「インソールを入れると速くなる」「ケガが減る」。売り場でそう聞いて迷うことがあります。結論から書くと、ランナーにとってのインソールの効果は、根拠の揃い方が項目によってはっきり分かれています。この記事では、何を期待して1枚を足すのか、その期待にどこまで裏づけがあるのかを項目ごとに整理します。
もう一つ、先に押さえておきたい点です。研究が「インソール」と呼んでいるものと、店頭で手に取るものが同じとは限らないという点です。商品の順位づけはせず、商品名・ブランド名も出しません。すでに足やかかとに痛みが出ている場合は足底腱膜炎(足裏・かかとの痛み)とランニングで扱っています。
ケガ予防の根拠——足部装具と衝撃吸収インソールは別物として扱われている
研究で foot orthoses(足部装具) と呼ばれるのは、足裏の形に沿って輪郭がつけられたものです。あらかじめ成型された既製品と、個別に作られるもの(カスタム)の両方を含みます。shock-absorbing insoles(衝撃吸収インソール) は、衝撃を吸収する素材でできたものです。予防の指標に使われるリスク比は、1.0が「差がない」ことを表し、1より小さいほど介入群のほうが少なかったことを示します。95%信頼区間が1.0をまたぐ場合は「差があるとは言えない」方向の読み方になります。
なお、医療機関で医師の判断のもとに作られる足底装具と、店頭で購入できる市販のインソールは、作られる過程も位置づけも別のものです。この記事が扱うのは後者を検討するときの考え方で、前者の要否は医療者の判断です。
足部装具11件・衝撃吸収インソール7件の試験を統合したメタ分析(Bonanno et al., 2017)を見ます。足部装具ではすべての故障と疲労骨折で減少が報告された一方、軟部組織の故障と、衝撃吸収インソールの3項目は、いずれも信頼区間が1.0をまたぎました。報告値は下の図のとおりです。
著者らの結論は、足部装具はすべての故障と疲労骨折の予防に有効だったが軟部組織の故障には有効でなく、衝撃吸収インソールはいずれの故障の予防にも有効とされなかった、というものです。ただし同時に、組み入れた試験の質のばらつきが大きいことを限界に挙げています。質の指標(PEDroスケール、10点満点)の中央値は、足部装具の試験で5、衝撃吸収インソールの試験で3でした。衝撃吸収インソール側の試験は質の指標が相対的に低い、という事実までが報告の範囲です。いずれにせよ「差が示されなかった」ことは、「効果がないと確かめられた」という意味ではありません。なお、抄録からは含まれた試験の対象集団を確認できません。
そして、予防を扱った試験の対象が誰かは、この領域でとくに重要です。軍の士官候補生400名のランダム化比較試験(Franklyn-Miller et al., 2011)では、足圧の測定に基づいて作られた装具を受け取った群の故障は21件、対照群は61件でした(P < .0001)。海軍の新兵306名を11週間追跡した試験(Bonanno et al., 2018。前述のメタ分析には含まれていません)では、既製の輪郭つき足部装具の群で27件(17.6%)、平らなインソールの対照群で40件(26.1%)。発生率比は0.66(95%信頼区間 0.39〜1.11、p = 0.098)で、この区間も1.0をまたいでいます。著者らの結論も「海軍新兵の下肢の故障の発生を減らすうえで有益かもしれない」という限定つきでした。
軍の基礎訓練は、走る以外の負荷や生活の制約を多く含み、市民ランナーの練習とは条件が異なります。ここから「市民ランナーでも同じだけ故障が減る」と読み替えることはできません。
方向が逆に見える報告もあります。ランナーの前向き研究10件のメタ分析では、「足部装具(インソール類)の使用歴があること」がシンスプリントの発症と関連していました(リスク比2.31、95%信頼区間 1.56〜3.43。Newman et al., 2013)。ただしこの関連は、介入を割り付けた試験ではなく観察されたものです。もともと足に不安のある人が装具を使っていた、という順序でも説明がつきます(シンスプリントと走行再開の目安)。
痛みへの効果と、既製品とオーダーの比較
この節で紹介するのは、いずれもすでに痛みのある人を対象とし、医療機関で作られる装具も含む研究です。用語をもう一つ。シャムは、見た目や手続きは似ているものの効果を意図していない対照で、装具の試験では輪郭のない平らな中敷きなどが使われます。
かかとの痛みのある成人を対象に、19件の試験(1660名)を統合したメタ分析(Whittaker et al., 2018)があります。短期(0〜6週)と長期(13〜52週)は、痛みも機能も改善しないという質が非常に低い根拠。中期(7〜12週)は、シャムの装具より痛みを減らしたという中等度の質の根拠(標準化平均差 −0.27、95%信頼区間 −0.48〜−0.06。標準化平均差は単位の違う測定値をそろえて比べる指標で、0に近いほど差が小さい)で、機能の改善は中期でもありませんでした。著者らは、中期に痛みを減らすことについて中等度の質の根拠があるが、それが臨床的に重要な変化かどうかは不確かである、と結論しています。そして、カスタムと既製の比較では、どの時点でも差がありませんでした。
