種目をいくつか覚えると、次に出てきやすいのが「これを何回、何セット、週に何回やればいいのか」という問いです。この記事では、その決め方を強度(重さ)・量(セット×レップ)・頻度(週何回)の3つに分けて整理します。誰かのメニューの数字を借りるのではなく、自分の走練習と体調から量を決めるための枠組みです。
先にお伝えすると、「これだけやれば速くなる」という万能の数字はありません。示すのは、健康な成人向けのガイドラインで報告されている始めるときの目安と、それを走る練習と両立させながら調整する枠組みです。なぜ筋トレを足すのかという入口は、ランナーに筋トレは必要かで扱っています。
重さ・回数・頻度は、別々のつまみ
筋トレの「どれくらい」は、3つに分けると整理しやすくなります。扱う重さ(強度)。1種目あたりのセット数と1セットの反復回数(量)。そして週に何回行うか(頻度)。まずは別々のつまみとして捉えるところから始めます。
強度の表し方は大きく2通り。ひとつは%1RMで、そのフォームで1回だけ挙げられる最大の重さの何%を使うかで表します。もうひとつはRIR(Reps In Reserve、挙上の余裕)。そのセットで「あと何回できそうか」で強度を測る考え方で、あと2回できそうならRIR=2と表します。1RMをわざわざ測らなくても、限界の少し手前で止めるという感覚で管理できる。筋トレを始めたばかりであれば、後者から使って構いません。
量と強度には、ゆるやかな関係があります。アメリカスポーツ医学会(ACSM)のポジションスタンドは、健康な成人を対象としたレジスタンストレーニングの進め方をまとめたものです(Ratamess et al., 2009)。ここでは未経験〜初級者に対し、始めるときの一つの目安として中程度の負荷で8〜12回を1〜3セット、主要な部位を週2〜3回という範囲が示されています。重い重量ほど1セットで挙げられる回数は少なく、軽いほど多くの回数を扱える。この対応を大まかに並べると、次のようになります。
| 主なねらい | 強度の目安 | 1セットの反復回数 | 感覚(セット内の余裕=RIRの目安) |
|---|---|---|---|
| 最大筋力を高める | 高め(重い) | おおむね1〜6回 | かなりきつい/数回しか繰り返せない |
| 筋力と筋量の土台づくり | 中程度 | おおむね8〜12回 | きついが数回は余力を残せる |
| 筋持久力を高める | 低め(軽い) | おおむね15回以上 | 楽ではないが長く続けられる |
表:扱う重さと反復回数のおおまかな対応。重い負荷ほど繰り返せる回数は少なくなる。この対応関係と初級者向けの範囲(中程度の負荷・8〜12回・1〜3セット・週2〜3回)は、健康な成人一般を対象としたガイドラインで報告されているもので、走る人向けに最適化されたメニューではありません。週2〜3回は、月曜と木曜のように中2〜3日空けて置く配置にあたる。(出典: Ratamess et al., 2009)
線引きをはっきりさせておきます。このポジションスタンド(Ratamess et al., 2009)が対象にしているのは健康な成人一般であって、ランナー向けに設計されたメニューではありません。上の範囲は、筋トレそのものを安全に始めるための一般的な目安として読むのが適切です。
頻度は、走る練習と合わせて決める
週に何回という頻度は、筋トレ単体では決まりません。走る人の脚には、すでに走練習の負荷がかかっているからです。同じガイドラインでも、初級者は主要部位を週2〜3回、経験を積むにつれ部位を分けて頻度を上げる進め方が示されています(Ratamess et al., 2009)。ただしこれは筋トレを主目的にする人を想定した頻度で、週に何度も走るランナーがそのまま上乗せできるとは限りません。
ここからは研究の結論ではなく、指導上の目安です。走る練習を主に置く市民ランナーでは、全身の筋トレを週2回ほどから始め、走練習の状況を見て調整する組み方が多い傾向があります。研究で最適と証明された頻度ではなく、走る負荷と筋トレの負荷が同じ脚に重なることを踏まえた落としどころです。筋トレの回数を単独で最大化しようとせず、走練習を含めた1週間全体の疲労のなかで決める。そこが分かれ目になります。
回復も頻度と切り離せません。強い筋トレの後は筋肉に一時的な疲労が残り、その状態で質の高い走練習を重ねると、どちらも中途半端になりやすい。睡眠や休養日の取り方は回復の土台で、この点は走る人の睡眠で扱っています。
少しずつ増やすために、書いておく
体が変わっていくのは、扱える負荷が少しずつ増えていくからです。これを漸進性(progression)と呼びます。同じ重さ・同じ回数をいつまでも続けると、体はその負荷に慣れ、変化が頭打ちになりやすいと考えられています。
では、どのくらいのペースで増やすのか。ACSMのポジションスタンドでは、一つの目安として、設定した回数より1〜2回多くこなせるようになったら負荷をおよそ2〜10%増やす、という進め方が示されています(Ratamess et al., 2009)。20kgのダンベルなら0.4〜2kg分です。10回を目標にしている種目で、余裕をもって11〜12回できるようになったら、次から少し重くする。これは健康な成人向けの一般的な目安で、走練習の状況を無視して機械的に増やし続けてよいという意味ではありません。
助けになるのが記録です。どの種目を、何キロで、何回×何セットやったか。走練習と同じように書き留めておくと、「先週より1回多くできた」「今日はいつもの重さが重い」といった変化に気づけます。伸び悩んだときは、才能や種目を疑う前に、前回との比較ができているかを確かめます。手帳やスマホのメモで十分です。日付と種目と数字だけの素っ気ない行が並ぶもので構いません。
数字は、合否を決めるためではなく気づくために
