95%CI 2.72–3.23) | 3.59(95%CI 3.30–3.88) |
| 膝の伸展モーメント(Nm/kg) | 2.14(95%CI 1.88–2.40) | 1.18(95%CI 0.99–1.37) |
| 股関節の正の仕事(J/kg) | 2.37(95%CI 2.21–2.54) | 3.22(95%CI 2.97–3.47) |
| 膝の正の仕事(J/kg) | 1.85(95%CI 1.60–2.09) | 0.46(95%CI 0.35–0.58) |
表:関節にかかる力の比較(出典: Choe et al., 2021)。効果量は上から d = 0.81、1.44、1.30、2.10 で、4項目とも p < 0.001 でした。28名・その場の力学の測定であり、続けたときに何がどう変わるかを追った研究ではありません。
読み取れるのは、スクワットとヒンジは「どちらが優れているか」ではなく、力のかかる場所が違うという関係です。ここからは現場での整理ですが、下半身を膝主導とヒンジに分けて両方持っておくという組み立て方は、この違いを踏まえたものです。
より走る人に近い集団の報告もあります(Otsuka et al., 2021)。よく訓練された男子スプリンター11名の計測では、膝関節のピーク伸展モーメントはバックスクワット 155 ± 28 Nm がもっとも大きく、次いでバーベルヒップスラスト 66 ± 33 Nm、デッドリフト 24 ± 27 Nm の順。腰仙部と股関節の伸展モーメントは、ヒップスラストとデッドリフトのほうがバックスクワットより大きかったと報告されています。11名・その場の力学の測定で、続けた選手が速くなったかを追った研究ではありません。
ヒンジ系を調べていると「ハムストリングのケガ予防」の話が一緒に出てきますが、これは分けておく必要があります。予防でもっとも研究が積み上がっているのは、ノルディックハムストリングという膝を曲げる筋の働きに負荷をかける種目で、股関節を折るヒンジ系ではありません(van Dyk et al., 2019。複数競技のアスリート8,459名、傷害リスク比 0.49、95%CI 0.32–0.74、p = 0.0008)。ハムストリングの中で働く場所が種目によって違うことは報告されていて、45度の股関節伸展種目のほうがノルディックより大腿二頭筋長頭と半腱様筋の比が大きいとされます(Bourne et al., 2017。日常的に運動している男性24名)。この2件から言えるのは「ヒンジ系種目にも傷害予防の効果がある」ではありません。予防の検証があるのはノルディック側で、ヒンジ側は「働く場所が違う」ところまでです。
そして、デッドリフトを走る人に行わせ、走りの結果まで追った研究は、今回の調査では見当たりませんでした。(Europe PMC でタイトルに「deadlift」と「running/runners/endurance」を同時に含む論文を検索した範囲では、該当は0件でした。)ヒンジの動きは走りで身体を前へ運ぶ局面と向きが似ていますが、それは動作の対応関係であって、転移が測られたわけではありません。筋トレ全体と走りの関係は筋トレでランニングエコノミーとバネはどう変わるかで扱っています。
腰が丸まる、ヒンジができないときの順番
ここからは研究の結論ではなく、現場での教え方です。効果が検証された手順ではない前提でお読みください。動きとしての違いは単純で、スクワットは膝と股関節を同時に曲げて下に沈み、ヒンジは膝の角度をあまり変えずに股関節を後ろに折ります。
- 股関節を折る感覚を先に:壁から握りこぶし1つ分ほど離れて立ち、お尻を後ろに引いて壁に触れます。膝は軽く曲げたまま固定。
- 背中のラインを外から確認する:ほうきの柄のような長い棒を後頭部・背中・お尻の3点に当て、折る間に離れないかを見ます。離れた位置が、その日の深さの目安。
- もも裏の張りで止める:さらに折ろうとして骨盤が丸まる手前で止めます。止まる位置は人によって違うものです。
- 重りは片手から:両手でバーベルを持つより、片手に1つ持つほうが、左右のどちらが崩れるかに気づきやすくなります。
床から持ち上げる種目は、最後に回します。床の高さまで折れない段階で床から引くと、足りない分を腰の丸まりで埋めることになるからです。立った位置から下ろすルーマニアン型なら、扱う範囲を自分で決められます。道具と動きの中身で並べると、次のようになります。
| 種目 | 動きの特徴 | 必要な道具 |
|---|---|---|
| 自体重のヒップヒンジ | 手を腰か太ももに置き、股関節だけを折って戻す | なし |
| 棒を背中に当てるヒンジ | 後頭部・背中・お尻に棒を当て、離れないまま折る | 長い棒(ほうきの柄など) |
| 片手に重りを持つヒンジ | 片側に重りを持ち、左右差を感じながら折る | ダンベル、ケトルベルなど |
| ルーマニアンデッドリフト | 立った位置から下ろす。床には置かない | バーベル、ダンベルなど |
| コンベンショナルデッドリフト | 床に置いた重りを持ち上げ、床に戻す | バーベル |
表:ヒンジ系の種目の並び(本記事の指導上の整理)。この順番が効果や安全性の順位として検証されたわけではありません。道具が変わっても、股関節を後ろに折るという動きの中身は共通しています。種目ごとの動きはエクササイズガイドへ。
種目ごとの筋の働き方も、ある程度は調べられています。デッドリフト系の筋の活動をまとめた系統的レビュー(Martín-Fuentes et al., 2020)では、デッドリフトとその派生種目で脊柱起立筋と大腿四頭筋のほうが大殿筋や大腿二頭筋より活動が大きく、ただしルーマニアンデッドリフトでは脊柱起立筋の活動が大腿二頭筋や半腱様筋より低いと整理されています。ルーマニアンとスティフレッグを比べた研究(Coratella et al., 2022)では、競技レベルのボディビルダー10名・80%1RMで、ルーマニアンのほうが半腱様筋の活動が大きく(効果量 1.38)、スティフレッグのほうが大殿筋が大きい(効果量 0.99)と報告されました。どちらもその場の筋電図で、続けたときに何がどう変わるかを比べたものではありません。回数やセット数の考え方は走る人の筋トレ、何回・何セット・週何回?で扱っています。
