走り始めるなら、途中で切れずに続く形で入りたい。結論を先に書きます。30分を走り続けられなくても構いませんし、歩いてもいい。「この初心者プログラムなら故障を防げる」と示せた試験が、そもそも多くないからです。
この記事では、最初の1ヶ月に何を判断材料にすればよいかを整理します。ただし「1ヶ月でこれだけ走れるようになる」という到達を示す記事ではありません。ここでの「1ヶ月」は、体が走る負荷に触れ始めてから最初の区切りまでを指す期間の区分です。週ごとのメニュー表も載せていません。
走り始めの時期は、慎重に扱う価値がある
まず指標の意味から。ランニングの研究では、故障の起こりやすさを走行1,000時間あたりに新たに発生した故障の件数(発生率)で表すことがよくあります。走った時間で割るので、たくさん走る人ほど数字が大きく出る、ということが起きにくい指標です。1,000時間と言われてもぴんと来ませんが、週2回・1回30分の人なら、積み上がるまでに19年ほどかかります。
13件の研究を統合したメタ分析(Videbæk et al., 2015)では、この発生件数が走り始めた人で17.8件、習慣的に走っている人で7.7件と報告されました。著者らの結論は、走り始めた人のほうが故障のリスクが有意に高いと見られる、というものです。
読み方には注意が要ります。著者ら自身が限界に挙げているのは、研究ごとに故障の定義や測り方が異なるという点。「痛みが出たら故障」と数える研究と、「練習を休んだら故障」と数える研究では、同じ集団でも数字は変わる。これから走る方個人の確率を示す値でもありません。
それでも、走り始めが慎重に扱う価値のある時期だという方向は、報告値から読み取れます。
「正しいプログラム」を探しても、決め手にはならない
では、初心者向けの正解メニューを探せばよいのか。研究の側から見ると、そこは期待しにくいところです。
初心者ランナー532名のランダム化比較試験(Buist et al., 2008)では、距離の増やし方をゆるやかにした13週間のプログラムと、標準的な8週間のプログラムを比較しました。故障発生率は20.8%と20.3%。ゆるやかにした側が故障の数を減らすとは言えなかった、と報告されています。増やし方そのものは走る距離の増やし方にまとめました。
走り出す前に準備期間を足す発想も検証されています。初心者ランナー432名の試験(Bredeweg et al., 2012)では、9週間のプログラムの前に、歩行とホッピングからなる4週間を挟む群と挟まない群を比べました。故障発生率は15.2%と16.8%で、統計的に意味のある差は認められませんでした(p=0.69)。
この2つの数値を横に並べて比べることはできません。対象も期間も故障の定義もプログラムの中身も異なる、別々の試験です。共通しているのは結果の方向だけ。設計に工夫を一つ足すだけでは、故障件数の減少は示されなかった、ということです。そして「差が認められなかった」は、「無意味」でも「有害」でもありません。どちらの試験も、小さな差を検出できる規模と期間があったとは限らないからです。
一方で、比較的一貫した報告が積み上がっている領域もあります。さまざまな競技のランダム化比較試験を統合したメタ分析(Lauersen et al., 2014)では、筋力トレーニングを行った群のスポーツ外傷リスク比が0.315と報告されています(メタ分析全体のうち、介入の種類別の解析による値)。リスク比は1.0が「差がない」ことを表し、小さいほど外傷が少なかったことを示す指標です。ただし対象はさまざまな競技・年代を含む集団で、走り始めた市民ランナーに限った検証ではありません。土台づくりの入口はランナーに筋トレは必要か、順を追って進めたい方は連載講座走る人の筋トレ入門へ。走りを再開する場合は整える順番にまとめてあります。
量は控えめから。ただし「週何km」までは言えない
工夫を足しても減らなかった、という話は、量を好きなだけ増やしてよいという話ではありません。
初心者ランナー約870名を追跡した研究があります(Nielsen et al., 2014)。2週間で走行距離を30%を超えて増やしたランナーに、腸脛靱帯や脛の痛みなど「距離に関連する」タイプの故障が起こりやすい傾向が報告されました。ただし故障をタイプ別に分けた分析での傾向で、故障全体で明確な群間差が示されたわけではありません。「30%」は守るべき境界線ではなく、短期間で大きく跳ね上げないという原則のほうを受け取るのが妥当だと考えられます。
最初に置く量そのものを割り付けた試験も1件あります(Bertelsen et al., 2018)。BMI 30〜35で運動習慣のない56名を、週3kmから始める群と週6kmから始める群に分け、4週間追跡したものです。故障したのは3km群で2名、6km群で5名。ただし割り付けられた群のまま数える解析では統計的に有意ではなく、有意だったのはプログラムを守れた人だけに絞った解析のほうでした。
ここから「走り始めは週3km」と一律に勧めることはできません。56名の小規模な試験で、対象も追跡期間も限られます。読み取れるのは、最初に置く量は控えめのほうを検討する価値がある、という方向まで。
