ランニングの​ための​カーフレイズ——立位と​座位の​違い、​可動域・回数の​考え方

出典7件・すべて一次情報にリンク

段差でかかと上げをする人の線画イラスト

フルの30km過ぎ、ふくらはぎが攣りかけて歩幅が縮んだ。次のシーズンまでにあの脚を変えられないか。結論から書くと、走行中に下腿三頭筋が大きく働いていることは報告されている一方、カーフレイズがランニングの結果を変えるかどうかは確かめられていません。この記事では、何が分かっていて何が推測なのかを整理したうえで、立位と座位・可動域・回数の選び方を扱います。

下半身の筋トレの全体像は走る人の下半身筋トレで膝主導・股関節ヒンジ・片脚の3つとして整理しました。カーフレイズはそこに並ばない、足首だけを動かす単関節の種目です。すでにアキレス腱やすねに痛みがある方は、鍛え方の前にアキレス腱が痛い・張るときにをご覧ください(痛みが続く場合は医療機関にもご相談ください)。この記事が扱うのは、痛みのない状態からの鍛え方です。

走っている​とき、​ふくらは​ぎは​何を​しているか

先に用語の整理から。ふくらはぎの表面にあって膝と足首の両方をまたぐ腓腹筋と、その深部にあって足首だけをまたぐヒラメ筋を合わせて下腿三頭筋と呼びます。「立って行うか、座って行うか」という話の分かれ目は、この膝をまたぐかどうか

走行中にどの筋がどの局面で働いているかは、シミュレーション研究が報告しています。三次元の筋骨格モデルで走行の1サイクルを再現した研究(Hamner, Seth & Delp, 2010)では、各筋が重心をどの向きに加速させたかが解析されました。

走行の局面もっとも大きく貢献したと報告された筋何への貢献か
立脚の前半大腿四頭筋ブレーキ(重心の後方への加速)と支持(重心の上方への加速)
立脚の後半ヒラメ筋・腓腹筋推進(重心の前方への加速)と支持

表:走行中の重心の加速への各筋の貢献(出典: Hamner et al., 2010)。実際に筋の力を測った値ではなく、モデルによる推定です。著者らは「大腿四頭筋と底屈筋群が、走行中の重心の加速への主要な貢献者である」と述べています。走る人の筋力とタイムの関係を示した研究ではありません。

走る速度が変われば、役割の比重はどうなるか。9名の歩行・走行データを筋骨格モデルと組み合わせた研究(Dorn, Schache & Pandy, 2012)では、秒速7mまでの速度で、底屈筋であるヒラメ筋と腓腹筋が鉛直方向の支持力にもっとも大きく寄与し、それがストライド長(1歩の長さ)の増加につながっていたと報告されています。秒速7mを超えると、速度を上げる戦略はストライド頻度(1秒あたりの歩数)側に移り、腸腰筋・大殿筋・ハムストリングがその役割を担ったとされます。

秒速7mは時速およそ25km、1kmあたり約2分23秒。多くの市民ランナーが日常的に走る速度より速い領域です。読み取れるのは、市民ランナーが普段走る速度帯では下腿三頭筋が身体を支え、1歩を伸ばす側の主役として働いていると推定される、というところまでです。9名のデータをもとにしたモデルによる推定で、筋の力を実測した値ではありません。

そして、カーフレイズを一定期間続けた結果として、走りのタイムやランニングエコノミー(走りの燃費)がどう変わるかを、カーフレイズ単独で検証した研究は、今回の調査では見当たりませんでした。筋力トレーニング全体と走りの関係は筋トレでランニングエコノミーとバネはどう変わるかで扱っていますが、そこで扱った研究も「カーフレイズを行ったから」を切り分けてはいません。「走行中に大きく働いている筋だから、鍛えれば走りが良くなる」は、研究をまたいで接続した推測であって、検証された関係ではありません。

立って​行うか、​座って​行うか

カーフレイズには、膝を伸ばして立ったまま行うやり方(スタンディング)と、椅子に座って膝を約90度に曲げて行うやり方(シーテッド)があります。「立位は腓腹筋、座位はヒラメ筋」という説明を目にしますが、どこまでが研究で確かめられているのか。

