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ランナーの​プライオメトリクス——ジャンプ系トレの​始め方と​注意点

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ジャンプの着地で膝を曲げる人の線画イラスト

走りの「バネ」を鍛えて、同じペースをもっと楽に運びたい。結論から言うと、プライオメトリクス(ジャンプ系トレーニング)は、走りの燃費に関わる要素を刺激する手段のひとつです。ただし単独での効果はごくわずかと報告されており、置きどころを間違えると負荷だけが残ります。この記事では、ジャンプトレーニングをどの回数・頻度で、どの順番で入れるかを、研究の報告と指導上の目安に分けて扱います。

では、何と組み合わせ、どこから始めるのか。持久系ランナーを対象としたメタ分析では、プライオメトリクス単独のランニングエコノミーへの効果量はごくわずか(ES=0.19)だった一方、筋力トレーニングと組み合わせた研究群では大きな効果(ES=1.34)が報告されています(Dudagoitia Barrio et al., 2023)。この差の読み方から始めます。

走りの​「バネ」を、​走る​ときより​高い​強度で​使う

プライオメトリクスとは、ジャンプやホップのように、筋と腱が急激に引き伸ばされた直後に一気に縮む動作を用いるトレーニングの総称です。この「引き伸ばし→縮む」の連続を、専門的には伸張−短縮サイクル(stretch–shortening cycle、SSC)と呼びます。

走るという動作そのものが、実はSSCの繰り返しです。着地のたびにアキレス腱やふくらはぎの腱が伸ばされ、衝撃を受け止め、その直後に縮んで力を返す。このバネのはたらきで、筋肉が新たに力を出さなくても推進力の一部をまかなっています。プライオメトリクスは、その動きを走るときより高い強度で意図的に反復する練習だと考えると分かりやすいはずです。狙いは筋肉を大きくすることではなく、腱の弾性を使う素早い力発揮と、着地で身体を支える剛性のほうにあります。

研究が​示す像は​「単独では​小さい、​併用で​大きい」

持久系アスリートを対象にトレーニング種類別の効果を統合したメタ分析(Denadai et al., 2017)では、爆発的トレーニング(ジャンプ系を含む)がランニングエコノミーを平均 −4.83%(値がマイナスであるほど改善)変化させたと報告されています。数字だけを見れば、有力な手段に見える。

一方、プライオメトリクスに絞って統合した系統的レビューとメタ分析(Dudagoitia Barrio et al., 2023。持久系ランナーを対象とした18研究、うち10研究をメタ分析)は、もう少し慎重な像を示しました。条件を分けたサブグループごとの報告値が下の表です。

条件効果量(ES)解釈
プライオメトリクス単独0.19ごくわずか(trivial)
筋力トレーニングと併用1.34大きい(large)
総セッション数 15回超1.00中〜大
実施期間 7週間超0.95中〜大
実施頻度 週2回超0.89中程度

表:プライオメトリクスのランニングエコノミーへの効果量(サブグループ分析)。効果量が大きいほどエコノミー改善の程度が大きいことを示す。対象は持久系ランナー。(出典: Dudagoitia Barrio et al., 2023)

表の4つの条件は、それぞれ独立のサブグループ分析です。「併用かつ15回超かつ7週間超なら1.34」という複合条件の話ではありません。効果量は集団のばらつきを1としたときの差の大きさなので、読み替えの目安として偏差値に置き換えるなら、0.19は約2、1.34は約13ぶん動く計算。ただしこれは持久系ランナー集団の平均像で、個々の市民ランナーの期待値ではありません。

エコノミーが良くなることと、タイムが縮むことも別の話です。中高年のレクリエーションランナー20名をプライオメトリクス群と筋力トレーニング群に分け、10週間・週2回鍛えた無作為化比較試験(Eihara et al., 2024)では、両群ともランニングエコノミー(酸素コスト)が2.0〜3.4%改善したと報告されています(プライオメトリクス群の効果量は g=−0.38〜−0.62)。ところが同じ期間に測った5kmのタイムには、どちらの群でも統計的に有意な変化は示されませんでした。10週間という期間や走り込み量など他の要因も関わるため、「エコノミーが改善したのだから速くなる」とは研究上まだ言えません。

ジャンプトレーニングの​回数・頻度の​目安と、​始める​順番

ここからは研究の結論ではなく、指導上の目安としてお読みください。ジャンプ系は着地に短時間で大きな負荷が加わるぶん、量より順番が先に来ます。

強度の低い順に並べると、縄跳びやその場での小さな連続ジャンプ、ラインをまたぐ左右・前後のジャンプ、といった「接地時間が短く衝撃の小さい」ものが入口。両脚での着地を落ち着いてコントロールできるようになってから、片脚のホップや、高さ・距離のあるジャンプへ進みます。BOXジャンプのように着地の衝撃を高さで抑えられる種目は、跳ぶ力を養いつつ着地負荷を管理しやすい選択肢です。

