走る時間は減らしたくない。そのうえで、筋トレも生活のどこかに置きたい。そう考えているランナーに向けて、この記事では週2回を起点にしたメニューの組み方を示します。ゴールは、誰かの練習表を写すことではなく、自分の目的と使える時間から1枚を組み立てることです。
連載「走る人の筋トレ」のまとめ回にあたる記事です。新しい効果をここで約束することはしません。これまでのステップで扱った研究の範囲内で、計画を立て、書き、見直すための道具だけをお渡しします。
まず、何のために足すのかを決める
走る人の筋トレは、大きく2つの目的に関わって報告されてきました。走りの燃費(ランニングエコノミー)を底上げすること。もうひとつは、故障を防ぐ土台をつくることです。報告されている数値の中身は、下の表にまとめました。
| 何のために | 報告されている数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 走りの燃費(ランニングエコノミー)を底上げ | 高度に訓練された中長距離ランナーで大きな改善効果(統合SMD −1.42、95%CI −2.23〜−0.60)。プログラムは週2〜3回・8〜12週 | Balsalobre-Fernández et al., 2016 |
| 燃費への効き方(トレーニング種類別) | 爆発的トレーニング −4.83%(95%CL ±1.53)/重い筋トレ −3.65%(95%CL ±2.74)。いずれも対照群との変化率の差で、±は95%信頼限界(等尺性単独は明確な差なし) | Denadai et al., 2017 |
| 故障予防 | 混合集団(12〜40歳)のメタ分析でスポーツ外傷リスク比 0.338(95%CI 0.238〜0.480)と、外傷リスクの低下に関連。量が多いプログラムほど予防効果が大きい用量依存の傾向 | Lauersen et al., 2018 |
表:連載で引用した主要な研究の報告値の要約。SMD(標準化平均差)はマイナスが大きいほど、変化率はマイナスが大きいほどエコノミーの改善を示す。リスク比は1.0より小さいほど外傷が少なかったことを示す。リスク比0.338は、比較群で10件起きていた外傷が、およそ3〜4件だったという比の大きさにあたる。対象はいずれも研究ごとに異なる集団(多くは訓練されたランナーや各種競技者)で、市民ランナーの初心者に限定したものではない。(出典: Balsalobre-Fernández et al., 2016 / Denadai et al., 2017 / Lauersen et al., 2018)
研究が示しているのは、対象になった集団を平均すると、筋トレがエコノミーの改善や外傷リスクの低下と関連していたということです。あなた個人がこの通りに変わることを示した数値ではありませんし、市民ランナーの初心者だけを見たものでもありません。
ここからは研究の結論ではなく、指導上の目安としてお読みください。週の組み方は、この2つの目的のどちらを重く見るかから決めます。燃費側に寄せるのか、故障予防側に寄せるのか。それによって、選ぶ種目も回数も変わってきます。
週2回を起点に、目的とレベルからメニューの組み方を決める
ACSM(アメリカスポーツ医学会)のポジションスタンド(Ratamess et al., 2009)は、健康な成人のトレーニングを初級・中級・上級の段階に分け、段階ごとに量と強度を選ぶ枠組みを示しています。全員が同じメニューから始めるわけではない、という発想がもとになっています。
下の表は、目的とレベルから週を組み立てるための一例です。そのまま当てはめるメニューではなく、「自分の場合はどうか」を考えるためのたたき台として眺めてください。
| 状況・目的の例 | 筋トレの回数の一例 | 力点の置き方 | 進め方の一例 |
|---|---|---|---|
| 走りを再開したばかり/筋トレ未経験 | 週1〜2回 | 基礎的な筋力と、体幹・片脚での安定 | 自重〜軽い負荷から。走練習とは別日か、軽い走りの日に合わせる |
| 走り込みは続いていて、燃費を底上げしたい | 週2回程度 | 重い筋トレを中心に、土台ができてから爆発系を一部 | Balsalobre-Fernández et al., 2016 が対象とした「週2〜3回・8〜12週」の設計を参考に、少しずつ負荷を進める |
| 故障をくり返しやすい | 週2回程度 | 弱い部位の補強と着地を支える力 | 量を増やしすぎず、痛みが出ない範囲を優先。負荷の急増を避ける(例示であり、研究由来のメニューではない) |
| レースが近い | 頻度は維持・量は控えめ | 神経系の刺激を残しつつ疲労を溜めない | 高負荷は間隔を空け、走練習の質を優先する |