膝の角度と足首の底屈(つま先を下に向ける動き)の力の関係を調べた研究(Cresswell, Löscher & Thorstensson, 1995)では、男性10名で、最大の底屈トルクは膝を曲げていくほどS字状に低下し、膝を伸ばした180度での最大値の60%まで下がりました。膝を曲げるほど腓腹筋の筋電図の値は小さくなった一方、ヒラメ筋の筋電図の値は変わらなかったとも報告されています。ただし著者らは、腓腹筋の筋電図が下がった理由として測定上の要因も挙げていて、筋電図の低下がそのまま「腓腹筋が働いていない」ことを意味するとは、この研究自身が断定していません。男性10名・等尺性(関節を動かさずに力を出す条件)・その場の測定という条件つきで、走る人が対象でも、トレーニングを続けた結果でもありません。

その場の測定ではなく、実際に鍛えて筋の大きさの変化を比べた研究もあります(Kinoshita et al., 2023)。トレーニング習慣のない成人14名が、片脚は立位(膝を伸ばした条件)、もう一方の脚は座位(膝を90度曲げた条件)でカーフレイズを行いました。負荷は1RM(1回だけ挙げられる最大重量)の70%、1セット10回を5セット、週2回、12週間。前後にMRIで筋の体積が測定されています。

12週間のカーフレイズで、筋体積は腓腹筋の外側頭が立位側12.4%・座位側1.7%、内側頭が立位側9.2%・座位側0.6%、下腿三頭筋全体が立位側5.6%・座位側2.1%増加し、いずれも立位側の増加が有意に大きかった(p≤0.011)。ヒラメ筋は立位側2.1%・座位側2.9%で、両条件の差は有意ではなかった(p=0.410)。座位側の腓腹筋は、介入前後の変化そのものが有意ではなかった(p=0.147〜0.508)。対象はトレーニング習慣のない成人14名で、走る人を対象にした研究ではない。
12週間のカーフレイズ後の筋体積の変化(MRIで測定。出典: Kinoshita et al., 2023)。同じ人の左右の脚で条件を分けた比較です。腓腹筋の外側頭・内側頭と下腿三頭筋全体では立位側の増加が有意に大きく(いずれも p ≤ 0.011)、ヒラメ筋では両条件の差は有意ではありませんでした(p = 0.410)。座位側の腓腹筋については、介入前後の変化そのものが有意ではありません(p = 0.147〜0.508)。対象はトレーニング習慣のない成人14名で、走る人を対象にした研究ではなく、走りの結果は測られていません。

2件は測っているものが違います(前者は急性のトルクと筋電図、後者は12週間後の筋体積)。言えるのは、「膝を伸ばした条件のほうが腓腹筋が力を出しやすく(Cresswell et al., 1995)、12週間鍛えたときに腓腹筋と下腿三頭筋全体が大きくなりやすかった(Kinoshita et al., 2023)」というところまでです。よく見かける「ヒラメ筋を鍛えるには座って行う必要がある」という説明は、Kinoshita らの研究の範囲では支持されていません(立位側 2.1%・座位側 2.9%、条件間の差は有意ではありませんでした)。ただし「座位に意味がない」という意味でもありません。増加はどちらの条件でも小さく、14名を対象とした1件の報告です。

そして、どちらの研究も走る人を対象にしておらず、走りの結果を測っていません。ふくらはぎが大きくなったことと、走りが変わることは別の水準の話。跳ぶ・弾む動作での使われ方はランナーのプライオメトリクス、腱の管理はアキレス腱が痛い・張るときにで扱っています。

可動域・テンポ・片脚への​移し方

ここからは研究の結論ではなく、現場での教え方です。効果が検証された手順ではない前提でお読みください。

  • 立ち位置:両足を腰幅に開き、つま先はまっすぐ前へ。壁や手すりに指先を軽く添え、体重を預けるのではなく、ふらつきを抑える支えにします。
  • 上げる:親指の付け根に体重を乗せたまま、かかとをまっすぐ上げます。足首が外側に逃げやすい動きです。後ろから動画を一度撮っておくと分かりやすくなります。
  • 止めて下ろす:上げきったところで一度止め、上げるときよりゆっくり、かかとが床に触れるところまで。反動で跳ねるように連続させると、狙いから外れます。

一つの目安として、上げる・止める・下ろすで「1秒・1秒・2〜3秒」程度のテンポを勧めます。検証された数値ではなく、動きの質を保ちやすい速さとして置いている目安です。