一方、20件の試験・8種類の装具を検討した別のメタ分析(Rasenberg et al., 2018)は、既製とカスタムの短期の痛みの差を平均差0.03(95%信頼区間 −0.15〜0.22)と報告しています。著者らの結論は、足部装具は、シャムや他の保存的な治療と比べて、かかとの痛みのある人の痛みと機能を改善する点で優れてはいないというものです。
この2件は組み入れた試験も比較の枠組みも異なり、どちらが正しいという形で並べることはできません。共通しているのは、カスタムが既製より良かったという結果が、どちらからも出ていないという点です。
別の部位でも同じ方向の報告があります。中部のアキレス腱障害のある140名のランダム化比較試験(Munteanu et al., 2015)では、ふくらはぎ運動に加えたカスタムの足部装具とシャムの装具の間に、主要評価時点の3か月で有意な差はありませんでした(調整平均差2.6、95%信頼区間 −2.9〜8.0、p = 0.353)。著者らの結論は、この試験の手順で作られたカスタム足部装具はシャムより有効ではない、というものです(アキレス腱が痛い・張るときに)。
痛みがあるときに何をどこまで行ってよいかは、医療者の判断が優先されます。かかとの痛み一つをとっても、含まれる病態は一つではありません。まず、その痛みが何によるものかを医療機関で確認することが先になります。
「速くなるか」の根拠は、どこまであるか
速くなる方向の効果は、今回調べた範囲の統合では示されていません。
ランニングエコノミー(同じ速度で走るときのエネルギーの使い方の効率。詳しくは筋トレでランニングエコノミーとバネはどう変わるか)を扱った9件の研究(足部装具5件、インソール4件)のメタ分析(Crago, Bishop & Arnold, 2019)は、長距離ランナーを対象としています。同研究は、足部装具は装具なしと比べてランニングエコノミーへの小さな負の効果と関連していたと報告しています(標準化平均差0.42、95%信頼区間 0.17〜0.72、p = 0.007)。ここでの「負の効果」は、経済性が良くなる方向ではなく、悪くなる方向を指します。衝撃吸収インソールも同じ方向の関連でしたが、著者らはこれを不正確な推定としています(同0.26、95%信頼区間 −0.33〜0.84、p = 0.83)。研究の質の指標(Quality Index、17点満点)は4〜15点の幅。著者らの結論は、足部装具と衝撃吸収インソールは長距離ランナーのランニングエコノミーに悪い影響を与えるかもしれないというものです。
ただし「インソールを入れると遅くなる」と断定できる結果ではありません。衝撃吸収インソール側の区間は0をまたぎ、研究の質にも幅があります。読み取れるのは、速くなる方向の効果はこの統合では示されなかった、というところまでです。
カーボン素材にも触れておきます。14件の実験研究をまとめたレビュー(Alexe et al., 2026)は、カーボンファイバーのインソールについては、有意なパフォーマンス上・代謝上の利益は示されなかったとしています。靴の構造に組み込まれたプレートと、靴の中に後から入れるインソールは別のものです(シューズ側の話はランニングシューズの選び方)。
道具を足す前に確認していること
ここからは研究の結論ではなく、指導上どう扱っているかです。検証された手順ではありません。個人差があり、目的や走る量によって置き方は変わります。
- 何のために入れるのかを1つ決める。速く走るためか、痛みへの対処か、靴の中の収まりを整えるためか。前節までのとおり、速くなる方向の報告は出ていません。痛みへの対処なら、道具より先に受診の判断が来ます。収まりを整えるためであれば、それは研究が測っていた効果とは別の目的です。
- 靴と合わせて確認する。インソールを1枚足すと靴の中の容積は減り、もとの中敷きと入れ替えるのか上に重ねるのかで、足の甲の圧迫もかかとの収まりも変わります。試す機会があるなら、普段の靴と靴下で。外した中敷きは、合わなかったときに戻せるよう取っておきます。靴を替える予定があるなら、靴を先に決めるほうが順番として素直です。
- 一度に一つだけ変える。インソール、靴、走るコース、走る量。同じ週に複数が変わると、後で何が合って何が合わなかったのかを切り分けられません(走る量の変え方は走る距離の増やし方)。
- 段階的に慣らす。前述の海軍新兵の試験(Bonanno et al., 2018)では、既製の足部装具を渡された群のほうが、少なくとも1件の有害事象を報告した割合が高いという結果でした(20.3% 対 12.4%、相対リスク1.63、95%信頼区間 0.96〜2.76、p = 0.068)。多かったのは足の水ぶくれ・土踏まずの痛み・すねの痛みです。この区間も1.0をまたいでおり、有害事象が増えると確定した結果ではありません。指導上は、いきなり長い距離で使わず、日常の歩行や短い距離から使う時間を延ばしていきます。これは検証された慣らし方ではありません。