表:目的・レベル別の週の組み立ての一例(例示であり、そのまま当てはめるメニューではない)。回数や力点は個人の状態・故障歴・使える時間によって変わる。「Balsalobre-Fernández et al., 2016 の設計」の部分のみ研究由来で、それ以外は組み立て方を考えるための整理。
研究に由来するのは「週2〜3回・8〜12週」という条件の部分だけです。高度に訓練されたランナーを対象にした研究(Balsalobre-Fernández et al., 2016)で、引用された研究群が採用していた頻度と期間であって、その頻度が最適だと比較検証したものではありません。残りの回数や力点は、目的から逆算して考えるための整理にすぎません。
ですから「週何回が正解か」を探すより、「いまの体と時間で続けられる回数はどこか」を決めるほうが現実的です。仕事が立て込んだ週にも残る回数。それがその人の実際の頻度になります。
種目は4つの動きから選ぶ
枠が決まったら、種目を当てはめて自分の練習表を1枚作ります。走る人が筋トレで得たい変化は、必ずしも大幅な筋肥大を伴わない可能性があり、持っている筋をどれだけ動員できるか、着地で身体をどれだけ支えられるかといった側面が関わると考えられています(筋力の重要性に関する一般的な整理として Suchomel et al., 2016)。動作パターンでそろえると、迷いが減ります。
- 膝主導(スクワット系):立ち上がる、支える力の土台
- 股関節ヒンジ(デッドリフト系):地面を押す、後ろ側の力
- 片脚(スプリットスクワット・ランジ系):走りに近い、片脚で支える力
- バネ系(ジャンプ・プライオメトリクス):腱の弾みを使った素早い力発揮
それぞれの動きはエクササイズガイドで確認できます。「故障予防に効く種目」「燃費を狙う種目」というように目的から探したいときは、逆引きガイドが入口です。選んだ種目を、決めた回数に割り振る。それが最初の1枚になります。
作り方は素朴で構いません。ノートでも表計算ソフトでも、「曜日 × その日にやること」を並べるだけで機能します。凝った表よりも、実際にやったことを書き込める余白があるほうが、次の見直しで効いてきます。走練習の強度を言葉にするのに迷う方は、ダニエルズのランニング・フォーミュラの書評も助けになります。
書いて、見直して、少しずつ寄せる
計画は、立てた瞬間が完成ではありません。土台にあるのは漸進性、つまり少しずつ負荷を進める原則で、先のポジションスタンド(Ratamess et al., 2009)でも段階的な進行が中心に置かれています。ただし、毎週重くするという意味ではない。走練習が増える時期は筋トレを抑え、疲れが残る週は無理をしない。走りと筋トレを合わせた負荷が急に跳ね上がらないよう調整するほうが先です。
その跳ね上がりを俯瞰する道具としては、直近の負荷を数週間の平均と比べる見方があります。詳しくは練習の「詰め込みすぎ」を数字で見る——ACWRという考え方で扱っています。計算方式によって目安の数値が変わるため、ここで特定の閾値は並べません。加えた刺激が力になるのは休んでいる間で、その質は睡眠に大きく左右されます(ランナーと睡眠)。記録を見返すときは、こなせたかどうかより、翌日に疲れが残りすぎていないか、痛みの兆しはないかを眺めてみてください。
ここでは、計画の細かさより「続くこと」を優先します。最初から週3回・種目もフルセットで組んだ計画は、走練習が忙しくなった週にまるごと崩れ、そのまま自然消滅しやすいからです。だから、物足りないくらいの量から始めて、2〜3週間続いたら少し足す、という進め方を勧めます。記録は、ノートの隅に「やった/やらなかった」の丸印だけ書く形でも構いません。
最後に線引きを。ここで扱ったのは、健康な状態から走り続けるための計画づくりの考え方であって、いま出ている痛みの診断や治療の話ではありません。走ると痛む、腫れがある、走るたびに痛みが強くなる。そうした場合は、計画を続けるより先に整形外科などの医療機関にご相談ください。自分の条件に合わせて設計を一緒に組みたい方は、S&Cコーチングやランニングコーチングでもお手伝いしています。
まとめと、次の一歩
紹介した数値は研究ごとに異なる集団の平均であり、個人の結果を予測するものではありません。そのうえで整理すると、次のようになります。
- 走る人の筋トレは、大きく2つの目的に関わって報告されてきました。走りの燃費(ランニングエコノミー)を底上げすること。もうひとつは、故障を防ぐ土台をつくることです(Balsalobre-Fernández et al., 2016/Denadai et al., 2017/Lauersen et al., 2018)。
