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筋トレで​ランニングエコノミーと​バネは​どう​変わるか

出典3件・すべて一次情報にリンク

軽く跳ねるような接地で走るランナーの線画イラスト

同じキロ5分でも、終盤に脚が残る人と、残らない人がいます。走りの燃費を良くしたい。そう考える方に向けて、この記事ではランニングエコノミーの改善と筋トレの関係を、「筋力」と「腱のバネ」に分けて整理します。走りの崩れ方から、どちらを先に補うかを選ぶところまで扱います。

前回のランナーに筋トレは必要かでは、筋トレがエコノミーの改善と関連して報告されていること、ただしタイム向上を保証するわけではないことを扱いました。ここでは一歩進んで、筋トレが走りの何を変えているのかを見ていきます。

走りの​燃費とは、​同じ​ペースで​使う​酸素の​量

ランニングエコノミーとは、一定のペースで走るときに必要な酸素の量のことです。同じ速度をより少ない酸素で走れるほど、燃費が良い。車の燃費にあたる指標で、最大酸素摂取量(エンジンの大きさ)や乳酸性作業閾値(無理なく続けられる上限)と並び、持久走の力を左右する要因とされています。

エンジンの大きさは、ある程度鍛えると頭打ちになりやすいことが知られています。そこで、同じエンジンでどれだけ効率よく走れるか。この燃費の部分が、走り込みを重ねたランナーの伸びしろになりやすいと考えられています。筋トレが注目されるのは、燃費に関わる要素を、走る練習とは別の角度から刺激できるからです。

「筋力」と​「腱の​バネ」は​別の​道具

ここが今回の中心です。燃費に関わる身体側の要素は、大きく2つに分けると整理しやすくなります。ひとつは筋力、筋肉が発揮できる力の大きさ。もうひとつは腱のバネ(スティフネス)で、アキレス腱などが着地の衝撃をいったん受け止め、バネのように跳ね返す性質です。

走る動作は、着地のたびに腱が伸ばされ、その直後に縮んで力を返す。この「伸張−短縮サイクル」の連続です。腱のバネがよく効いていると、ためた弾性エネルギーの一部が再利用され、筋が新たに行う仕事量やエネルギーコストに影響しうると考えられています。

持久系アスリートを対象にした系統的レビュー(Beattie et al., 2014)があります。筋力トレーニングが、ランニングエコノミーや最大酸素摂取量での走速度、筋パワーに及ぼす効果を検討したものです。そこでは、これらの指標が神経筋系のはたらきに部分的に左右されることが整理されています。筋力とバネは、同じ神経筋系という土俵にありながら鍛える経路が違う。まずは別の道具だと捉えるところからです。

なお、腱の性質を鍛えるという話は、成人ランナーを中心とした研究で報告されている内容です。成長期の選手や、走り始めたばかりの方に同じ反応がそのまま当てはまるかは、別の問題になります。

ランニングエコノミーの​改善に​効いたのは、​どの​トレーニングか

では、どんなトレーニングが燃費に効くのでしょうか。持久系アスリートを対象に、トレーニングの種類ごとに効果を統合したメタ分析があります(Denadai et al., 2017)。2015年8月までに発表された16研究・20の効果量をまとめたもので、報告された値(いずれも介入群と対照群の変化率の差)は次の通りです。

トレーニングの種類対照群との変化率の差(平均±95%信頼限界)統計的有意性
爆発的トレーニング(ジャンプ系など)−4.83 ± 1.53 %p < 0.001
重い筋トレ(高負荷レジスタンス)−3.65 ± 2.74 %p = 0.009
アイソメトリック(等尺性)−2.20 ± 4.37 %p = 0.324(有意差なし)
全体(並行トレーニング全般)−3.93 ± 1.19 %p < 0.001

表:トレーニング種類別のランニングエコノミーへの効果。数値は対照群と介入群の変化率の差で、±は標準偏差ではなく95%信頼限界を表す。マイナスであるほどエコノミー改善(同じペースをより少ない酸素で走れる)を示す。−4.83%は、同じペースで走ったときに使う酸素が5%ほど少ない側に振れた、という大きさにあたる。(出典: Denadai et al., 2017)

このメタ分析が報告しているのは、爆発的トレーニングと重い筋トレのどちらも、持久系アスリートのランニングエコノミーの改善と関連していたということです。等尺性トレーニング単独では、統計的に明確な差は示されませんでした。トレーニング期間が長いプログラムほど改善幅が大きい傾向(期間が有意な調整因子)も報告されています。

その背景として、爆発的トレーニングは腱のバネと素早い力発揮(神経系の動員)を、重い筋トレは発揮できる最大筋力を主に刺激し、経路は違っても燃費という同じ出口につながる。そうした機序が候補として考えられます。ただしこれは解釈であって、メタ分析が作用経路そのものを実証したわけではありません。対象も持久系アスリートですから、この変化率をそのまま市民ランナーや初心者の期待値に置き換えることはできません。