「腰を丸めると腰を痛める」はどこまで確かめられているか
ヒンジの指導でもっとも強く言われている通説です。これを正面から検証した系統的レビューとメタ分析があります(Saraceni et al., 2020)。腰椎内の角度で測った4件では、持ち上げ時の腰椎屈曲のピークに差は見られませんでした。胸郭と骨盤の角度で測った横断研究7件では、腰痛のある人のほうが 6.0° 少ない屈曲で持ち上げていたと報告されています(95%CI −11.2°〜−0.9°、P = .02)。11件中9件では群間に有意差がありません。著者らは、含まれた研究の質は低いとしたうえで、「持ち上げ時の腰椎屈曲が大きいことは、腰痛の発症・持続の危険因子でも、腰痛のある人とない人を分ける特徴でもないという、質の低いエビデンスがあった」と結論しています。
この結果は「丸めてよい」という許可ではありません。質の低いエビデンスであること、対象が持ち上げ動作全般でバーベル種目に限った検証ではないことを、そのまま受け取る必要があります。同時に、「丸めたら腰を痛める」という強い言い方を支える結果でもありません。恐怖で動きを縛る根拠にも、姿勢を気にしなくてよいという根拠にも、この1件はなりません。
では、スタイルを変えれば腰への負担がなくなるのか。全国規模のパワーリフティング大会に出場した選手(女性13名・男性44名)を分析した研究(Cholewicki et al., 1991)では、モデルによる推定で、ワイドスタンス(相撲)スタイルのデッドリフトはコンベンショナルスタイルと比べ、L4/L5 のモーメントが 10%、剪断力が 8% 小さいと報告されています。著者らは、全国レベルの選手の間でも関節にかかる負荷のパターンのばらつきが大きいとも述べました。競技会の挙上を対象としたモデル推定であり、ケガの発生を測った研究ではありません。この報告からは、スタイルを変えれば腰への負担がなくなるかどうかを判断できません。同じ種目でも人によって負荷のかかり方が違うという点は、指導上も踏まえています。
腰痛そのものの予防については、21件のランダム化比較試験・30,850名を対象としたメタ分析(Steffens et al., 2016)があり、運動と教育の組み合わせで腰痛エピソードの相対危険度は 0.55(95%CI 0.41–0.74、中程度の質)、運動単独で 0.65(95%CI 0.50–0.86、低〜非常に低い質)と報告されました。一方、教育単独 1.03(95%CI 0.83–1.27)、腰ベルト 1.01(95%CI 0.71–1.44)では、予防的な効果は認められませんでした。ここで検証された「運動」は多様な内容の総称であり、ヒンジ系種目を検証したものではありません。この結果を「デッドリフトが腰痛を防ぐ」と読み替えることはできません。
やらないほうがよい場面と、痛みが出たとき
ヒンジ系種目について、行わないほうがよい条件を体系的に検証した研究は、今回の調査では見当たりませんでした。以下は研究の結論ではなく、現場での扱いです。
- 今、腰に痛みがある日は行わない。痛みの中でフォームを探る場面を作りません。
- 腰の痛みの既往がある場合は、再開の可否と範囲を医師等の専門家に相談してから。この記事はその判断を代わりに行うものではありません。
- 背中のラインが変わった回で、そのセットを終える。回数を残していても続けません。
- 重さより、折れる深さを先に決める。骨盤が丸まらない範囲を決め、その中で重さを選びます。
- 走練習で疲れている日は重さを下げる。前日の練習と重さを合わせに行かないほうが、結果として続きます。
- 床から持ち上げる種目を、一人で限界まで行わない。
そのうえで、線引きです。以下の受診の目安は、研究で検証された時間基準ではなく、安全側に置いた指導上の扱いです。
強い痛みで体重をかけられない、転倒などの外力のあとの痛み、変形や急な腫れ、しびれや力が入らない感じがある場合は、当日中を目安に受診してください。これらは注意したい状態の例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません。
数日たっても同じ場所が痛む、走っているときにも同じ痛みが出る。こうした場合も、続けながら様子を見るより、一度相談することを勧めます。走れる状態に戻していく順番は走りを再開するときに整える順番で扱っています。
まとめと、次の一歩
デッドリフトを走る人に行わせ、走りの結果まで追った研究は、今回の調査では見当たりませんでした。以下は、その前提での要点です。
- スクワットとヒンジは、力のかかる場所が違います。股関節の伸展モーメントはデッドリフト 3.59・バックスクワット 2.98 Nm/kg、膝の伸展モーメントはバックスクワット 2.14・デッドリフト 1.18 Nm/kg でした(Choe et al., 2021。経験者28名、p < 0.001)。走る人を対象にした研究ではありません。
- ハムストリングの傷害予防でメタ分析があるのはノルディックハムストリング(傷害リスク比 0.49、95%CI 0.32–0.74)で、ヒンジ系種目の予防効果を示したものではありません(van Dyk et al., 2019。複数競技のアスリート8,459名)。
- 「持ち上げるときに腰を丸めると腰痛になる」は、質の低いエビデンスながら危険因子でも見分ける特徴でもないと報告されています(Saraceni et al., 2020)。「丸めてよい」の根拠にも、「丸めたら腰を痛める」の根拠にもなりません。
- 指導上は、重さより先にその日折れる深さを決め、腰に痛みがある日は行いません。強い痛み・外力のあとの痛み・変形や急な腫れ・しびれや脱力がある場合は、この記事の範囲外です。医療機関にご相談ください(これらは注意したい状態の例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません)。
今日ヒンジを1セット、棒を背中に当てたまま行ってみてください。棒が3点から離れた位置が、今日の深さの目安になります。
関連リンク