道具を足すかどうかより、走る量の増え方や休養の取り方を先に見ます。市民ランナーでは走る量が急に増えた時期、ジュニア世代では身長が伸びている時期が、目を向けたいところです。これは検証された優先順位ではありません。土台は走る人の下半身筋トレ、回復はランニングの疲労回復にまとめました。
扁平足・回内が気になる場合について。足の形やその評価は、この記事で判断できることではありません。ここまでの研究が測っているのは、故障の発生・痛みの強さ・走りの経済性であって、足の形そのものの変化ではありません。気になる場合は、実際に足を診る医療者にご相談ください。
痛みが出ている状態を、道具で解決しようとしない。押すと一点が痛む、腫れがある、走るたびに痛みが強くなる、しびれや感覚の異常がある。こうしたときは、整形外科など医療機関にご相談ください。強い痛みで体重をかけられない、転倒などの外力のあとの痛み、変形や急な腫れ、しびれや力が入らない感じがある場合は、当日中を目安に受診してください。これらは注意したい状態の例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません。治療中の病気がある方、足の感覚や皮膚の状態に不安がある方、妊娠中の方は、自己判断で始める前に主治医にご相談ください。痛みそのものの扱いは足底腱膜炎(足裏・かかとの痛み)とランニングやシンスプリントと走行再開の目安で整理しています。
まとめと、次の一歩
ここで挙げた研究は、対象も比較の枠組みも別々で、横に並べて比べることはできません。そのうえで言えるのは、次のところまでです。
- 研究では、輪郭のついた足部装具と平らな衝撃吸収インソールが別物として扱われています。予防のメタ分析(Bonanno et al., 2017)では、足部装具ですべての故障と疲労骨折の減少が報告された一方、軟部組織の故障と衝撃吸収インソールの3項目はいずれも区間が1.0をまたいでいます(報告値は図のとおり)。著者らは試験の質のばらつきを限界に挙げています。
- 予防を扱った試験には、軍の基礎訓練中の集団を対象としたものがあります(Franklyn-Miller et al., 2011/Bonanno et al., 2018)。海軍新兵306名の試験の発生率比は0.66でした(95%信頼区間 0.39〜1.11、p = 0.098)。著者らの結論も「有益かもしれない」という限定つきで、市民ランナーにそのまま当てはめられる条件ではありません。
- かかとの痛みについては、中期(7〜12週)にシャムより痛みが減ったとする中等度の質の根拠(標準化平均差 −0.27、95%信頼区間 −0.48〜−0.06。ただし臨床的に重要な変化かは不確か。Whittaker et al., 2018)と、シャムや他の保存的治療より優れてはいないとする結論(Rasenberg et al., 2018)があります。共通するのは、カスタムが既製より良かったという結果がどちらからも出ていないことです(既製とカスタムの短期の平均差0.03、95%信頼区間 −0.15〜0.22)。
- 走りの経済性では、足部装具が悪くなる方向の小さな効果と関連したと報告されています(標準化平均差0.42、95%信頼区間 0.17〜0.72、p = 0.007。Crago, Bishop & Arnold, 2019)。「遅くなる」と断定できる結果ではありませんが、速くなる方向の効果はこの統合では示されませんでした。
- ここでは、目的を1つ決める→靴と合わせて確認する→一度に一つだけ変える→段階的に慣らす、という順番を置いています。これは検証された手順ではなく指導上の扱いです。すでに痛みが出ている場合は、道具を足す前に医療機関にご相談ください。
いま履いている靴の中敷きを、一度外して手に取ってみてください。何を足したいのか、そこではっきりすることがあります。
関連リンク
- 走り始めに何を買うか——最初に要る3つと、後でいい5つ
- 痛みの側:足底腱膜炎(足裏・かかとの痛み)とランニング / シンスプリントと走行再開の目安 / アキレス腱が痛い・張るときに
- 道具選びの考え方:ランニングシューズの選び方 / フォームローラーの選び方
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参考文献
- Bonanno, D. R., Landorf, K. B., Munteanu, S. E., Murley, G. S., & Menz, H. B. (2017). “Effectiveness of foot orthoses and shock-absorbing insoles for the prevention of injury: a systematic review and meta-analysis.” British Journal of Sports Medicine, 51(2), 86–96. doi:10.1136/bjsports-2016-096671