現場では「1ヶ月後もまだ走っている」を優先する
ここからは研究の結論ではなく、指導上どう扱っているかを書きます。
最初の1ヶ月の目標は、距離ではなく「1ヶ月後もまだ走っていること」に置きます。ここまで見たとおり「この設計なら防げる」と示された初心者プログラムはなく、刻み方を細かく詰めたところで、続かなければ何も残らないからです。
始め方には、歩く時間を混ぜた形を勧めます。走り続ける形と歩走を混ぜる形を直接比べ、故障や継続で優劣を検証した研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。ですのでこれは現場の扱いです。理由は、走り始めは心肺よりも先に脚の組織が音を上げやすく、「息は上がっていないのに脚が痛い」という形で出やすいことです。
頻度は週2〜3回を一つの目安に。走らない日を挟んでおくと、予定が崩れたときに戻しやすくなります。強度は「翌日に疲れを残さない」を上限に。走りながら会話ができるくらい、翌朝に脚の重さが残っていないくらい、という主観的な線です。増やすときは一つずつ、時間・頻度・強度を同じ週に同時には上げません。
初回に決めるのは、距離ではなく段取りのほうです。走る曜日と時間帯を先に決める、走った事実だけを1行記録する、天候が悪い日の代わりを決めておく。週ごとのメニュー表を置いていないのも、表を配ると体の反応より表のほうに合わせてしまうからです。
走る前の準備はランニング前のウォームアップへ。走ったあとの扱いはクールダウンとストレッチにまとめています。どちらも「やらないと故障する」という位置づけでは書いていません。
最後に線引きです。押すと一点が痛む、腫れがある、走るたびに痛みが強くなる、歩くだけでも痛む、夜間に痛む。こうしたときは、整形外科など医療機関にご相談ください。強い痛みで体重をかけられない、転倒などの外力のあとの痛み、変形や急な腫れがある場合は、走るのをやめて当日中を目安に受診してください。走行中の胸の痛みや意識が遠のく感覚など、脚以外の強い症状が出たときは、直ちに中止を。救急要請を含めた対応をためらわないでください。これらは注意したい状態の例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません。すねの痛みはシンスプリントと走行再開の目安でも扱っています。
よくある質問
Q. 30分を走り続けられません。歩いてもいいですか。
構いませんし、歩いてもいいです。「この初心者プログラムなら故障を防げる」と示せた試験が、そもそも多くないためです。ここでは歩く時間を混ぜた形から、週2〜3回、翌日に疲れを残さない強度を目安にします。これは検証された手順ではなく、指導上の扱いです。
Q. 最初の1ヶ月は、週に何km走ればいいですか。
特定の数字を勧める根拠は見当たりません。量について言えるのは、短期間で大きく跳ね上げないこと、最初は控えめに置くことの2点までです(Nielsen et al., 2014/Bertelsen et al., 2018)。本記事に週ごとのメニュー表を載せていないのはこのためです。距離より先に、走る曜日と時間帯を決めるほうが扱いやすくなります。
Q. 初心者向けのプログラムは、どれを選べばいいですか。
プログラムの工夫で故障件数の減少を示せた試験は多くありません(20.8%対20.3%=Buist et al., 2008/15.2%対16.8%=Bredeweg et al., 2012)。別々の試験のため、数値を横に並べて比べることはできません。どれを選ぶかで結果が決まる、という段階には至っていないので、選び直すことに時間をかけるより、続けられる形を先に決めるほうが現実的です。
Q. 走り始めてから痛みが出たときは、どうすればいいですか。
押すと一点が痛む、腫れがある、走るたびに痛みが強くなる、歩くだけでも痛む、夜間に痛む。こうしたときは、整形外科など医療機関にご相談ください。強い痛みで体重をかけられない、転倒などの外力のあとの痛み、変形や急な腫れがある場合は、走るのをやめて当日中を目安に受診してください。走行中の胸の痛みや意識が遠のく感覚など、脚以外の強い症状が出たときは、直ちに中止を。救急要請を含めた対応をためらわないでください。これらは注意したい状態の例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません。
まとめと、次の一歩
走り始めの人を対象にした試験は数が限られ、故障の定義も研究ごとに違う。断定はできませんが、そのうえで言えることを並べます。
- 走行1,000時間あたりの故障発生件数は、走り始めた人で17.8件、習慣的に走っている人で7.7件と報告されています(Videbæk et al., 2015)。集団を平均した値であり、個人の確率を示すものではありません。
- プログラムの工夫で故障件数の減少を示せた試験は多くありません(20.8%対20.3%=Buist et al., 2008/15.2%対16.8%=Bredeweg et al., 2012)。別々の試験のため数値を横に並べて比べることはできず、「差が認められなかった」は「有害」を意味しません。
