スクワットで膝が内側に入る、どこまで深く沈めばいいか決められない。この2つは、筋トレを走る練習に足したばかりの時期につまずきやすいところです。結論から言うと、どちらも「正解の角度」を探すより、その日にフォームを保てる範囲を自分で見つけるほうが早く進みます。この記事では、深さと膝の向きで迷ったときに何から試すか、その順番を扱います。
走る人の下半身トレーニングの全体像は、走る人の下半身筋トレで膝主導・股関節ヒンジ・片脚の3つとして整理しました。ここで扱うのは、そのうちの膝主導、スクワット1種目のフォームだけ。走りの燃費との関係は筋トレでランニングエコノミーとバネはどう変わるかの担当範囲です。
深さは「その日フォームを保てるところ」で決める
深さは、フォームの変数のなかでもっとも比較実験が行われている部分です。10週間(週2日)のトレーニングで深さを比べた研究(Kubo et al., 2019)では、男性17名がフルスクワット群(8名)とハーフスクワット群(9名)に無作為に分けられました。フルスクワットの1RM(1回だけ挙げられる最大重量)の増加はフル群のほうが有意に大きく(p = 0.003)、ハーフスクワットの1RMの増加には両群の差がありませんでした(p = 0.132)。数値は下の図をご覧ください。読み取れるのは、どの深さでトレーニングしたかによって、どの深さのテストで伸びが出るかが変わるという関係です。
同じ研究で、筋の体積(MRIで測定)は次のように報告されています。
| 筋 | フル群 | ハーフ群 |
|---|---|---|
| 膝伸筋群 | 4.9 ± 2.6% 増加(p < 0.001) | 4.6 ± 3.1% 増加(p = 0.003) |
| 大腿直筋・ハムストリング | 変化なし | 変化なし |
| 内転筋群 | 6.2 ± 2.6% 増加 | 2.7 ± 3.1% 増加 |
| 大殿筋 | 6.7 ± 3.5% 増加 | 2.2 ± 2.6% 増加 |
表:10週間のトレーニング前後の筋体積の変化(出典: Kubo et al., 2019)。内転筋群と大殿筋はどちらの群でも有意に増加し、その増加率はフル群のほうが有意に大きいと報告されています(内転筋群 p = 0.026、大殿筋 p = 0.008)。著者らの結論は「フルスクワットのトレーニングは、大腿直筋とハムストリングを除く下肢の筋を発達させるうえでより効果的である」というものです。男性17名の研究であり、走る人を対象にした報告ではありません。
12週間の研究(Bloomquist et al., 2013)でも、深い群は浅い・深い両方の1RMが約 20 ± 3% 増加し、浅い群は浅いスクワットで 36 ± 4%、深いスクワットで 9 ± 2% の増加でした(P < 0.05)。この2件は期間も深さの定義も測定項目も異なるため、数値を並べて比べることはできません。どちらも十数名の男性が対象で、走る人を対象にしたものでもありません。
では、深いほうが安全なのか。ここはレビュー同士で結論の向きが一致していません。膝のバイオメカニクスを整理したレビュー(Escamilla, 2001)は、健康な膝のアスリートには、深いスクワットよりパラレルスクワット(最大屈曲時に大腿が床と平行)を推奨しています。一方、164編を超える文献を含むレビュー(Hartmann et al., 2013)は、深いスクワットにおける退行性変化やより高いリスクへの懸念には根拠がないとし、正確な技術を専門家の監督のもとで習得して漸進的な負荷で行うなら有効な種目だと述べました。この2件のどちらか一方を根拠に「深いほうが安全」「浅いほうが安全」と決めることはできません。
ここからは研究の結論ではなく、現場での扱いです。指導上は、深さを安全性の順位づけで決めるのではなく、その日にフォームを保てる範囲で決めています。沈む途中で骨盤が後ろに倒れるところが、その人の今日の深さの境目。丸まる手前に戻します。膝や腰に既往がある場合は、深さの判断も含めて医師等の専門家に相談したうえで進めてください。
膝が内側に入るときに、まず試すこと
膝が内側に入る動きは、自分では気づきにくい部分です。次のセットで正面から動画を1本撮ると、その場で確認できます。
関係するのは膝だけとはかぎりません。足首の背屈(すねが前に倒れる動き)の制限を模した実験(Macrum et al., 2012)では、健康な30名が前足部に12度のくさびを入れて両脚スクワットを行い、膝の最大屈曲角度が減り(P < .001、効果量 0.81)、膝が内側へ変位する量は増えました(P < .001、効果量 2.92)。これはくさびで制限を模した横断研究であり、足首の柔軟性を高めれば膝の動きが変わることや、この変化が痛みにつながることを示したものではありません。
ここからは現場での順番です。かかとが浮く人には、深さを浅くする・足幅を少し広げる・つま先の向きを調整する、といった順で試しています。足幅については、熟練者6名の表面筋電図の実験(Paoli et al., 2009)が近い話をしていて、大腿部の8つの筋のうち大殿筋だけ、もっとも広い足幅のときに活動が高いという結果でした。ただし、その場の筋の活動を測ったものです。広い足幅で続ければ大殿筋が大きくなる・強くなるところまでは示されていません。
動きの組み立て自体は単純で、順番はこうなります。
- 立ち位置:足幅は腰幅から肩幅程度、つま先はやや外向き。膝はつま先と同じ向きにそろえます。
- 沈む:息を吸ってお腹まわりに軽く力を入れ、股関節と膝を同時に曲げていく。胸の向きを保ち、体重は足の裏全体に。
- 立ち上がる:足の裏全体で床を押し、膝と股関節を同じテンポで伸ばします。
手順を1つずつ確認したいときは、バックスクワットの解説に写真つきの項目でまとめてあります。回数やセット数の考え方は走る人の筋トレ、何回・何セット・週何回?へ。
「膝はつま先より前に出さない」を確かめる