段差を使うかどうかという論点もあります。段差を使ったやり方と床の上でのやり方を直接比べたトレーニング研究は、今回の調査では見当たりませんでした。近いテーマとして、可動域の範囲を変えて比べた研究はあります(Kassiano et al., 2023)。若年女性42名がレッグプレスマシンで8週間行い、内側腓腹筋の筋厚の増加は、ふくらはぎが伸びている側の半分で +15.2%、全可動域で +6.7%、つま先立ち側の半分で +3.4% と、伸びている側が他の2群より大きい結果でした(p ≤ 0.009)。外側腓腹筋では、伸びている側と全可動域の差は有意ではありません(p = 0.060)。この1件から「深く下げるほどよい」とも「全可動域が最良」とも言えません。若年女性42名・レッグプレスマシン・8週間の筋厚の報告であり、段差の上で立って行うカーフレイズを比べたものでも、走る人が対象でもありません。

段差より先に、床の両脚で積みます。下げる深さを増やすほど、その日に止まる位置がぶれやすくなるからです。下げる深さはアキレス腱やふくらはぎに突っ張るような痛みが出ない範囲にとどめます。両脚が安定してきたら片脚へ。見るのは、上げきった位置で3秒静止できるか、左右で上がる高さが同じか、下ろす速さをコントロールできているかの3点ですが、いずれも検証された基準ではありません(片脚種目全般の位置づけはランジとスプリットスクワット)。

「何回やればいいですか」という疑問も挙がりやすいところです。参考になる数字として、臨床や体力測定の現場で使われるヒールレイズテストがあります。20〜81歳の566名を対象とした横断研究(Hébert-Losier et al., 2017)では、10度の傾斜台の上で片脚のヒールレイズを疲れるまで行った回数の中央値が男性24回、女性21回、1週間後に測り直したときの一致の幅(95%限界)は −6.2〜6.5回と報告されました。日によって6回前後は動く数字、ということです。この数字は、底屈筋の筋力・持久力を評価する「テスト」の参考値であって、トレーニングとして行うべき回数ではありません。指導上は、回数そのものより左右差と日による変化を見る材料として使います。医学的な評価や、左右差の原因を判断するものではありません。回数・セット数・頻度の考え方は走る人の筋トレ、何回・何セット・週何回?、股関節側の基礎は姉妹記事のヒップヒンジの基本で扱っています。

立ち止まる​場面と、​痛みが​出た​とき

カーフレイズについて、行わないほうがよい条件を体系的に検証した研究は、今回の調査では見当たりませんでした。以下は研究の結論ではなく、現場での扱いです。

  • 上げきる位置が下がってきた回で、そのセットを終える。回数を残していても続けません。
  • かかとを下げる深さは、痛みや強い突っ張りが出る手前で止める。その日の深さは日によって変わります。
  • 走練習の直前に追い込まない。フォームの質が落ちた状態で走り出すことを避けるための順番です。
  • 片脚で扱う日は、支えを外さない。バランスを崩したまま反復すると、狙いから外れます。

3つ目に関連して、「底屈筋が疲れると、すねの骨にかかる負担が増えるのではないか」という筋道を検証した研究があります(Rice et al., 2020)。市民ランナー14名が、重りを持った追い込むカーフレイズの前後で走行し、MRIで得た本人ごとの骨の形状をもとに脛骨の遠位3分の1にかかるストレスが推定されました。結果は、カーフレイズの前後で、脛骨の前・後・内・外いずれの部位でもストレスに差は認められなかったというもの。想定されていた筋道がこの条件では確認されなかったということであって、「追い込んでから走っても大丈夫」とも、その逆とも一般化できません(14名・モデルによる推定の単一報告)。走練習の直前に置かないのは、この研究を根拠にするのではなく、動きの質を保つという別の理由からです。すねの内側の痛みはシンスプリントと走行再開の目安、足の裏の痛みは足底腱膜炎(足裏・かかとの痛み)とランニングで扱っています。

そのうえで、線引きです。以下の受診の目安は、研究で検証された時間基準ではなく、安全側に置いた指導上の扱いです。

強い痛みで体重をかけられない、転倒などの外力のあとの痛み、変形や急な腫れ、しびれや力が入らない感じがある場合は、当日中を目安に受診してください。これらは注意したい状態の例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません。

走っている最中に後ろから蹴られたような衝撃を感じた、つま先立ちができない、うまく歩けない場合も、様子を見ずに速やかに医療機関にご相談ください。痛みが数週間続くときも同様です。痛みがある状態で何をどこまで行ってよいかは、記事の情報ではなく医療者の判断が優先されます。