回数は、疲れ切るまで跳ぶのではなく、1回ごとの質(素早く跳ね返す・静かに着地する)を保てる範囲にとどめます。判断はごく単純で、着地の音が重くなってきたらその日はそこまで。体育館でも公園でも、跳ぶ音は自分の耳で聞こえます。頻度は週1〜2回程度から。強い走練習と同じ日は避けて置きます。

跳べる人ほど、順番を守るところから始めます。もともと運動能力が高く、いきなり高強度の跳躍をこなせてしまう場合ほど、土台づくりを飛ばして跳躍量だけが増えやすいためです。本講座でも、プライオメトリクスは「STEP3で扱う再開ランと故障予防の土台」「STEP5で扱う下半身の基礎筋力」を整えたあとに置いています。先ほどのメタ分析で併用群の効果量が単独より大きかったことは、この順番と方向性が合う結果ですが、あの研究は「先に筋力、あとからプライオ」という順序そのものを検証したものではありません。

走り始めたばかりの時期や、膝・アキレス腱に違和感が残っている段階では、跳ぶことより走る習慣と基礎的な筋力を先に整えるほうが着実です。既往症や関節の痛みがある場合は、自己判断で強い跳躍を始める前に医師等の専門家にご相談ください。回復の土台としての睡眠は走る人の睡眠、全体の負荷の見方は練習の「詰め込みすぎ」を数字で見る——ACWRという考え方で扱っています。

まとめと、​次の​一歩

引用したのは持久系ランナーや中高年のレクリエーションランナーを対象にした研究で、期間も10週間前後。誰にどの入り方が合うかを比べたものではないので、その範囲での話として読んでください。

  • プライオメトリクス(ジャンプ系トレーニング)は、走りの「伸張−短縮サイクル(SSC)」を高い強度で反復し、腱のバネと素早い力発揮を刺激するトレーニングです。狙いは筋肥大ではありません。
  • 持久系ランナーを対象としたメタ分析では、プライオメトリクス単独のランニングエコノミーへの効果はごくわずか(ES=0.19)だった一方、筋力トレーニングと併用した研究群では大きな効果(ES=1.34)が報告されています(Dudagoitia Barrio et al., 2023)。総セッション数15回超(ES=1.00)・実施期間7週間超(ES=0.95)・頻度週2回超(ES=0.89)も、それぞれ独立のサブグループの値です(複合条件の相互作用ではありません)。
  • 中高年のレクリエーションランナーでは、プライオメトリクスでランニングエコノミーが2.0〜3.4%改善した一方、5kmタイムには有意な変化は示されませんでした(Eihara et al., 2024)。エコノミーの改善はタイム短縮を保証するものではありません。
  • 着地の負荷が高いため、本講座では指導上の目安として、故障予防の土台(本講座STEP3)と下半身の基礎筋力(本講座STEP5)を先に整える順番を勧めます。既往症や関節の痛みがある場合は専門家に相談してから。
  • 始め方の一つの目安は「強度の低いものから・量は質を保てる範囲で・週1〜2回・強い走練習と別日に」。適した入り方には個人差があります。

今週の筋トレのあとに、縄跳びを30秒だけ足してみてください。着地の音が最後まで軽いままか、途中から重くなるか。そこが、いまの土台に対して跳躍量が合っているかの手がかりになります。

関連リンク


参考文献

  1. Denadai, B. S., de Aguiar, R. A., de Lima, L. C. R., Greco, C. C., & Caputo, F. (2017). “Explosive Training and Heavy Weight Training are Effective for Improving Running Economy in Endurance Athletes: A Systematic Review and Meta-Analysis.” Sports Medicine, 47(3), 545–554. doi:10.1007/s40279-016-0604-z
  2. Dudagoitia Barrio, E., Fernández-Landa, J., Negra, Y., Ramirez-Campillo, R., & García de Alcaraz, A. (2023). “Effects of Plyometric Jump Training on Running Economy in Endurance Runners: A Systematic Review and Meta-Analysis.” Kinesiology, 55(2), 270–281. doi:10.26582/k.55.2.11
  3. Eihara, Y., Takao, K., Sugiyama, T., Maeo, S., Kanehisa, H., & Isaka, T. (2024). “The Effects of Plyometric Versus Resistance Training on Running Economy and 5-km Running Time in Middle-Aged Recreational Runners.” European Journal of Sport Science, 24(12), 1820–1829. doi:10.1002/ejsc.12197
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人に対する医学的助言・診断・治療を目的とするものではありません。体調や既往症に不安がある方は、必ず医師等の専門家にご相談ください。運動実施による結果には個人差があり、効果を保証するものではありません。

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