もっとも広く出回っている通説です。これを直接調べた研究があります(Fry et al., 2003)。トレーニング経験のある男性7名(27.9 ± 5.2歳)が、体重と同じ重さのバーベルでパラレルスクワットを2条件で行いました。膝が前へ出るのを許す条件と、木製のバリアで膝の前方移動を止めた条件。報告された静的な関節トルク(ある姿勢で関節を回そうとする力)は次のとおりです。
| 条件 | 膝のトルク | 股関節のトルク |
|---|---|---|
| 制限なし(膝が前に出る) | 150.1 ± 50.8 N·m | 28.2 ± 65.0 N·m |
| 制限あり(バリアで止める) | 117.3 ± 34.2 N·m | 302.7 ± 71.2 N·m |
表:膝の前方移動を制限した場合としない場合の静的トルク(出典: Fry et al., 2003)。両条件の差は有意でした(p < 0.05)。制限した条件では、体幹と下腿の前傾が大きく、膝と足首の内角も大きくなったと報告されています。トレーニング経験のある男性7名・体重相当の負荷での報告です。
読み取れるのは、膝の前方移動を止めると負荷が消えるのではなく、股関節側へ移るということです。著者らも、膝の前方移動を制限すると力が不適切に股関節と腰部の領域へ移されている可能性が高いと述べています。7名・体重相当の負荷・静的トルクの計算という条件つきの報告なので、「前に出したほうがよい」とも「出すと壊れる」とも、この研究からは言えません。膝が前に出ること自体を悪者にする根拠は、少なくともここには見当たらない、というところまでです。
息の止め方と、やめる判断
息を止めるべきかどうかも、よく聞かれます。健康な若年女性17名を対象としたランダム化クロスオーバー試験(Hummelmann et al., 2026)では、自体重・10RMの25%・10RMの50%という3つの強度で、挙上する局面に息を止める条件と呼吸を続ける条件が比較されました。息を止める条件では、心拍数・心拍出量・収縮期血圧・心拍数と収縮期血圧の積・主観的運動強度が高く、酸素摂取量と分時換気量は低下しています(心拍出量の p = 0.02 のほかは、いずれも p < 0.01)。著者らは「低〜中強度であっても、息止めは中程度の循環器系への負担と一時的な換気の低下を引き起こす」としたうえで、「健康な若年女性では、これらの反応は非危機的な範囲にとどまった」と述べています。17名・健康な若年女性・低〜中強度・その場の反応という限定つきの、単一の報告です。走る人を対象にしたものではなく、特定の呼吸のしかたを続けた結果を比べたものでもありません。
ここから先は研究の結論ではなく、現場での扱いです。走る人には「息を止め続けない、1回ごとに吐く」から入ります。この呼吸のしかたが検証されているわけではありません。血圧や心臓・血管に関わる持病がある方、いきんだときにめまいを感じたことがある方は、自己判断で息を止める方法を採る前に主治医にご相談ください。運動中や直後に強い動悸・胸の痛み・意識が遠のく(または失う)感覚がある場合は、直ちに運動を中止し、症状が強い・治まらない・意識がはっきりしないときは、周囲に助けを求め、救急要請を含めた緊急の対応をためらわないでください。これらは注意したい症状の例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません。
やめる判断についても、行わないほうがよい条件を体系的に検証した研究は、今回の調査では見当たりませんでした。以下は現場での扱いです。
- フォームが崩れた回で、そのセットを終える。回数を残していても続けません。
- 痛みの出る深さまで下ろさない。その日の深さは、痛みの手前で決めます。
- 疲労・睡眠不足・体調不良の日は重さを下げる。走練習の翌日に無理に重さを合わせに行かないほうが、結果として続きます。
- 一人で限界まで挙げない。安全バーやラックのない環境で、担いだまま潰れる可能性のある重さは扱いません。
そのうえで、線引きです。強い痛みで体重をかけられない、転倒などの外力のあとの痛み、変形や急な腫れ、しびれや力が入らない感じがある場合は、当日中を目安に受診してください。これらは注意したい状態の例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません。
数日たっても同じ場所が痛む、走っているときにも同じ痛みが出る。こうした場合も、続けながら様子を見るより、一度相談することを勧めます。走れる状態に戻していく順番は走りを再開するときに整える順番で扱っています。
まとめと、次の一歩
走る人を対象にフォームの変数を比べ、走りの結果まで追った研究は、今回の調査では見当たりませんでした。以下は、その前提での要点です。
- 深さは比較実験がある変数です。10週間の研究では、フルスクワットの1RMの増加がフル群 31.8 ± 14.9%・ハーフ群 11.3 ± 8.6% で有意差があり(p = 0.003)、ハーフスクワットの1RMには有意差がありませんでした(p = 0.132)(Kubo et al., 2019。男性17名)。
- 「膝はつま先より前に出さない」を検証した研究では、制限すると膝のトルクは 150.1 → 117.3 N·m と下がる一方、股関節のトルクは 28.2 → 302.7 N·m と大きくなりました(Fry et al., 2003。男性7名)。負荷は消えるのではなく移る、というのが読み取れる範囲です。
- 深さの安全性は決着していません。健康な膝にはパラレルを推奨するレビュー(Escamilla, 2001)と、深いスクワットのリスクへの懸念には根拠がないとするレビュー(Hartmann et al., 2013)が併存しています。どちらか一方を根拠に断定はできません。
- 足幅の違いで有意差が出たのは大殿筋だけで、6名・その場の筋電図の報告です(Paoli et al., 2009)。長期の変化を示したものではありません。