- Bonanno, D. R., Murley, G. S., Munteanu, S. E., Landorf, K. B., & Menz, H. B. (2018). “Effectiveness of foot orthoses for the prevention of lower limb overuse injuries in naval recruits: a randomised controlled trial.” British Journal of Sports Medicine, 52(5), 298–302. doi:10.1136/bjsports-2017-098273
- Franklyn-Miller, A., Wilson, C., Bilzon, J., & McCrory, P. (2011). “Foot orthoses in the prevention of injury in initial military training: a randomized controlled trial.” The American Journal of Sports Medicine, 39(1), 30–37. doi:10.1177/0363546510382852
- Whittaker, G. A., Munteanu, S. E., Menz, H. B., Tan, J. M., Rabusin, C. L., & Landorf, K. B. (2018). “Foot orthoses for plantar heel pain: a systematic review and meta-analysis.” British Journal of Sports Medicine, 52(5), 322–328. doi:10.1136/bjsports-2016-097355
- Rasenberg, N., Riel, H., Rathleff, M. S., Bierma-Zeinstra, S. M. A., & van Middelkoop, M. (2018). “Efficacy of foot orthoses for the treatment of plantar heel pain: a systematic review and meta-analysis.” British Journal of Sports Medicine, 52(16), 1040–1046. doi:10.1136/bjsports-2017-097892
- Munteanu, S. E., Scott, L. A., Bonanno, D. R., Landorf, K. B., Pizzari, T., Cook, J. L., & Menz, H. B. (2015). “Effectiveness of customised foot orthoses for Achilles tendinopathy: a randomised controlled trial.” British Journal of Sports Medicine, 49(15), 989–994. doi:10.1136/bjsports-2014-093845
- Crago, D., Bishop, C., & Arnold, J. B. (2019). “The effect of foot orthoses and insoles on running economy and performance in distance runners: A systematic review and meta-analysis.” Journal of Sports Sciences, 37(21), 2460–2467. doi:10.1080/02640414.2019.1651582
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- Newman, P., Witchalls, J., Waddington, G., & Adams, R. (2013). “Risk factors associated with medial tibial stress syndrome in runners: a systematic review and meta-analysis.” Open Access Journal of Sports Medicine, 4, 229–241. doi:10.2147/OAJSM.S39331