- 週の組み方は、レベルと目的から考えます。研究に由来するのは「週2〜3回・8〜12週」という条件の部分だけで、最適性を比較検証したものではありません(Balsalobre-Fernández et al., 2016)。
- 種目は動作パターン(膝主導・ヒンジ・片脚・バネ系)でそろえると、迷いが減ります。目的から選ぶなら逆引きガイドが入口です。得たい変化は必ずしも大幅な筋肥大を伴わない可能性があり、動員や剛性といった側面が関わると考えられています(Suchomel et al., 2016)。
- 「週何回が正解か」を探すより、「いまの体と時間で続けられる回数はどこか」を決めるほうが現実的です。漸進性(Ratamess et al., 2009)を土台に、走りと筋トレを合わせた負荷が急増しないよう調整します。
- 痛みがあるときは、計画を続けるより医療機関の受診を優先してください。
来週の予定表に、筋トレの枠を2つだけ書き込んでみてください。種目は逆引きガイドから1〜2個。2〜3週間続いたら、そこから足すかどうかを考えます。
関連リンク
- 連載のはじまり:ランナーに筋トレは必要か——研究が示していること(なぜ必要かの全体像)
- 計画を見直すための関連記事:練習の「詰め込みすぎ」を数字で見る——ACWRという考え方 / ランナーと睡眠 / ダニエルズのランニング・フォーミュラ(書評)
- 種目を選ぶとき:エクササイズガイド / 目的から種目を探す:逆引きガイド
- 自分の条件で設計を組みたいとき:S&Cコーチングのご案内 / パーソナル指導(S&C/ランニング)のご案内
参考文献
- Balsalobre-Fernández, C., Santos-Concejero, J., & Grivas, G. V. (2016). “Effects of Strength Training on Running Economy in Highly Trained Runners: A Systematic Review With Meta-Analysis of Controlled Trials.” Journal of Strength and Conditioning Research, 30(8), 2361–2368. doi:10.1519/JSC.0000000000001316
- Denadai, B. S., de Aguiar, R. A., de Lima, L. C. R., Greco, C. C., & Caputo, F. (2017). “Explosive Training and Heavy Weight Training are Effective for Improving Running Economy in Endurance Athletes: A Systematic Review and Meta-Analysis.” Sports Medicine, 47(3), 545–554. doi:10.1007/s40279-016-0604-z
- Lauersen, J. B., Andersen, T. E., & Andersen, L. B. (2018). “Strength training as superior, dose-dependent and safe prevention of acute and overuse sports injuries: a systematic review, qualitative analysis and meta-analysis.” British Journal of Sports Medicine, 52(24), 1557–1563. doi:10.1136/bjsports-2018-099078
- Suchomel, T. J., Nimphius, S., & Stone, M. H. (2016). “The Importance of Muscular Strength in Athletic Performance.” Sports Medicine, 46(10), 1419–1449. doi:10.1007/s40279-016-0486-0
- Ratamess, N. A., Alvar, B. A., Evetoch, T. K., Housh, T. J., Kibler, W. B., Kraemer, W. J., & Triplett, N. T. (2009). “American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults.” Medicine and Science in Sports and Exercise, 41(3), 687–708. doi:10.1249/MSS.0b013e3181915670