ここまで挙げた数字は、走る人が自分の条件に合わせて調整するための最初の手がかりにすぎません。その調整に役立つのが、負荷を数字で眺める習慣です。練習1回全体のきつさを終わってから0〜10で自己評価し、練習時間(分)を掛けて、その日の負荷をおおまかに定量化する。これがセッションRPE法で、Foster et al.(2001)は、持久系を含むトレーニングにおいて、この指標が心拍数を用いた指標とよく対応する妥当な方法だと報告しています。
先に触れたRIRがセット単位の強度を表すのに対し、こちらは練習全体を1つの数字にまとめる使い方です。なお、検証されたのは主に持久系を含むトレーニングであり、筋トレを含む幅広いセッションへ当てはめるのは、研究の結論そのものというより、現場での使い方だとご理解ください。
一方で、負荷を1つの数字に押し込めて「この値なら安全、この値なら危険」と判定する使い方には慎重でいたいところです。負荷管理の指標をめぐっては、統計的・方法論的な観点からの批判も報告されています(Impellizzeri et al., 2020)。数字で見る目的は、合否の判定ではなく、自分の増減に早く気づくこと。この見方は練習の「詰め込みすぎ」を数字で見る——ACWRという考え方で、目安とされた数値やその限界まで含めて整理しています。
増やすことより、「来週も再来週も続いている状態」を優先します。量や頻度でつまずくのは、少なすぎるときより、多すぎて続かなくなるときのほうです。たとえばやる気のある時期にセット数を積み上げ、走練習との両立が重くなって、数週間で丸ごとやめてしまう。最初の負荷は、物足りないくらいから始めます。週2回・全身を数種目・各1〜2セットでも、記録があれば段階的に調整できます。
体調や既往に不安がある場合、痛みを伴う場合は、数字を追う前に医師等の専門家にご相談ください。種目ごとの動きはエクササイズガイド、目的から探すなら逆引きガイドが入口です。
まとめと、次の一歩
紹介した範囲は健康な成人一般のガイドライン由来で、走る人向けに最適化されたメニューではありません。そのうえで整理します。
- 筋トレの「どれくらい」は、強度(重さ)・量(セット×レップ)・頻度(週何回)の3つに分けて考えると整理しやすくなります。
- 健康な成人向けのガイドラインでは、初級者が始めるときの一つの目安として中程度の負荷で8〜12回を1〜3セット、主要部位を週2〜3回という範囲が報告されています(Ratamess et al., 2009)。
- 頻度は筋トレ単体でなく、走練習と回復を含めた1週間全体のなかで決めます。走る練習を主に置く市民ランナーでは、全身の筋トレを週2回ほどから始め、走練習の状況を見て調整する組み方が多い傾向があります。
- 少しずつ増やす判断は、記録があるとしやすくなります。設定回数より1〜2回多くできたら負荷を2〜10%増やす、という目安が示されています(Ratamess et al., 2009)。
- 数字は「速くするための決まったメニュー」ではなく、自分の負荷と反応を見て調整するための枠組みです。1つの値で安全・危険を判定する使い方には批判も報告されています(Impellizzeri et al., 2020)。
今週の筋トレを1回、種目と重さと回数だけメモに残してみてください。比べる相手ができると、増やすかどうかの判断が動き出します。
関連リンク
- 連載の入口:ランナーに筋トレは必要か(なぜ必要かの全体像)
- 負荷の見方を深掘り:練習の「詰め込みすぎ」を数字で見る——ACWRという考え方 / 回復の土台は走る人の睡眠
- 種目を選びたいとき:エクササイズガイド / 目的から種目を探す逆引きガイド
- 自分に合わせて量と頻度を組みたいとき:S&Cコーチングのご案内 / パーソナル指導(S&C/ランニング)のご案内
参考文献
- Ratamess, N. A., Alvar, B. A., Evetoch, T. K., Housh, T. J., Kibler, W. B., Kraemer, W. J., & Triplett, N. T. (2009). “American College of Sports Medicine position stand. Progression Models in Resistance Training for Healthy Adults.” Medicine & Science in Sports & Exercise, 41(3), 687–708. doi:10.1249/MSS.0b013e3181915670
- Foster, C., Florhaug, J. A., Franklin, J., Gottschall, L., Hrovatin, L. A., Parker, S., Doleshal, P., & Dodge, C. (2001). “A New Approach to Monitoring Exercise Training.” Journal of Strength and Conditioning Research, 15(1), 109–115. PMID: 11708692
- Impellizzeri, F. M., Tenan, M. S., Kempton, T., Novak, A., & Coutts, A. J. (2020). “Acute:Chronic Workload Ratio: Conceptual Issues and Fundamental Pitfalls.” International Journal of Sports Physiology and Performance, 15(6), 907–913. doi:10.1123/ijspp.2019-0864