太く​する​ためではなく、​使い方を​変える​ために

筋トレというと筋肉を大きくするイメージがあります。脚が太く重くなって、かえって遅くなるのでは。ですが、ここまで見てきた効果の中心は、筋肉のサイズそのものではありません。

筋力に関する広範なレビュー(Suchomel et al., 2016)では、大きな筋力が、跳ぶ・走る・切り返すといった動作の力−時間特性の改善と関連すると整理されています。働く要素は、既存の筋をどれだけ動員できるか、どれだけ素早く力を立ち上げられるか、着地で身体を支える剛性など。持久系ランナーの筋力トレーニングでは、こうした使い方の側面が関わり、大幅な筋肥大を必ずしも伴わない可能性があります。ただし、持久系ランナーに限って「肥大より動員・剛性が中心」と言い切れる直接的な根拠は限られており、負荷や量の組み方で身体の反応は変わります。

現場から、​バネと​力を​分けて​見る

バネと力のどちらを先に補うかは、走りの崩れ方を見てから決めます。同じように走り込んでいても、つまずき方が二通りに分かれるためです。着地でバネが効かず、一歩ごとに沈み込んでしまう人。力そのものが足りず、終盤に姿勢を支えきれなくなる人。前者にはジャンプ系(プライオメトリクス)で素早い力発揮を、後者には基礎的な筋力づくりを先に、という組み立てになります。

ジョグのあとに軽く数回跳ぶと、着地音の大きさや沈み込み方の違いを確かめられます。レース後半の写真で、前半より腰が落ちていないか。そこも手がかりになります。研究が示すのは「どちらも効きうる」という集団の平均像で、そこから先の順番は個別の判断になります。

ただし、これは大まかな見取り図です。バネ系のトレーニングは負荷が高く、土台となる筋力や故障予防の準備が整わないうちに先走ると、ケガのリスクを上げかねません。走りを支える体幹の使い方はランニングのための体幹トレーニング、負荷の増え方の見方は練習の「詰め込みすぎ」を数字で見る——ACWRという考え方で扱っています。終盤の失速そのものはマラソン後半の失速はなぜ起こるのかをどうぞ。

まとめと、​次の​一歩

紹介した数値は持久系アスリートを対象にしたもので、市民ランナーや初心者の期待値ではありません。そのうえで、押さえておきたい要点を5つ。

  • ランニングエコノミー(走りの燃費)は、最大酸素摂取量が頭打ちになりやすい中で、走り込んだランナーの伸びしろになりやすい要素と考えられています。
  • 燃費に関わる身体側の要素は、「筋力(発揮できる力)」と「腱のバネ(スティフネス)」に分けて捉えると整理しやすくなります。経路の異なる別の道具です。
  • メタ分析では、爆発的トレーニング(対照群との変化率の差 −4.83%)と重い筋トレ(−3.65%)がともにエコノミーの改善と関連し、等尺性単独では明確な差は示されませんでした(Denadai et al., 2017。数値は群間差、±は95%信頼限界)。
  • 走る人の筋トレでは、筋肥大そのものより「動員と剛性」という使い方の側面に目を向けると整理しやすくなります。ただし持久系ランナーに限って言い切れる直接的な根拠は限られます。
  • 自分はバネと力のどちらを先に補うべきか。それは走りのどこが崩れているかを見て決める、個別の判断です。

今週のジョグのあとに、軽く5回跳んでみてください。着地の沈み込みや音を自分で確かめると、どちらを先に補うかの手がかりになります。

関連リンク


参考文献

  1. Beattie, K., Kenny, I. C., Lyons, M., & Carson, B. P. (2014). “The Effect of Strength Training on Performance in Endurance Athletes.” Sports Medicine, 44(6), 845–865. doi:10.1007/s40279-014-0157-y
  2. Denadai, B. S., de Aguiar, R. A., de Lima, L. C. R., Greco, C. C., & Caputo, F. (2017). “Explosive Training and Heavy Weight Training are Effective for Improving Running Economy in Endurance Athletes: A Systematic Review and Meta-Analysis.” Sports Medicine, 47(3), 545–554. doi:10.1007/s40279-016-0604-z
  3. Suchomel, T. J., Nimphius, S., & Stone, M. H. (2016). “The Importance of Muscular Strength in Athletic Performance.” Sports Medicine, 46(10), 1419–1449. doi:10.1007/s40279-016-0486-0
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人に対する医学的助言・診断・治療を目的とするものではありません。体調や既往症に不安がある方は、必ず医師等の専門家にご相談ください。運動実施による結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。

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