- 量について言えるのは、短期間で大きく跳ね上げないこと、最初は控えめに置くことの2点まで(Nielsen et al., 2014/Bertelsen et al., 2018)。特定の数字を勧める根拠にはなりません。
- 30分を走り続けられなくても構いませんし、歩いてもいい。ここでは歩く時間を混ぜた形から、週2〜3回、翌日に疲れを残さない強度を目安にします。これは検証された効果ではなく指導上の扱いです。
- 痛みが出たときは自己判断で走り続けず、医療機関にご相談ください。体の反応には個人差があります。
走る曜日と時間帯を1つだけ決めてみてください。距離を決めるのは、そのあとで構いません。
関連リンク
- 初めての5km・10km——研究が薄い領域で何が言えるか
- 関連記事:走る距離の増やし方——「10%ルール」と故障予防の考え方 / 走りを再開するときに整える順番 / ランニング前のウォームアップ
- 体の土台から始めたいとき:連載講座走る人の筋トレ入門(STEP1: ランナーに筋トレは必要か)
- 最初の1ヶ月を一緒に設計したいとき:パーソナル指導(S&C/ランニング)のご案内
参考文献
- Videbæk, S., Bueno, A. M., Nielsen, R. O., & Rasmussen, S. (2015). “Incidence of running-related injuries per 1000 h of running in different types of runners: a systematic review and meta-analysis.” Sports Medicine, 45(7), 1017–1026. doi:10.1007/s40279-015-0333-8
- Buist, I., Bredeweg, S. W., van Mechelen, W., Lemmink, K. A. P. M., Pepping, G.-J., & Diercks, R. L. (2008). “No effect of a graded training program on the number of running-related injuries in novice runners: a randomized controlled trial.” The American Journal of Sports Medicine, 36(1), 33–39. PMID: 17940147
- Bredeweg, S. W., Zijlstra, S., Bessem, B., & Buist, I. (2012). “The effectiveness of a preconditioning programme on preventing running-related injuries in novice runners: a randomised controlled trial.” British Journal of Sports Medicine, 46(12), 865–870. doi:10.1136/bjsports-2012-091397
- Nielsen, R. O., Parner, E. T., Nohr, E. A., Sørensen, H., Lind, M., & Rasmussen, S. (2014). “Excessive progression in weekly running distance and risk of running-related injuries: an association which varies according to type of injury.” Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 44(10), 739–747. doi:10.2519/jospt.2014.5164
- Bertelsen, M. L., Hansen, M., Rasmussen, S., & Nielsen, R. O. (2018). “The start-to-run distance and running-related injury among obese novice runners: a randomized trial.” International Journal of Sports Physical Therapy, 13(6), 943–955. PMID: 30534460
- Lauersen, J. B., Bertelsen, D. M., & Andersen, L. B. (2014). “The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials.” British Journal of Sports Medicine, 48(11), 871–877. doi:10.1136/bjsports-2013-092538