まとめと、​次の​一歩

カーフレイズ単独で走りの結果を追った研究は、今回の調査では見当たりませんでした。以下は、その前提での要点です。

  • 走行のシミュレーション研究では、立脚の後半でヒラメ筋と腓腹筋が推進と支持のもっとも大きな貢献者とされ(Hamner et al., 2010)、秒速7m(およそ時速25km)までは底屈筋が鉛直方向の支持にもっとも寄与するとされています(Dorn et al., 2012)。いずれもモデルによる推定であり、鍛えた結果を追ったものではありません。
  • 膝を曲げると最大の底屈トルクは膝を伸ばした状態の60%まで低下し、腓腹筋の筋電図の値も下がりました(Cresswell et al., 1995。男性10名・等尺性)。ただし著者らは、筋電図の低下を測定上の要因で説明できる可能性も挙げています。
  • 12週間の比較では、腓腹筋と下腿三頭筋全体の増加は立位側が有意に大きく、ヒラメ筋では条件間の差は有意ではありませんでした(p = 0.410)(Kinoshita et al., 2023。トレーニング習慣のない成人14名)。走る人を対象にした研究ではなく、走りの結果は測られていません。
  • 可動域を変えた研究では、ふくらはぎが伸びている側の半分で行った群の内側腓腹筋の筋厚の増加が他の2群より大きい一方、外側腓腹筋では全可動域群との差が有意水準に届きませんでした(Kassiano et al., 2023。若年女性42名・レッグプレスマシン・8週間)。「深く下げるほどよい」とも「全可動域が最良」とも言えません。段差と床の直接比較は見当たりませんでした。
  • 指導上は、床の両脚から段差・片脚へ、可動域は痛みの手前まで、という順にしています。強い痛みで体重をかけられない・外力のあとの痛み・変形や急な腫れ・しびれや脱力がある場合は、この記事の範囲外です。医療機関にご相談ください(これらは注意したい状態の例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません)。

今日の走り終わりに、床の上で両脚のカーフレイズを10回だけ行ってみてください。1秒・1秒・2〜3秒のテンポで、左右のかかとが同じ高さまで上がっているかを確かめるところから始められます。

関連リンク


参考文献

  1. Hamner, S. R., Seth, A., & Delp, S. L. (2010). “Muscle contributions to propulsion and support during running.” Journal of Biomechanics, 43(14), 2709–2716. doi:10.1016/j.jbiomech.2010.06.025
  2. Dorn, T. W., Schache, A. G., & Pandy, M. G. (2012). “Muscular strategy shift in human running: dependence of running speed on hip and ankle muscle performance.” The Journal of Experimental Biology, 215(Pt 11), 1944–1956. doi:10.1242/jeb.064527
  3. Cresswell, A. G., Löscher, W. N., & Thorstensson, A. (1995). “Influence of gastrocnemius muscle length on triceps surae torque development and electromyographic activity in man.” Experimental Brain Research, 105(2), 283–290. doi:10.1007/BF00240964
  4. Kinoshita, M., Maeo, S., Kobayashi, Y., Eihara, Y., Ono, M., Sato, M., Sugiyama, T., Kanehisa, H., & Isaka, T. (2023). “Triceps surae muscle hypertrophy is greater after standing versus seated calf-raise training.” Frontiers in Physiology, 14, 1272106. doi:10.3389/fphys.2023.1272106
  5. Kassiano, W., Costa, B., Kunevaliki, G., Soares, D., Zacarias, G., Manske, I., Takaki, Y., Ruggiero, M. F., Stavinski, N., Francsuel, J., Tricoli, I., Carneiro, M. A. S., & Cyrino, E. S. (2023). “Greater gastrocnemius muscle hypertrophy after partial range of motion training performed at long muscle lengths.” Journal of Strength and Conditioning Research, 37(9), 1746–1753. doi:10.1519/JSC.0000000000004460
  6. Hébert-Losier, K., Wessman, C., Alricsson, M., & Svantesson, U. (2017). “Updated reliability and normative values for the standing heel-rise test in healthy adults.” Physiotherapy, 103(4), 446–452. doi:10.1016/j.physio.2017.03.002
  7. Rice, H. M., Kenny, M., Ellison, M. A., Fulford, J., Meardon, S. A., Derrick, T. R., & Hamill, J. (2020). “Tibial stress during running following a repeated calf-raise protocol.” Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 30(12), 2382–2389. doi:10.1111/sms.13794
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人に対する医学的助言・診断・治療を目的とするものではありません。体調や既往症に不安がある方は、必ず医師等の専門家にご相談ください。運動実施による結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。

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