- 指導上は、その日にフォームを保てる範囲を深さの基準とし、痛みの出る深さまでは下ろしません。強い痛み・外力のあとの痛み・変形や急な腫れ・しびれや脱力がある場合は、この記事の範囲外です。医療機関にご相談ください(これらは注意したい状態の例であり、当てはまらなければ安全という意味ではありません)。
深さの正解は、数字で決めません。同じ人でも日によって骨盤の丸まる位置が動くからです。たとえば仕事帰りに30分だけ寄る日と、休みの日の午前とでは、同じ重さでも沈める深さが違います。数字を先に固定すると、その日の身体のほうを数字に合わせに行くことになります。
次のスクワットで、正面から動画を1本撮ってみてください。膝の向きと、骨盤が丸まる位置を自分の目で確かめるところから始められます。
関連リンク
- 前提となる総論:走る人の下半身筋トレ——最初に覚えたい3つの動作パターン
- 片脚種目の各論:ランジとスプリットスクワットは走りに効くのか
- 走りへの影響:筋トレでランニングエコノミーとバネはどう変わるか / 走る人の筋トレ、何回・何セット・週何回?
- 種目の動きを確認する:バックスクワットの解説 / スクワット系の種目一覧
- 痛みが出たあとの組み立て:走りを再開するときに整える順番
- フォームを一緒に確認したいとき:S&Cコーチングのご案内
参考文献
- Kubo, K., Ikebukuro, T., & Yata, H. (2019). “Effects of squat training with different depths on lower limb muscle volumes.” European Journal of Applied Physiology, 119(9), 1933–1942. doi:10.1007/s00421-019-04181-y
- Bloomquist, K., Langberg, H., Karlsen, S., Madsgaard, S., Boesen, M., & Raastad, T. (2013). “Effect of range of motion in heavy load squatting on muscle and tendon adaptations.” European Journal of Applied Physiology, 113(8), 2133–2142. doi:10.1007/s00421-013-2642-7
- Paoli, A., Marcolin, G., & Petrone, N. (2009). “The effect of stance width on the electromyographical activity of eight superficial thigh muscles during back squat with different bar loads.” Journal of Strength and Conditioning Research, 23(1), 246–250. doi:10.1519/JSC.0b013e3181876811
- Fry, A. C., Smith, J. C., & Schilling, B. K. (2003). “Effect of knee position on hip and knee torques during the barbell squat.” Journal of Strength and Conditioning Research, 17(4), 629–633. doi:10.1519/1533-4287(2003)017<0629:EOKPOH>2.0.CO;2(PubMed: 14636100)
- Escamilla, R. F. (2001). “Knee biomechanics of the dynamic squat exercise.” Medicine and Science in Sports and Exercise, 33(1), 127–141. doi:10.1097/00005768-200101000-00020
- Hartmann, H., Wirth, K., & Klusemann, M. (2013). “Analysis of the load on the knee joint and vertebral column with changes in squatting depth and weight load.” Sports Medicine, 43(10), 993–1008. doi:10.1007/s40279-013-0073-6
- Macrum, E., Bell, D. R., Boling, M., Lewek, M., & Padua, D. (2012). “Effect of limiting ankle-dorsiflexion range of motion on lower extremity kinematics and muscle-activation patterns during a squat.” Journal of Sport Rehabilitation, 21(2), 144–150. doi:10.1123/jsr.21.2.144
- Hummelmann, S., Kramer, M., Laufs, U., Fikenzer, S., Lässing, J., & Falz, R. (2026). “Breathing technique-dependent acute cardiopulmonary responses during squats in healthy females.” Physiological Reports, 14(6), e70831. doi:10.14814/phy2.70831