- 前提となる総論:走る人の下半身筋トレ——最初に覚えたい3つの動作パターン
- 膝主導の各論:走る人のスクワットのフォーム
- ふくらはぎの各論:走る人のカーフレイズ
- 片脚種目の各論:ランジとスプリットスクワットは走りに効くのか
- 走りへの影響と量の設計:筋トレでランニングエコノミーとバネはどう変わるか / 走る人の筋トレ、何回・何セット・週何回?
- 種目の動きを確認する:エクササイズガイド
- 痛みが出たあとの組み立て:走りを再開するときに整える順番
- フォームを一緒に確認したいとき:S&Cコーチングのご案内
参考文献
- Choe, K. H., Coburn, J. W., Costa, P. B., & Pamukoff, D. N. (2021). “Hip and Knee Kinetics During a Back Squat and Deadlift.” Journal of Strength and Conditioning Research, 35(5), 1364–1371. doi:10.1519/JSC.0000000000002908
- Otsuka, M., Honjo, T., Nagano, A., & Isaka, T. (2021). “Kinetics in lumbosacral and lower-limb joints of sprinters during barbell hip thrust compared to deadlift and back squat.” PLoS ONE, 16(7), e0251418. doi:10.1371/journal.pone.0251418
- van Dyk, N., Behan, F. P., & Whiteley, R. (2019). “Including the Nordic hamstring exercise in injury prevention programmes halves the rate of hamstring injuries: a systematic review and meta-analysis of 8459 athletes.” British Journal of Sports Medicine, 53(21), 1362–1370. doi:10.1136/bjsports-2018-100045
- Bourne, M. N., Williams, M. D., Opar, D. A., Al Najjar, A., Kerr, G. K., & Shield, A. J. (2017). “Impact of exercise selection on hamstring muscle activation.” British Journal of Sports Medicine, 51(13), 1021–1028. doi:10.1136/bjsports-2015-095739
- Martín-Fuentes, I., Oliva-Lozano, J. M., & Muyor, J. M. (2020). “Electromyographic activity in deadlift exercise and its variants. A systematic review.” PLoS ONE, 15(2), e0229507. doi:10.1371/journal.pone.0229507
- Coratella, G., Tornatore, G., Longo, S., Esposito, F., & Cè, E. (2022). “An Electromyographic Analysis of Romanian, Step-Romanian, and Stiff-Leg Deadlift: Implication for Resistance Training.” International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(3), 1903. doi:10.3390/ijerph19031903
- Saraceni, N., Kent, P., Ng, L., Campbell, A., Straker, L., & O’Sullivan, P. (2020). “To Flex or Not to Flex? Is There a Relationship Between Lumbar Spine Flexion During Lifting and Low Back Pain? A Systematic Review With Meta-analysis.” Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 50(3), 121–130. doi:10.2519/jospt.2020.9218
- Cholewicki, J., McGill, S. M., & Norman, R. W. (1991). “Lumbar spine loads during the lifting of extremely heavy weights.” Medicine and Science in Sports and Exercise, 23(10), 1179–1186. doi:10.1249/00005768-199110000-00012
- Steffens, D., Maher, C. G., Pereira, L. S., Stevens, M. L., Oliveira, V. C., Chapple, M., Teixeira-Salmela, L. F., & Hancock, M. J. (2016). “Prevention of Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-analysis.” JAMA Internal Medicine, 176(2), 199–208. doi:10.1001/jamainternmed.2015.7431
